12話 羊皮紙の伝言
アニメとかゲームだと、大体目標が半分くらい達成されると話も佳境に入るというか、中ボスみたいなものが出てくると思うんだけどな……。
思いのほかあっさりと悪霊は倒されてくれて……というか、大体本当にアシュタムが強過ぎるのと、私が悪霊が眠っている昼間の間に人間の方を見つけて、人間が見つけられた繭だけ駆除をしに行くという堅実すぎる手法を取っているので予想以上の速さで彼の封印は順調に完全に外れつつある。
これ、夢で見たあの金髪の人からしても予想外のことなのかな……と授業中にもかかわらずボーっと私は物思いにふけった。
あと二回。あと二回それを繰り返せば全部が終わってしまう。
そうしたら、「お前であることを誇れ」と言ってくれた彼は遠い世界に帰ってしまう。
たった数か月一緒にいただけなのに、アシュタムという存在は私にはなくてはならない大切な支えになっていることに気が付いた。
きっと、アシュタムからすれば、目の前にいた、たまたま弱っている個体を、目についたからって理由で、あの王様という属性に備わった慈悲とか徳的なものでちょっと手助けしただけにしか過ぎないだろうに……。
願いをなんでも叶えてくれるといったアシュタムに、あなたといた時間の記憶を全部消してくれと言ったら、また彼は呆れたような、悲しんだようなそんな顔をするのかな。
そんなことを考えながら授業を終えた私は足取りを重くして帰りの準備を始めた。
ぼんやりとしながら靴箱を開けた私は、ローファーの上に置いてある見慣れない名刺サイズのなにかに目を奪われた。
手に取ると少し硬くて分厚い、黄色みがかった紙のようなものには、とても丁寧な字でこう書かれていた。
【紅き魔術師様
今夜
慈烏公園といえば、学校からそう離れていない場所にあるそこそこ広い池のある公園のことだった。
こんなところに書置きをするってことは学校のだれかだろうか。
私が一人で考えていても仕方ない。アシュタムに聞いてみた方がいいかもしれない。
私は駆け足で家へと向かい、家に帰るなり、彼の名前を呼んだ。
アシュタムは日向で昼寝でもしていたのか、ゆっくりと窓際のほうから姿を現す。最初は眠そうな目をしていたけど、私の手に持っているものを見ると急に険しい顔つきになる。
私は下駄箱を開けると入っていたという説明をしながら、例のものをアシュタムに差し出した。
「わざわざこの世界で羊皮紙に言伝を書いてくるとは。随分凝った演出をする者がいるものだな……」
鼻をひくつかせてアシュタムは険しい顔のままそういう。
羊皮紙……なんか聞いたことがあるけど昔の紙の代わりに使われいたものだっけ。授業をもう少し真面目に聞いておけばよかったなーってちょっと後悔する。
「魔術師と書いてあるのも気に食わなければ、オレではなくお前が魔術を使うと思われているのも気に入らない。無視をしてオレのいないときにお前に何かをされるのも困る。会いに行ってやろうではないか」
魔術と魔法ってちがうんだ? と今さらっぽい疑問を思い浮かべながら、私は鼻を鳴らしながら少し怒り気味のアシュタムの頭を撫でた。
彼はそんな私のことを目を細めて見つめると、手のひらに頭を押し付けて甘えるそぶりをする。
これは彼が犬だから、ついしてしまう行為なのか、少なからずとも今私にそういう行動をしてくれるくらい心を許してくれているのかわからなくて、少し戸惑いながらも、私はそれに応えるように、腰を下ろし、目を合わせながらアシュタムの頭から鼻筋へと手を滑らせ、鼻先を撫でると、そのまま顎の下から喉をゆっくりと撫でた。
彼は満足そうに眼を閉じると私の膝の上でごろりと横たわり寝息を立て始める。
夜に備えて眠らせておいてあげよう……と、私はそっとアシュタムを起こさないように席を立つと、学校の課題をこなす為に自分の部屋で机に向かった。
※※※
お母さんからは、今日も残業なので適当にごはんを食べておいてと連絡がきた。
正直ほっとしながら私は、適当になにかをつまみ、アシュタムにもごはんをあげる。
でも、彼が帰った後は、この日課もなかったことになって……また両親と一緒にいる時間が増えるのか……と考えて気が重くなり、両親から逃げる理由にアシュタムを利用している自分に嫌気がさす。
今日も私は、お母さんの帰宅時間と入れ違いになるようにアシュタムと家を出た。
慈烏公園まではそんなに遠くなく、ゆっくり歩いても二十分くらいの距離にある。
公園へと続く桜並木の、大きくなり始めた桜のつぼみを眺めながら、小さいころはよくここで遊んだななんてちょっと懐かしく思いながら、私は公園の門にある小さな烏が口を開いている形の石像を撫でていると、こちらに足音が近づいてきた。
人もそう多くない夜の公園で近づいてくるなんて多分私を呼び出したあの言伝の主だろうと私は警戒しながら足音がする方へとゆっくり視線を上げる。
「……へぇ。本当にふつうの女の子みたいだね。魔術師には見えないけど」
私のことを値踏みするみたいにじろじろと見ながらそういったのは、ライトブラウンの髪の端正な顔立ちの男性だった。
ニコニコと胡散臭い笑顔を浮かべながらこちらに近づいてくるその小柄な男性は、なんとなく異国情緒を感じさせるふわふわとした髪型をしている。
「誰なんです?」
私はなるべく怖がらないように、強気に見えるように精一杯声を低くしてそう言った。
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