第7話 綺麗ですね

 ついさっきまで青かった空も、今は少し赤みがかってきている。先月だったら明るかった時間に、こんなグラデーションが見えると秋になったんだなあと思う。


「1番高いかはわからないけど、それなりに景色はいいだろ。」


 この街には山もないし、シンボル的な電波塔もないけど、役所の上が展望室になっていて誰でも入ることができる。自由に入れる場所がここくらいしか思いつかなかったから選んだだけだけど、思ったより景色いいな。


 ユキメは静かに、街の景色を眺めている。また大騒ぎで喜ぶと思ってたから、この反応は意外だ。


 しばらく景色を眺めた後、満足したのか、ユキメは俺の方に振り返った。


「ありがとうございました。ここに連れて来ていただいて良かったです。」


 卓球は俺が勝った。だからここにユキメを連れて来たのは賞品じゃなくて、なんとなく、連れて来たいと思ったからだ。それがなんでかは俺にもわからないけど。


「どうだった?」


 せっかく連れて来たんだし、感想を聞いてみた。別にたいして都会でも、大自然でも無い景色だから、そんなに感動するものでも無いと思うが。


 ユキメはもう一度窓の外の景色を見て、少し考えてから、また俺の方を見た。


「高いところから見たいって思ったのは、この街のことが知りたかったからなんです。」


 ユキメの、まっすぐブレずに見つめてくるこの青い目が、俺はまだちょっと苦手だ。


「啓介様の住んでいる街を見渡して、どんなところか知れたらいいなって思ったんです。」


 ユキメはこことは違う世界で生まれて、育っている。外国すら行ったことのない俺では、自分の世界と違う場所に来る気持ちは想像もできない。


「でも、見渡したくらいじゃあんまりわからなくて、それよりも、たくさんの人がいるのが見えたら、自分の国のことばかり考えちゃったんです。お城から見た街の景色とか、元気に遊んでる子供たちとか、仲良くしてくれた街の人たちとか。」


「そんな大好きな国を、そこにいる人たちを守るのが軍人の私の役目だから。ちゃんとしなきゃなあって。」


 夕日が沈んでいき、ユキメの顔にも影が落ちていく。展望室は夜景がよく見えるように室内に灯りをあまりつけていないから、表情もよく見えなくなる。


「だからこそ、無理やり連れて行っても意味ないんです。私の仕事は、啓介様をお連れすることではなくて、啓介様に国を救っていただくことなんです。」


 心がざわつく。

 

 今日1日でユキメが本気なことはよくわかった。異世界の話ももう疑ってはいない。助けになりたい気持ちもある。でも今の平穏な生活も邪魔されたくない。なんで俺なんかを選ぶのか。俺が異世界に行っても世界を救うことなんかできやしない。できたとしても、それに人生をかけられるのか?そんな決断できるわけない。


 自分の中でも整理ができずに色々と考えを巡らせる。


「帰りましょう!」


 ユキメがまっすぐに俺の目を見て、笑いかける。


「今日は本当にありがとうございました。とっても楽しくて、わたし、この街を好きになれました。」


 こいつのまっすぐな性格はずるい。


 ・・・さて、異世界に行くか悩む前に、こいつを家に入れることを親にどう説明するかを考えないとな。

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