第4話
翌朝はいつもよりかなり早めに目が覚めた。緊張しないようにと思いながら就寝したのだがやはり無理なものは無理だ。これから起こしてくれたり食事を作ってくれる親がいないというプレッシャーと、学校はどんな様子なのかと言う不安の中で平常通りに行動するという事が無茶だと言うものだ。
普段と違ってさっさとベッドから起き上がるとすぐに着替えを済ませた。時間はたっぷりあると分かっていながらも、なんとなく焦り何度も壁時計を見ながら昨日買ってきたレトルトハンバーグを電子レンジで温め、トーストを焼き、カップスープをお湯で溶いてそそくさと朝食を取った。
TVのニュースをつけても何も頭に入ってこない。しばらくして俺はニュースを見る事は諦めてTVのスイッチを切り、早めに登校して学校の様子を見ようと家を出た。
高校までは、自宅から最寄り駅まで自転車で行き、そこから電車に乗って数駅で降りる。駅から10分弱歩けばめざす学校だ。早い事もあって、通学路に同じ制服を着ている生徒はあまり見かけない。大体見かけたとしても、知っている者が一人もいないのだからこの世界で友人なのかどうかもさっぱり分からない。そのため同学年かどうかも判断がつかないのだ。声をかける事もできず、とりあえず周りの生徒達を注意深く観察しながら学校の校門に近づいた。
「芦屋、珍しく早いな」
校門をくぐった途端、横から急に出てきた一人の男性に声をかけられ、俺は心臓が止まるかと思った。思わず出そうになった声を飲み込みながら、目の前の男性を上から下までまじまじと見つめた。グレーのジャケットに同色のスラックスを合わせ、ジャケットの中は黒色のタートルネックを着ている三十代後半から四十代前半らしい背の高い男。少し癖のあるウェーブがかった黒色の髪と、切れ長の瞳がきれいなちょっと冷たそうなイケメンだ。きちんとした格好から教師だろうとぴんと来た。来たが、名前と担当科目が当たり前だが全く分からない。俺の苗字を読んだことから俺の学年の教師ではあるだろう。まさか担当だろうか。何も分からないのにどういうリアクションを取ったらいいのだろう。
黙ったまま突っ立っているのは怪しまれるので、とりあえず無難に「おはようございます」と言って軽く会釈したまま男の傍を素早く通り抜けようとした。しかし男は「つれないな」と右腕を差し出し、あろうことか俺の腰を抱いてぐいと引き寄せた。
「はあ!?」
「お。やっといつものに戻った」
仰天して思わず肩越しに見上げた視線の先に、男が面白そうに笑う顔があった。意外と素直に嬉しそうに笑う瞳に一瞬どきりとする。一見冷たそうだと思ったが顔の造作がそう見えると言うだけで怖そうな教師ではないらしい。だが、「いつもギリギリのくせして急に早いのは俺に早く会いたいからか?」と俺を抱き寄せたまま耳元に低い声で囁くのはやめてほしい。
なんなんだこれ。俺はこの教師と付き合ってんのか?どうリアクションを取ったらいいのか__。
俺が拒否していいのか悪いのか身動きが取れないまま固まっていると背後から、
「篠崎先生、それセクハラですぅー」
と言う明るい声と共にどすんと不穏な音と振動がして、教師がぐぅと呻き腕の力をゆるめた。俺はすかさず包囲網から逃れほっと一息つく間もなく
「リョータ!大丈夫だった?」
と茶髪のふわふわ頭にがばりと抱きつかれた。
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