第6話 お願いがあります

 ユキメの打った球がバシンという音を立てて、勢いよく卓球台の上を跳ねる。


「やった!これで私の点ですよね。」


 両手をあげて喜ぶユキメを、俺は呆れて見ている。


 街の卓球場に入り、ユキメにルールを教えて適当に球を打たせてみたが、とても初心者とは思えない動きで球を打ち卓球台に叩きつけた。そういえば軍人だから強いとか肉まんが言ってたけど、運動神経もいいのか。


「楽しいですね!」


 まだ30分程度しか経っていないのに、ユキメはもう練習相手になるくらいには上達している。才能のあるやつはずるいものだ・・・。


 すると、ユキメは何かを思いついたような顔をしてにやりと笑った。


「啓介様。勝負をしませんか?」


「勝負?卓球の試合か?」


「そうです。負けたら相手の言うことを1つだけ聞くんです。」


 こいつ、いよいよ手段を選ばなくなってきたな。これで俺が負けたら異世界に来てくれと言うつもりか?まあ、いいだろう。いくらユキメは上手いといってもそれは初心者としてはの話だ。逆に負かして、俺のことを諦めてもらおう。


「いいよ。やろう。俺に勝てたらユキメのお願いを聞いてやるよ。」


 こう見えて俺は高校卓球の練馬区チャンピオンだ。都大会ベスト64でもある。こんな小学生みたいな小娘に負けることはない!


* * *


 ユキメの打った球が気持ちのいい音を立てて卓球台を跳ねる。


 なんとか打ち返すものの、ボールはネットに勢いよくぶつかった。


 これで8−8だ。


 ・・・強い。確かにちょっと油断したし、実際本気は出していなかったが、まさかここまでとは。卓球は11点先取なので、あと3点で決着だ。


「ふふふ。これで同点ですよ、啓介様。」


 ユキメが不気味な笑い方をする。


「くっ。仕方ない、本気を出させてもらうぜ。これで負けて異世界に行く約束をするわけにはいかないからな。」


「えっ?」

 

 ユキメは、「何言ってるんだろう?」といった顔で俺を見る。


「私が勝ったら私たちの国に来てくださるんですか?」


 何を言ってるんだこいつは。


「負けたら言うことを聞くって言ったのはユキメだろ。」


 ユキメは「それは気づかなかった!」という顔をした。いちいち顔で考えていることがわかりやすい。


「違います、違います!いや、ダイダラス帝国に来て欲しいのは違わないんですけど、お願いっていうのはそうじゃないんです。」


 ユキメは窓の外を見る。


「私が勝ったら、この街の一番高いところに連れて行ってもらえませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る