第23話「RED SOIL」

眼前に鍬が振り下ろされる。

まずいこのままでは、復活と同時に死んでしまう。


 そ、そうだ。俺はさっきまで、石だったのだ。俺の能力に確か変身応力があったはず。


(よし、1,2,3ポーン!)


謎の魔法を唱えて俺は石になろうとした。

おっさんの鍬が俺の顔をかすめると同時に、俺の体は石に…‥‥


なに、石になれない……。


うぁああー、なんだこれは、体が崩れていくーー。

泥、いや、土に変化していっている


 確かに鍬をかわすことはできた、しかし俺の体は土に代わり、文字通り地面に這いつくばることになった。


「な、なんだべ。目の前の人間が急に溶けて、土に代わってしまっただ。こったらことがあるんだべか?はぁー、なんまいだぶ、なんまいだぶ」

 土になった俺だが、意識ははっきりある。お小太りのおっさんは、目の前に起きた出来事に恐れおののき、両手を合わせていた。

 しかし、おっさんは突然、土(俺)を手に取ると、口にふくんだ。


「むむ、な、なんだ、この力強い土は。力強く、そして、すべてを包み込むような、包容力がある。まさに母なる大地!これならば、至高のメニューにふさわしい至高のワインが作れるに違いない!」

 おっさんは、急に口調が高名な陶芸家のようなものに変わって、土に感動し始めていた。

 おっさんは、土(俺)を、持ち帰ろうとする。


「まてまてまて、俺がなくなってしまう!」

 急きょ俺は、土から人間の姿に戻りおっさんの暴挙を止めた。


「うわあ、またさっきの不審者が現れただ―!」

 

「話を聞いてくれって、鍬を下ろせ。別に俺は不審かもしれないが、悪いやつじゃない!」

 どちらかと言えばいい人属性なのだ、核兵器を落として何万人かを殺してしまったような気もするが……。


「――そうだべな、あったらさすんげぇ土になるような奴が悪いやつなはずがないべな。おらお前さんのこと信じるべ!」

 どういう根拠かわからんが、おっさんはあっさり俺を信じたようだ。


「ありがとう、俺はナナシーだ。よくわからんが、ずっと石になっていた。君にいろいろ聞きたいことがある」

 俺はおっさんに握手を求め、おっさんは答えた。


「おらは、ユーザンっていうだ。近くの街で、至高のメニュー作りを担当してるだ。さっそく、あんさんの土の力で、至高のワインづくりに協力してほしいだ」

 ユーザンは、まったくこっちの話を聞いていない。

 たくさん、聞きたいことあるんだが

 まあ、仕方ない。とにかくまずはその至高のワイン造りとやらを目指すとするか。


「よし、一緒に世界一のワインを作ろうじゃないか!」


 ちゃちゃちゃち、ちゃちゃちゃ、ちゃらららっらーーーーん。

『ユーザンが仲間になった』


 さて、世界一のワインを作るために俺たちはいったい何をすればいいだろうか。

 (そういえば、さっきからなぜか顔面の肌がすべすべしている、いったいなぜ)

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