第6話

タローとやらに引っ張られながら教室に入る間、俺は謎のゲーム開始を告げて来たパソコン画面を思い出していた。画面に表示されていた説明文いわく、学校の構造や俺のクラスや席、授業の進み具合はゲーム開始前と同じだから安心して良い、との事。全てが初めてづくしだったらゲームを開始するも何も日常生活を送るだけで手いっぱいになりそうだったので、その設定には少しほっとした。ただ現実のIf世界のため、クラスメイトや教師は全く知らない人ばかり、学校外で出会う人物も両親と親戚縁者を除いて全く知らない赤の他人だらけだと言う事だった。

 教室に入ってざっとクラスメイト達の顔を見るが、確かに男子も女子も知らない奴ばかりだ。おはよう、と声をかけてきくれたやはり誰か分からない男子にあいまいな笑顔を返しながら、早く顔を名前を覚えなければと気持ちが焦った。


タローは俺の真ん前の席のようで、現国の宿題、難しかったよねー?と俺に声をかけながらナップサックから手際よく教科書やノートを取り出し机の中にしまっていく。トリコロールの洒落た筆箱やノートを机の上にきれいに並べ、女子みてぇ、と思うと同時に私服とかおしゃれそうだなと感じた。

「鈴木」

「あ、おはよー、しゅーへー」

タローに声をかけた男子に顔を向ける。目が合い、相手に低い声でおはよう、と言われ、お、おはようとどもりながらも返事をした。

でけぇ。

タローとは対照的な、運動部なのだろう、よく灼けた肌に180センチはありそうな高身長、短く刈り上げられた黒髪に切れ長の瞳。ぱっと見は分かりやすい派手顔美男子タイプではないが、全体的に見ると格好いいかもしれない。いわゆる雰囲気イケメンと言うやつか。いかにも女子にモテそうな風貌だが、その鋭い瞳は一瞬簡単には人をよせつけないぶっきらぼうな感じがした。

それにしても、タローって鈴木太郎って言うのか!そりゃこのハーフ風美少年ルックスではなおさら嫌すぎるだろう。現に先生に名前を呼ばれた時にすごく嫌がっていたし俺も名前を呼ばない事はもちろん、彼の地雷っぽい名前の話題にも触れないように気をつけなければ。

悪いと思いつつこみあげる笑いを抑えるため思わず顔を伏せた。タロー達はそんな俺の様子に気付かずに二人で会話を続けている。

「現国の宿題、写させてくれるか」

「えー、またかぁ。今度ジュースおごってね」

タローの言葉に、しゅうへいと呼ばれている男子はわかった、と真顔でうなずき、ありがとうとつぶやくとノートを持って自分の机に戻っていく。

「あれ。冗談だったのに。しゅーへーは真面目だからなぁー」

タローとしゅうへいって奴は仲がいいんだな。なんとなくタローの顔を見続けていると、彼と目が合い、

「あ、嫉妬した?やだなぁ、僕はリョータ一筋だってー」

と、こてんと首をかしげ、上目遣いで照れ笑いをされた俺は思わず頬をひきつって苦笑いした。

あざといってこういう事を言うんだろうな。こんな分かりやすい態度でキュンと来る奴なんているんだろうか。ゲームじゃあるまいしって、これはゲームだった。だからとりあえずこいつも恐らくゲーム対象なんだろう。気をつける観察対象その2だ。


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