第9話 山の密偵より
リュドウス山の雪が溶けるのは真夏だけだ。しかも標高が高いだけでなく、遠くからだとギザギザと尖って見えるほど傾斜が急なため、雪の積もり始めたこの季節に山を越えるのは簡単ではない。
山に登ることが目的の登山家であればまだ不可能ではないが、戦うための軍隊が装備や食料を持って山を越えるのは不可能に近い。
「でも、現実に魔人たちは越えて来てるんだよね。なんでなんだろう。」
「それを調べるのも我々、第1特殊小隊の仕事の内ですよ、隊長」
隊長と呼ばれた女、シエス・クラステンは困っていた。今回の1番の任務は、リュドウス山に潜伏しているはずの魔人の様子を探ることである。しかし、山に入ってからまだ魔人を見かけていない。
「でもそれよりも、目的の場所を早く見つけないといけません」
「そうだね。」
シエスは副隊長のジョニィに頷く。
「あーあ。やっぱ私この仕事むいてないなー。山も登るとだんだん寒くなって来たし、早く帰りたいよ。」
シエスはそう言うと、携行食を頬張った。まだ雪の降っていない低層とはいえ、街中に比べれば気温は低い。
「みんなごめんね、こんな隊長で。」
ダイダラス帝国第1特殊小隊は主に偵察を行う部隊だ。剣と魔法の腕が国内随一のシエスだが、性格的に軍隊は合わないと本人は思っている。そのことをライオネス将軍もわかっているため前線の本体には組み込まれなかったが、戦況の悪化や人材不足もあって、偵察部隊の隊長を任されている。
「そんな。我々はみんな、隊長の部下であることを誇りに思ってますよ。」
ジョニィが真剣な顔でそう言うと、シエスは照れ臭そうに笑った。
「ありがとう。さて・・・と、そろそろ仕事の時間みたいね。」
シエスがそう言って立ち上がると同時に、辺りの調査を行なっていた1人の諜報員が慌てた様子で戻って来た。
「報告します、魔人を発見しました。」
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