第25話

何でも好きな物を頼んでと言われ、ハンバーグを注文した亮太は運ばれてきたそれに早速かぶりつく。少し嬉しそうな顔で見守っていた新堂は自身が頼んだステーキにナイフを入れた。


「ここはよく来るのかな」

「たまにです。大体はマックとか」

「友達と? 」

「はい。高校のクラスメイトとかと」

「今、二年生だったか。部活はやっている?」

「いや、何も。中学の時はバレーボールしてましたけど」


亮太は聞かれた事になんでもスラスラと答えた。普段ならよく知らない大人に対して絶対しない行為だが、ゲームの対象キャラクターとなれば話は別だ。好きになれるかどうかはそもそも相手の事を知らなければ判断のしようがないし、相手の情報を聞き出すにはまず自分の分を差し出すしかない。

質問された事に他の情報を付け足して回答する事で、ぎこちない雰囲気だった新堂との会話は少しずつなめらかなものに変わっていった。


新堂の質問に答える度に彼は瞳を輝かせる事もあれば少し寂しそうな顔をする事もあった。たとえば苦手な科目を英語と答えると喜び、「飼っていた動物」に「犬」と答えると残念そうな顔をするように。


そんなに一喜一憂するもんでもないだろう。


自分との共通点を探っているのだろうか。確かに好きな物がかぶっていると親近感は湧くが。よく分からないがお見合いってこんな感じだろうかと亮太は思った。


何かを探られている感じがした。

質問攻めにして何を探っているんだ?


2杯目のコーヒーを飲んだ後、新堂は「おかわりをもらおうかな」と席を立つ。亮太もちょうどジンジャーエールを飲みほした所だったので同行する事にした。

「コーヒー好きなんですね」

再びコーヒーマシンの前に立つ新堂に声をかけると、彼はバツが悪そうに笑った。

「習慣でね。つい飲んでしまう。・・・ああ、君も飲むか? 」亮太の分のコーヒーカップも手に取るので亮太は

「じゃあカフェラテで」

と彼の隣に立った。入れ終わったコーヒーのカップを取ろうとした新堂の動きが一瞬止まる。亮太が彼を見上げると正面を向いたまま新堂がつぶやいた。

「好きなのか」

亮太は苦笑いした。

「ちょい前までコーヒー全般だめだったんですけど、スタバで初めてカフェラテ飲んだ時めちゃくちゃ美味しくて。で、それだけ飲めるようになったんですよね」


コーヒーマシンにカップをセットし、「カフェラテ」と表示されたボタンを押す。

そこで初めて新堂は亮太の方を向いた。

「・・・そうか」

それはなんだか、嬉しいような同時に泣き出しそうな顔に見えた。

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