第9話

やがて秀平達は準備体操を終え、二人一組になってトス練習を始めた。それも20分ほどで終えると、次はコートでアタックの練習に入る。

なんて言うか、地味だ。

「・・・なあ、これ、面白いか?」

隣に座るタローにこっそり耳打ちすると、思いがけず強い様子で頷き返されたので驚いた。思わず彼を見れば、前かがみになり真剣な様子でアタック練習を見つめている。視線の先を見れば、秀平の番だった。トスされたボールに向かって大きく跳躍し、次の瞬間引いた右手を思い切り振りきる。他の部員と比べ、ひときわ重い音と共にコートにボールが突き刺さった。

「あいつ、うまいんだな」

思わず感嘆の声でつぶやけば、タローが再び無言で頷いた気配がした。横目で隣を覗き見る。タローは常にまとっていた明るく軽い雰囲気は微塵もなく、思いつめた様子でコートを睨むかのように見つめ続けていた。

「・・・鈴木、」

「鈴木ー、」

俺がタローにかけようとした声は、同時にコートから発せられた野太い声でかき消された。

見下ろすと、いつの間にかコートから外れていた秀平がこちらを見上げている。

「ちょっとやっていかないか」

「へ、へあっ!?だだだ駄目だよ怒られるよ!」

顔を左右に振り明らかに狼狽しているタローとは対照的に、変わらず怒ってるんだか呆けているんだか分からない真顔で秀平はぼそりと

「キャプテンに了解取ってるから」と後ろを指さした。

指された後方ではコートからキャプテンとおぼしき柔和そうな男が、

「顧問いないから今日は自由だし~」と笑い、他の部員達も呑気に笑っている。

うわ、ゆるいなバレー部、と思っていた俺は突然タローにがしりと右肩をつかまれた。

「りょりょりょリョータが一緒にやるなら!いい!」

「はあ!?なんで俺も・・・って、俺ら制服だし無茶だろ!」

思わず席を離れようとした俺に、逃がしてなるものかと意外に強い握力でタローが食らいつく。

「お願い!お願い、リョータ!ちょっと、ちょっとだけでいいんだ!」

「だからなんで俺まで!やりたいんなら鈴木がやってきたらいいじゃん、待っててやるから!」

そう言った瞬間、タローはきれいな顔をゆがめ視線を下に落とした。

「あの・・・、僕さ、」

言いかけ、それ以上は辛そうに口をつぐむ。うつむいた顔から表情は分からないが両耳が真っ赤になっている。俺の右肩を持つ手は微かに震え、しばらく逡巡した後、タローは小さく声を絞り出した。

「・・・ちょっとだけで、いいから」

「あー、もー、分かった!分かったから!」

俺は思わず両手でばしばしとタローの肩を叩き、今度は俺が彼の右腕をつかんでコートへと引っ張っていく。いいの?あ、ありがとうと言うタローの小声を背中で聞きながら、泣かれなくて良かったとこっそりと安堵した。








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