第3話

なんだか意味がわからないが、大筋は、これだと思った男性と愛情を育み、告白されてこちらも承諾したらゲームクリア。ただし相手が本当に自分に惚れていた場合に限る、と。

「・・・そうじゃない場合もあるって事か」

どういう意味だろう。トラップでもあるのだろうか。それにもう一つ気がかりな事がある。俺は説明文に書かれていた「これだと思った男性と」の部分をもう一度読んだ。


俺がゲイってなんで知ってるんだ。両親にはまだカミングアウトしてないし、言った人は限られている。まさかその人達のうちの誰かがこれを仕掛けたのかと一瞬考えたが、頭に浮かんだ親戚の従兄妹や親友、ゲイの知人達の人のよさそうな笑顔から、どう考えても良識的な彼らがこんなはた迷惑なゲームに俺を巻き込む意味がわからなかった。

これを仕組んだ犯人捜しは一旦置いておこう。とりあえず今やるべき事は、このマニュアル内で説明されているこの世界に存在しているアメリカ赴任中の親に連絡を取り、当面の生活費などこの世界で一人生活するためのノウハウを聞いておくことだ。

早速スカイプを使い、ロサンゼルスに赴任中と言う両親に連絡を取った。ifの両親はどんな人達なのかと一瞬緊張したが、パソコン画面に映された両親はいつも通りの様子で肩透かしを食らうと同時に安心した。母親は「渡航前に散々説明したのに忘れちゃったの?」とあきれながらも、多少の現金が入った封筒と通帳とATMカードに印鑑、通帳の暗証番号と緊急連絡先の書かれたメモ用紙の場所を伝え、他にガスや水道等の毎月の支払いなどこまごました事を丁寧に説明してくれた。

「もしちょっとした事で困ったことがあったら、佐藤さんのおばさんに相談するのよ」

「佐藤さん?」

「ほら、お隣さんの。亮太がちいさい頃から巧(たくみ)くんと遊んでたじゃないの」

「たくみくん?」

「ちょっとやだ、どうしたのよ今日は。巧くんとは今も仲良くしてるじゃない。そうそう、回覧板が回ってきたらちゃんと〇(まる)を書いて佐藤さんに渡してね」

はあ、とあいまいに答え、スカイプを終わる前に画面の両親に手を振りながら俺の脳内はフルスピードで記憶をたぐっていた。お隣は山田さんだったから、佐藤さんもきっとこの世界でのみの住人なんだろう。巧くんもさっぱり心当たりがないが、設定ではずっと仲良くしてもらっているらしいから、何か困った時には相談してもいいかもな。


連絡を取れる友達もバイト先も突然なくなってしまった俺は、急にする事がなくなってしまった土日を食料品を買ったり、ついでに近所を自転車で散策して前の世界と現在の世界の違いを確認するなどしてのんびりと過ごした。

とりあえずご近所も前の世界で俺が知っている人達はいないようだ。


どうしてもこの新しい世界になじませたいようだな。

日曜日の夜、大体をなんとなく把握した俺は学校がどんな風になっているのかを少し不安に思いながら床についた。


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