十六番目の物語を読みおえたあとの読後感が、まだ胸の奥でやわらかな熱を放っています。
外殻で覆われた惑星群を舞台に、そこに暮らす人々の暮らしを描いたオムニバスには、まだ見ぬものや手の届かないもの、失われてしまったものへの憧れが綴られていました。
それぞれの物語を繋ぐのは、ひとりの天才女性科学者と、かつて暮らしていた惑星を逃れて移民してきた彼らの歴史です。
断片的に提示される情報が、作品を読みすすめるに従って繋ぎあわされ、女性科学者と惑星ゼロについての真実が明かされるとき、彼女と彼の歩いた長い長い道のりが、そして遠い遠い未来が目の前にひろがりました。
この読後感こそが、この作品の一番の魅力です。
慌てて読んでは勿体ないです。
ひとつひとつのお話をじっくりと味わって重なりあう部分をみつけ、ときには後戻りしながら最後まで読んでください。きっと切なくも優しいが心に満ちるはずです。
私が修士課程を修了して8年になる。
研究の道に今も未練を持っている。
だから遠い未来の研究者たちの物語に心を惹かれた。
研究対象「宇宙」への複雑な想いにひどく共感した。
いつか遠い未来、人類が「旧星」を離れた後のこと。
多角形状に惑星が連結された「コートリア惑星群」。
外殻に覆われた環境は機械仕掛け。自然は存在しない。
「宇宙」は再び人類の手の届かないものとなっている。
『惑星#0』はそんな遠未来を舞台とする短編連作だ。
主人公は存在しないが、一貫して登場する人物がいる。
アキホ・F・フェリノルダ。
「ゼロ」について知る、謎多き美貌の科学者である。
宇宙工学、クローン製造、旧星時代の生物の再現など、
各々の研究テーマに向き合う人々のひたむきな情熱が、
ときに眩しく、ときに物悲しく、ときにユーモラスに、
実に生き生きと描かれて、遠未来の情景が身近に迫る。
独立した短編を読み進めるうち、次第に像が結ばれて、
読者はゼロの真相に近付いていく。そして真相を知る。
物語を紡ぐ文章の性質がそう感じさせるのだろうか、
なんて繊細でやわらかくせつない物語だろうと思った。
旧星から人々がコートリア惑星群に移住して、200年。
場所も存在自体も不明の、謎の「惑星ゼロ」があると噂されている。
天才科学者アキホ・F・フェリノルダは、ゼロを知っていると言うが。
惑星群のさまざまな星を舞台に、直接には絡まない人々の物語。
皆がそれぞれの場所で楽しく、懸命に、日常を送っています。
イルカの研究で脱線している教授たちとか。
ツイストドーナッツの科学者の変人っぷりとか大好きです。
ショウレちゃんと、全然気づいてもらえてないクルエ君も青春でいいですね!
しかし、全ての中心にいるのはフェリノルダ所長。
最後まで読んで、真相を知ったとき。
先人たちが、これほどの思いで作り出した、コートリア惑星群の。
全ての人々が幸せであってほしい、と願わずにいられないのです。
地球滅亡後、人類が移住した惑星群で存在すらも定かではない惑星ゼロと、存在自体が謎に包まれている天才・アキホさんを巡る物語です。はるか遠い未来の物語ですが、あちこちに散りばめられた日本の文化が、和風好きにはたまりません(真顔) イルカを育てている教授が可愛いです。あと、SFのくくりでも、未来技術よりも日常に焦点をあてている話の方が個人的には好きなので、ぐっとツボを抑えられました。
最終話で明かされた真実が衝撃的すぎてなんとコメントしてよいものか。改めて読み返してみると、「ゼロを背負う覚悟」「真実は重くて見苦しい」などの言葉に頷かざるをえず。あまりに衝撃的すぎて、つい最初から読み返してしまったほどで、今更ながらに「彼」の名前に気がついたとかなんとか。
恐らく二人とも後悔してはいないのだろうとは思うし、それが当時彼らにできた最善の決断だったのだろうとは思うのだけれども、とにかくいたたまれない。アキホさんではないけれど、いつか誰かに興味を持ってほしい、自発的に知ってほしいと、切に願わずにはいられません。