第30話

「おはよー、リョータ」

翌日の月曜日、通学途中の電車の中で亮太はタローに声をかけられた。いつも出会うと燕の子のようにピーチクパーチクけたたましく喋りだすタローは、亮太があいさつを返すとふにゃりと笑うだけでそのまま沈黙した。思わず「元気ないな? 」と尋ねれば、あくびを一つ噛み殺し、「ゲームやりすぎた」とぽつりとこぼすとタローはしょぼしょぼした目で窓の外に視線を移し再び黙った。車内がなんとなく静かになり手持無沙汰になったので亮太も車窓から流れる景色になんとなく目をやる。空はどんよりと曇っていてそのうち雨が降りそうだ。


とりあえず新堂からの告白に対する返事は保留にしてもらった。

「ここでOKを出せばゲームをクリアするんじゃないか」と正直ラッキーだと思った事は事実だ。だが何かが引っかかって即了承する事はやめておく事にした。


スポーツショップで別れ、帰宅してから「何」に引っかかるのか考えてみたが一向に分からない。折り目正しい態度、きちんとした話し方と言った新堂の人となりからして軽いノリで告白するタイプには見えない。自分に対する思いも本物だろう。


その割には何か__、そうだ。亮太は出会ってからの新堂の顔を思い浮かべる。眉根に寄せたしわ、熱のこもった瞳、

彼の表情はいつも切羽詰まった感じがするのだ。


何かに焦っている。焦って俺と付き合わなきゃいけない理由があるのだろうか。近々故郷から両親がやって来て見合い話を持ってくるとか。そんなドラマみたいな展開もないだろう。第一男同士だからそこで仮に、お付き合いがしている人がいて、と自分を紹介しても何のストッパーにもならない。代理を立てるなら女性の筈だ。


早く恋人を作らなきゃいけない理由ってなんだ。他に何がある。

世間体および両親への報告の可能性はたった今消えたとして。他にあるとすれば他人への見栄だが__。

ここで亮太は再び新堂の姿を思い浮かべた。整った顔立ち、高い身長に高そうな仕立ての良い服。以前連絡先をもらった名刺には自分でも知っている大企業の名前が印字されており、すでに色々と恵まれた状況にいる新堂が一介の高校生と付き合っていると言うだけで誰かに見栄をはれるなんて思わないしはる必要もないと思えた。


「あー、わっかんねー」

とりあえず理由が判明しないうちは返事は保留だ。

亮太は新堂に関してはしばらく保留にしたまま理由を探る必要があると結論づけた。

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