第26話

レストランを出て街へ繰り出す事にした。店を出ると差し込む照りつける太陽の光に亮太は思わず目を細める。ファミレスでの会話はそこそこ盛り上がった。まだ話し足りないと言うよりもまだ「聞き足りない」様子の新堂は街の散策を提案し特に予定のない亮太は同意した。


新堂からの質問攻めに答えていて亮太は一つ気付いた。


新堂と自分にはほとんど共通項がない。

新堂は中学、高校とも剣道部だったし実家で飼っていた動物は猫だった。得意科目は数学と英語で、好きな飲み物はアメリカンコーヒーとエスプレッソ。休日にはジムに行き水泳をしたりたまにクラシックコンサートを聴きに出かける。ちなみに亮太の休日はバイトを除けば友人と街へ出かけ、懐に余裕がある時はボウリングかカラオケ、なければウィンドウショッピングだけで街をぶらつく。音楽は特定の推しはないが、今はまっているのはマルーン5とボンジョビだと答えると新堂から「渋いね」と言われた。


好きなもの、興味のある事がほとんど同じじゃないのに会話を重ねる度に新堂がどんどん機嫌が良くなっていくのはなぜだろう。


今だって雑踏をぬってスポーツショップを目ざす道すがら好きなスニーカーを話していたら自分はナイキのエアマックスで新堂はコンバースの白スニーカーときた。なのに彼は何が嬉しいのか終始硬かった最初の印象は抜け、饒舌になってきている。

「エアマックスは高いだろう。持ってるの」

「いや、さすがに無理ですね」

「誕生日とかにもらえないのか」

「親がそういうのは自分で買えって言うんで。いつかは欲しいからお年玉とかバイト代とかためてるんですけどなかなか」

「高いだけあるがエアマックスは確かに履きやすいな。甲が薄く足指が長い西洋人型にはぴったりだ。クッションが他のものと全然違う。長時間歩いても疲れないし、軽登山なら余裕でいける」

「持ってるんですか」

「いや、__知り合いが貸してくれた事があったんだ。良い靴だった」

一瞬新堂の表情が曇った気がして亮太は隣を歩く彼を見上げた、その時だった。


「芦屋! 偶然だな」


声がした正面の方向を見れば、人の波の中に背の高い人物がこちらに向かって手を上げている。


げ。篠崎先生!?

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