第10話 山の上の戦闘
魔人は耳が尖っており、目つきが鋭いこと以外はほとんど人間と見た目に違いはない。しかし全員首に
シエスが岩陰から覗き込むと、3人の魔人が話をしていた。距離があるので、何を話しているかはわからない。動きから察するに、リーダーと思わしき女の魔人が、他の2人に指示を出しているようだ。その魔人は胸に鷲のような刺青が入っており、青みがかった髪を綺麗に束ねていた。
「さて、どうしたものかな。」
シエスたち第1特殊小隊の任務は諜報活動であり、戦闘ではない。ここで下手に戦闘を行い、万が一敵を逃しでもしたらそれは情報を与えることになり、作戦の続行は困難になる。
『マルタ、ジョニィ、ショウは裏手に回って。アリア、イシー、ヒョウはそのまま待機。全員、見つからないようにね。』
シエスが伝達魔法で仲間に指示を行う。魔人たちに動く様子はない。
『やはり、この険しい山を越えて来たにしては疲れた様子もないし、装備も綺麗ですね。』
魔人達の様子を見て、ジョニィがつぶやく。
『そうね。それにこの山の頂上は
『見て!!魔人が!』
マルタが伝達魔法で呼びかけるよりも早く、魔人の手から放たれた氷の刃がシエスの隠れている岩場に突き刺さる。
「ほう、避けるか。なかなか身軽なやつがいるみたいだな。」
「そりゃどうも。あなたの魔法もすごい威力だったよ。避けきれなかったら危なかったね。」
シエスが軽口を返すと、魔法を放ったリーダー格の魔人は驚いた顔をした。
「貧族にも我々の言葉がわかるものがいるのか。」
魔人の話す言葉はダイダラス帝国とは違う。諜報部隊である第1特殊小隊は相手の言葉がわからないと情報収集ができないため、全員魔人と同じ言葉を習得している。
「みんな話せるわけじゃないけどね。あなたたちの言葉を話す魔獣は私たちの国にもいるから。」
シエスは話をしながら、背中の剣を抜く。
「『貧族』っていうのは私たち人間のことらしいね。別に貧しいつもりはないんだけど。」
シエスが剣を体の前に構えると、周囲から風が集まり始めた。シエスの風魔法だ。集まった風は渦を巻き、小石や砂利を搔き上げる。そうして電信柱ほどの大きさの竜巻が出来上がった。
「ふう・・」
「行け!」
シエスの合図とともに、竜巻が魔人に向かって飛んでいく。進むごとに石や小枝を巻き上げ、風を吸い込み、大きくなっていく。
竜巻が3人の魔人とぶつかり、大きな砂埃が舞う。
「どうなった!?」
魔人は基本的に人間よりも体が強く、魔力が大きい。いくらシエスがダイダラス帝国最強といっても一撃で倒せる保証はないため、第1特殊小隊の隊員たちは姿を隠したまま魔人を取り囲むように様子を伺う。
砂埃が晴れると、2人の魔人が倒れていた。
「1人足りない!」
ジョニィが叫ぶと、全員が周囲を警戒する。
「驚いたぞ、貧族にこれほどの使い手がいるとはな。」
魔人の声に反応し、全員がシエスの後方にある岩場を見る。そこには先ほどの魔人のリーダーが立っていた。その姿はほとんど無傷に見える。
「貴様、名前はなんという?」
魔人がシエスに尋ねる。シエスは答えない。諜報部隊員としては、どんな小さな情報も渡すわけにはいかない。
「答えないか。まあ、いいだろう。お前達にはお前達の流儀がある。」
『貧族』などと蔑称で呼ぶわりに、相手の文化を認めるようなことも言う。変な考え方だな、とシエスは思った。
「ならば、こちらもこちらの流儀でやらせてもらおう。我々は戦士だ。戦士は力を認めた相手には名を名乗る。我が名はエリン・イーグリオス。いずれ貴様を殺し、貧族達にも我が名を知らしめてみせよう。」
そう言うと、エリンは岩場から飛び降り、森の中へ消えていった。
隠れていた隊員達がシエスの元へ集まる。
「逃してしまったけど、ここは山の中腹で日頃から魔人との小競り合いの多い場所だし、私たちが何をしにここに来たかまでは気づいていないでしょうね。」
マルタの言葉に、シエスが頷く。
「しかし、今日の魔人。隊長の魔法でもほとんどダメージがないなんて。今まで見た魔人の中でも一番強いんじゃないか?」
「そうかもしれないわね。このことも含めて一度タクマ・・・ライオネス将軍に報告しておいた方がいいけど、大きな魔法を使ってしまったから敵が集まる前に移動するのが先ね。例の場所もまだ見つけていないし、明るいうちに移動と調査をやっちゃって、次の定時連絡で報告しましょう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます