タイトルに込められたひとつの思いを知るとき、胸の奥に確かな熱が芽生える

恥ずかしながら時代物の小説を読むのは初めてだったのですが、冒頭でのヒロイン結衣さんの危機とそれを救う相模さんの二度の出会いに引きつけられ、舞台となる榮屋とそこに出入りする人々を眺めているうちに、気づけば夢中で物語を追っていました。

物語が、よいです。
お兄さんを探しに田舎から出てきた結衣さんが、ひょんなことで奉公人として働くことになった旅籠と口入屋をかねた榮屋で頑張っていく、という親しみやすいお話に、自分を助けてくれた相模さんに対する恋心と、失踪したお兄さんに関わる大きな事件というふたつの流れが加わって、物語の続きへ、続きへと誘ってくれました。

健気な結衣さんと人情に溢れた相模さんをはじめ、肝っ玉お母さんの沙也さんと孤高の美人小督さん、榮屋に出入りする三人組の男性たち。物語の中心にいる人たちがみな魅力的で、ついつい応援したくなってしまいます。
結衣さんや相模さんと対比するように描かれた、最後まで現実が見えていないお兄さんの賢太郎さんと許嫁の奈津さんにまでそう思ってしまうのは、相模さんの懐の深さの影響でしょうか。

ここに、人々の息遣いや江戸の町並みの賑わいを感じさせてくる文章まで加わるのですから、おもしろくないわけがありません。
天保の北千住の気配に浸りながら、撫子踏まずに焔を背負えというタイトルの意味が明かされるところまで、読んでみてください。そこに込められた思いの熱量を、胸の奥に感じられるはずです。

その他のおすすめレビュー

望月結友さんの他のおすすめレビュー41