第20話 予兆
「あらためまして、ユキメ・ホワイトリングです。よろしくおねがいします!」
「琴寄皐月」
並べてみると対照的な2人だ。いつもうるさいくらい元気なユキメと無表情で淡々とした琴寄。しかし今の琴寄は無表情ではない。やはりユキメみたいなタイプは苦手なんだろうか。少し困った顔をしているように見える。
「鈴木師匠も、ご苦労様です!」
「うむ。ユキメよ、渡したDVDは見たか?」
「はい!全部3回ずつ見ました!」
「素晴らしい!後で感想を聞こうじゃないか」
こいつらは暇なのか?
ユキメが琴寄に挨拶をしたいというので放課後来てもらったら、なぜか鈴木も付いて来ていた。そしてユキメと鈴木の謎の師弟関係ができあがっていた。
「で、今日はどうしたの?最近は学校には来てなかったみたいだけど」
鈴木とユキメの世界に耐えきれなくなったのか、琴寄が呆れ顔で話を変える。普段無口な琴寄にしては珍しい。
「あ、そうでした!失礼しました!みなさんに色々とご迷惑をおかけしていましたので、ご挨拶をと思いまして。これ、つまらないものですが、よかったら召し上がってください」
ユキメは丁寧に包装した例のどらやきを琴寄と鈴木に渡す。
「私の地元の名物なんです」
「どらやき?あれ、ユキメってラトビア人なんだよな?」
そういえばユキメはラトビア人ってことにしていたんだった。すっかり忘れていた。
「あ、えーと、こっちにも親族がいて、確か、その地元なんだよな?」
「え?いやこれはダイダラスの・・・!あ!はい、そうです。こっちにくるとよく食べていました」
ユキメの目が泳いでいる。嘘の下手なやつだ。俺もあまり人のことは言えないが。
「何これ、おいしい」
琴寄の目がキラキラと輝き出した。
「栗をペーストにして餡でくるんでいるんだ。しかもただのペーストじゃない・・・?この食感はなんだろう。甘さのバランスも完璧だわ。生地もただのどら焼きじゃないわね。砂糖を減らす代わりに、これは黒糖かしら。少しだけ入れることでアクセントになっているんだわ。」
和菓子にこだわりの強い琴寄のスイッチが入ってしまった。いつも和菓子にはうるさいが、ここまで気にいるのは珍しいな。
「よし、そろそろ練習いくか」
鈴木と琴寄が動かないので俺が声をかける。
「あ、もうそんな時間か。もうちょっとアニメ談義をしたかったが」
「鈴木は補欠とはいえ何かあれば試合に出るんだから、そんな気の抜けたこと言ってたらダメでしょ」
琴寄が釘を刺す。
「試合?なにかあるのですか」
「・・・・。ああ、ユキメには言ってなかったか。もうすぐ大会なんだ。」
「卓球ですか!皆さん頑張ってください」
ユキメが鼻息荒く立ち上がる。
「応援しますよ!いつなのですか?」
「今度の土曜日よ」
「土曜日、というと3日後ですね!・・あれ、その日ってたしか」
ユキメに大会について言ってなかったのには理由がある。大会の日程。この日は、前に聞いたダイダラス帝国の魔族討伐作戦の決行日だ。
絶対に異世界転生しない! 右城歩 @ushiroaruki
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