第5話 これはデートですか?
俺は今、ユキメと2人で街中を歩いていた。
なぜこんなことになっているのだろう。
山田が帰って来た後、琴寄は「とりあえず部活休むことは伝えておくからその子をなんとかしてこい」と言ってくれた。優しいのか、厄介払いかはわからないが・・・。
ちなみに山田は向こうの世界で勇者としての歓迎を受けかけ、人違いとわかっても無下に扱うわけにもいかず流れで仕方なく歓迎会を開いてもらったようだが、あまりの急展開についていけずに今は夢か何かと思っているみたいだ。
それよりも、山田が消えたのを目撃してしまった鈴木が異世界に興味を持ってしまっているような気がして心配だ。
「大きな建物がたくさんありますね!」
ユキメは口をポカンと開けて東京の町並みを見渡している。
聞いた話だと異世界は科学技術があまり発展していないようだから、ユキメにとって東京のビル群は見たこともない景色だろう。
そのまま家に追い返してもよかったのだが、ユキメを我が家に住ませることをまだ家族に伝えていないし、軍服でうろちょろされるのも厄介なので、とりあえず街まで来てみた。
ちなみに肉まんはユキメがいない時だけの護衛らしく、今はいない。
ひとまず安い洋服チェーンで無難な服を買ってユキメに着せた。ユキメのサイズだと子供服でも着られるけど、高校生で子供服コーナーにいるのも恥ずかしかったから大人用Sサイズのスカート、シャツを購入した。こっちの世界の服はユキメからしたら着慣れない服なのか、少し恥ずかしそうだったが、着てみると気に入ったみたいでくるくると回って喜んでいた。
「わあ!あれはなんですか?!」
線路を走って行く電車を見つけると子供のように駆け寄って行き、青い目を更にキラキラさせて眺めている。子供のように、と言ったが、実際ユキメはおそらく俺と同い年か年下くらいだろう。見た目は幼いが、軍服のせいかあまり年齢を意識していなかった。国を背負ってやって来て、俺に異世界のことをしっかりと説明する姿が、年下には思えなかったのかもしれない。
しかし、今のはしゃいでいる姿は普通の女の子だ。俺が口を挟めることじゃないんだけど、なんとも言えない気持ちになる。
「啓介様、先ほどは大変ご迷惑おかけしました」
いつの間にかユキメは俺の隣に戻ってきていた。さっきまではしゃいでいたが、学校を出たあとしばらくは落ち込んでいた。謝罪の言葉を繰り返していて、とりあえず山田にも姉にも危害はなかったので許したが、あまり1人にさせると危険かもしれない。
「先ほどの琴寄さんはどこか向かわれましたけど、啓介様もそちらに用事だったのでは?」
珍しく気を使っているな。確かにユキメが来たせいで部活に行けなかったのは残念だった。久しぶりだし、大会も近いから練習もしたい。
「ああ、部活動だよ。卓球をするんだ。卓球ってわかるか?台の上でボールを撃ち合うんだ」
「球技ですね!私の国にも、魔法で出した火の玉を打ち合う競技があります!」
シュッシュと素振りの動きをしながらユキメが答える。なんか違う気がするが、どこの世界にもスポーツってあるんだなあ。ちょっと親近感が湧いた。
「卓球というのは私は知らないんですけど、サッカーとかテニスっていうのはこっちの世界とおんなじだってニックさんがいってました」
ニックさんというのは確か肉まんの本名だ。それにしてもサッカーやテニスがあるっていうのは、親近感を通り越して違和感を感じる。明らかにこっちの世界と何か通じているという証だ。何が通じているかはさっぱりわからないが。
「あの!」
ユキメがピシッと手を上げる。
「卓球、教えていただけませんか?」
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