第12話
学校からの帰り道。日が傾いてきた中を俺とタローは無言で歩く。当然のように一緒に帰る彼と肩を並べながら、今日1日の彼の様子を見るに、この世界の俺とタローは仲がいいんだなと思った。
その時ふと、俺はある違和感に気付きかけたが、黙っていたタローが突然「リョータ」と声を掛けて来たので、その疑問もすぐに霧消した。
彼が静かにつぶやく。
「・・・なんでバレーしないの?あんなに上手いのに」
「中学で満喫したからもういいやと思って」
バイトもそうだが、この理由も嘘ではなかった。
この世界では俺はバイトをしていなかったようだが、結果的に良かった。ゲームをクリアしてさっさと元の世界に帰りたいのに、部活、特に運動部に所属までしていたら毎日が忙しすぎてそれどころではなかっただろう。
再び黙ったタローが気になって隣を見た。うつむき加減に歩いている彼の表情は分からない。ふわふわの茶色がかった長めの前髪が風で揺れる。
「なあ、入部したら?やりたいんだろ、バレー」
声をかけると、タローは暗い表情から一転ぱっと変わっていつもの朗らかな様子に戻り、無理無理と明るく笑った。
「身長僕全然足りないもん」
「やってみなきゃ分からないだろ」
「いや、駄目すぎるでしょー」
「先輩達優しそうだったじゃん。秀平だって」
「リョータも見て分かっただろ!」
秀平の名前が出て来たところで突然きつい調子で言われ、思わず黙ると、タローは続けて消え入るような小さな声でつぶやいた。
「・・・下手なんだよ、僕。すごく」
傷つけてしまったかと一瞬言葉を失った。慌てて
「そこまで気にしなくてもいいんじゃねぇ?」と言ってもタローは沈んだ顔をしたままだ。
もしかしてタローは秀平にコンプレックスを持っているんじゃないだろうか。今日1日観察していただけで、タローは外交的で男女問わず愛想が良く、小柄で可愛らしいルックスもあって皆の愛されキャラ扱いされているように感じた。対する秀平は身長はでかいしガタイもいいのに加えて無表情だから、一見怖そうにもとっつきにくそうにも見える。話すといい奴だから男子には人気があるようだが女子とは話している所も見たことがない。いわゆる硬派な感じがする。二人は仲が良さそうだったし、実際タローからよく秀平に声を掛けてやっていた。見た目も性格も正反対だからこそ上手くいっていると思ったんだが__。
「自主練したかったら付き合ってやるから」
しゅんとしたままのタローが何となく不憫でらしくなく助け舟を出してしまった。本音は異世界に来てしまった自分の方こそ余裕がなく、助けて欲しいところなんだが。
タローはこちらを見上げると照れた様子でふにゃりと微笑んだ。
「・・・ありがと」
自分は一人っ子だし、タローのような弟キャラ的な奴は周りにいなかったのでどうも彼をどう扱っていいのかいまいち分からない。
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