第5話

「あ、ど、どうも」

相変わらず状況はさっぱり理解できないが、一旦教師からは離れられたので少しほっとした。しかし。こいつは誰だ。混乱は今だ続いたまま、俺の肩にマーキングのようにぐりぐりとこすりつけてくる頭を見下ろした。

触ると柔らかそうなふわふわした明るく茶色に染めた髪、背は俺より低く体型も華奢な男子。制服を着ているし俺の名前を呼んだ事から考えて同級生だろう。


「ちょ、痛ぇから離れてくれ」

俺の背中に回された意外に力強い両腕をなんとか引きはがすと

「リョータ冷たい!せっかく助けてやったのに」

と口をへの字に曲げたまま、ぱっちりとした大きな瞳で恨みがましく俺を見上げた。顔は可愛い系に入るんだろうな。色も白いしハーフっぽい感じがする。

名前はなんだろうと内心困っていると、しゃがみこんで頭をさすっていた篠崎先生とやらが傍に放り投げられていたスポーツバックを掴み、

「太郎。こんなもんで教師の頭をはたくとはいい根性してるな」と背後からふわふわ頭をゲンコツでこづいた。

「ちょ、名前呼ぶなって言ってるよね!?」

その瞬間、ふわふわ頭は顔を真っ赤にして、振り向きざまスポーツバッグを先生から奪い取った。

思わず俺は吹き出しそうになった。太郎!?アイドルみたいなこのルックスで!?


「ほら!遅刻するよ、リョータ!クラス行こ!」太郎は俺の腕を取り、仕返しだとばかりに意地悪く笑う先生を無視して校舎へとずんずん進んだ。同じクラスか、ありがたい。それとなく色々教えてもらおう。

「またな、芦屋」篠崎先生は片手を挙げ、軽くウィンクする。普通なら引きそうなリアクションも洒落た雰囲気と顔面イケメンだからか全然違和感がない。


とりあえず教師からはロックオンされてそうだ。

太郎に引っ張られながら俺は、ゲームは既にスタートしている事をひしひしと感じていた。



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