第15話 魔法

「魔法とは何だ?」


 異世界に人を飛ばしたり、肉まんを見えなくしたり、テレビ電話みたいなことができたり。いくつかの魔法を見て来たが、自分の周りで得体の知れないことが起きているのは安心できない。だから魔法とは何かを知っておく必要がある。


 ・・・という建前があるので聞きやすいのだ。


 自分の周りで使われる以上それが何かを知っておいたほうがいいのは本当だが、これを質問した本心は興味があるからだ。”魔法”なんて言われて興味を持たない方がどうにかしている。


『魔法とは何か・・か。改めて聞かれると答えに困るな。』


 向こうの世界にとって、子供の頃からあって当たり前のものなら、そうだろう。俺だって「科学とは何か?」なんて聞かれても即答はできない。


『教科書通りの答えを言うなら”魔力を操る技術”かな。』


「なるほど、異世界人は”魔力”を持っていて、それを使って魔法を出すってことか」


 だとすると、俺が魔法を使うのは難しそうだ。


『いや、そうじゃない。魔力っていうのは空気中にただよってるもんだ。それを使って雷を起こしたり、こうやって遠くにいる人間と会話をしたりするのが魔法だ。』


「ああ、そういえば前にもそんなこと言ってたような。異世界には空気みたいに魔力があるって。」


『そうだ。そして魔力はそちらの世界には存在しない。だから魔法も基本的にはこっちの世界だけのものだ。」


「あれ?でもユキメや肉まんはこっちでも魔法を使ってるよな。」


 ユキメは姉ちゃんや山田を異世界に飛ばしているし、肉まんは姿を消したり今みたいに通信をしたりしている。


「それは、私たちが特別なんです!」


 静かに聞いていたユキメが、横から口を挟む。


「特別?」


『ああ、”魔女の末裔”と言ってな。簡単に言うとユキメは体内に魔力を持っているんだ。』


 なるほど。だから空気中に魔力が無いこっちの世界でも魔法が使えるのか。しかし”魔女の末裔”ね。ちょっとカッコ良くてユキメには似合わないなと思うのと同時に、あまりいいイメージの言葉じゃない気がしたが、これ以上は聞かないことにした。


「へー、なるほどね。肉まんも”魔女の末裔”ってやつなの?」


「いや、おれはそもそも人間じゃないからな。」


 それはわかっている。


「ニックさんは魔獣なんです!」


 魔獣という感じの見た目じゃないが。


「”蓄魔獣”って言ってな。魔力を蓄えておくことができるんだ。」


「ふーん。”魔女の末裔”とは違うのか?どっちも体内に魔力を持ってるんだろ。」


「そもそも成り立ちが全然違うし、”魔女の末裔”は体内で魔力を生み出すことができるけど、俺たち蓄魔獣は蓄えている魔力を使い切ったらまた貯めなきゃいけないからな。全然違うんだ。」


 ようやく肉まんが何者かという謎が解けたが、そもそもあまり興味がなかった。


「なあ、魔法っていうのは何ができるんだ。火を起こしたり、水を操ったり、変身したりできるのか?」


『変身はできないな。簡単に言うと、魔法でできるのは”物質の生成”と”物質の操作”と”それ以外”だ。』


 「物質」の生成と操作・・・ね。いろいろと制限がありそうだが。


「”それ以外”ってのはずいぶんと大雑把だな。この通信とか、ユキメがやる異世界に人を飛ばす魔法が”それ以外”か。」


『いや、通信は”物質の操作”に分類されてるな。次元魔法は”それ以外”だが。物質の生成と操作は訓練を積めば誰でもできるようになる可能性があるが、”それ以外”の魔法ができるのは”魔女の末裔”だけだ。』


 たしかに、異世界に行くみたいな現代科学でわからないものと違って、遠くにいる人と会話をするのは無線通信で可能だ。電磁波を飛ばすのと似た様な仕組みであれば、物質の操作と言えなくもないか。電磁波自体は物質ではないので”物質の操作”という分類は微妙だが、その辺は今聞いた話だけではわからない。


「なるほどね。もしかして、火を起こすことはできても火の玉を遠くまで飛ばすことは難しいんじゃないか?」


『ん?どうしてそう思ったのかわからないが、確かに火を攻撃に使うのはかなりの上級魔法だな。ダイダラス帝国では今それができるのは1人しかいない。火を魔法で起こすこと自体も中級魔法だからな。初心者は水魔法や土魔法しかできないものだ。』


 ・・・思った通りだ。魔法と言っても何でもできるわけじゃないらしい。魔法があるからといって、この自然界のルールや科学式が全く違うわけではないのだろう。


『それにしても、随分と興味をもってくれたようだな。』


 俺の顔を見て、ライオネス将軍が少しニヤつく。どうやら楽しそうな顔をしてしまっていたみたいだ。


「・・・魔法に興味を持ったのは認めるよ。でも基本的にはこっちの世界で危ない魔法を使わせないためにも、魔法を知っておく必要があるからだ。」


『わかった。今はそれでいい。話が長くなってしまったが、ついでにもう1つ聞いてほしい話がある。』


 そう言うとライオネス将軍は後ろを向いて誰かを呼んだ。

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