第13話

タローは隣の市に住んでいるようで、同じ方向の電車に乗った後、途中の駅で降りて行った。少し元気を取り戻した風なのは良かったが、降り際に「じゃーね、リョータ。大好き~」と大声で言うのはやめてほしい。


さらに先の駅で降り、駅から自転車で自宅へと帰る。玄関に入って扉を閉めた途端、誰もいない我が家でもなんだかやけにほっとした。肩の荷がどっとおりた気がする。異世界に来てからの初登校、精神的に疲れたが一週間もすれば慣れるだろう。

私服に着替え、夕飯用に買っておいた冷凍グラタンでもあたためようかな、と冷凍庫を漁っていたらチャイムが鳴った。玄関をそっと開けると、割烹着をつけた細身で人の好さそうなおばさんが、「佐藤ですー」と笑顔で話しかけてきた。猛スピードで記憶を手繰り寄せる。たしか日曜日に回覧板を渡しに行った、母親いわく「おとなりの佐藤さん」だ。

あわてて何か言おうとするより早くおばさんは、

「亮太くん、今晩おばさんちでご飯食べない?」と切り出し、

「いつもいつも一人でご飯、大変でしょう?お母さん達からは聞いてるから。たまには一緒にご飯食べましょ。たくみもいるから、遠慮しないで、ね?」と俺が口を挟む間もなく畳みかけた。確かに毎食レトルトはちょっと辛かったところだ。この世界では小さい頃から佐藤さんちにはお世話になっていたらしいし、お邪魔する事にした。


「おじゃま、します・・・」

「ごめんねぇー、散らかってるけど気にしないでね」

玄関で履物を脇にどけるおばさんに遠慮しながら家に上がり、リビングルームまで案内されると、あたたかな空気と共にテーブルの上にある鍋料理が出迎えてくれた。

「おとうさん出張だし、二人で鍋囲むのも寂しいしねぇ。亮太君いっぱい食べてね」

「あ、ありがとうございます!」

ぐつぐつと湯気を出す出汁の中には、溢れんばかりに白菜、白ネギ、人参、しいたけ等の野菜とエビやタラ、ホタテの魚介類、くずきりや肉だんごが詰まっている。

鍋ってなんでこんなに豪華に見えるんだろうと感動していると、おばさんが奥に向かって、たくみー亮太君来たわよーと声をかけている。

「巧も最近大学が忙しいみたいだし。亮太君会うのは久しぶりでしょう?」

おばさんの声は俺にはほとんど届いていなかった。

目の前に現れた男が王子だったからだ。


「久しぶり、亮ちゃん」

180センチ近い長身、色素の薄い茶色がかった瞳とさらさらの髪、タローを大きくした感じとはまた違う。ぴんと伸びた背筋にさわやかな声でゆったりとした雰囲気だ。

犬に例えると、タローがトイプードル系美少年とすると、この巧くんとやらは背が高くて顔の長いあれだ、アフガンハウンド系王子様だ。

「会えて嬉しいな。学校、忙しいの?」うながされて食卓につきながら、

「あ、はい」と言うと、隣に座ったおばさんに

「やだあ借りて来た猫みたいに!遠慮しなくていいんだからあー!」とばしっと背中を叩かれてしまった。目を白黒させていると、正面に座った巧に綺麗な笑顔で「いつも通りでいいよ」と言われてしまう。

いつもってなんだと焦りながらも試しにため口で話すと二人から変な反応はなかった。どういう態度を取っていいのか手探り状態の中、言葉少ないながらもなんとか巧とおばさんの質問に答え、終始朗らかな二人のおかげで、和やかに時は過ぎて行った。










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