第24話 君の絵
絵が完成し、じっくりと自分が描いた絵を眺めていた。
今回描いた絵は、お皿に乗った果物の置物と瓶を絵具で描いたもので、
もちろん画家が描いた絵に比べると迫力や鮮やかさは全然無い。
しかし、自分にはプロが描いた絵よりもすごく価値のある作品のように見えてくる。
むしろ自分がプロのような錯覚さえしてくる。
ここはもうちょっとこうすれば良かったとか、ここは影を入れたら良かったとか。
そんな技術も無いのにイメージだけは湧いてくる。
そんな事を考えていると彼女も描き終わったみたいだ。
彼女の絵ももちろん凄く上手いわけじゃないし、
多分俺の方が上手い。
だけどもなぜか、自分と同じ被写体を描いてるはずなのに凄く優しい絵のように見える。
明るい青色、明るい黄色、明るい赤色
明るい彼女の性格が滲み出ているかのようだった。
そんな彼女の絵に惹かれ、何秒、何十秒経ったかもかもわからないくらい見ていた。
もちろん彼女には見ているのをバレていて、我に返った時には彼女が不思議そうにこちらを見ていた。
ヤバっと思ったが、これはチャンスとばかりに
「意外と…絵上手いんだね…」
とさっきのお返しをしてやった。
「そうでしょ!上手くかけたと思ったもん!」
と、ドヤ顔でいう彼女は、自分がさっき俺に向けて言った言葉を忘れていたみたいで、俺のお返しは無駄に終わった。
こいつ…忘れてやがる…
と、心の中で思う俺も、何かを忘れているような気がしてちょっとだけ不安になった。
帰宅後
今日の授業で出た宿題をしていた。
英単語を覚えないといけないのだが、
どうせ将来英語なんて使わないし…
日本にしかいないし…
とか屁理屈ばかり考えては手が止まっていた。
集中すれば20分ほどで済むような宿題だったが、結局1時間近くかかってしまった。
そんなことで疲れ果て、ベッドに倒れ込むと同時に携帯が鳴った。
「メールを受信しました。」
どうせタケルからのくだらないメールだと思って携帯を開いたら、
彼女からのメールだった。
予期せぬ出来事で、寝ていた体をすぐに起こしてメールもう一度確認した。
「英語の宿題どこからだっけ?」
タケルと同じようなくだらないメールで拍子抜けだったが、
こんな誰にでも聞ける内容なのに、俺に聞いてくれたことがたまらなく嬉しかった。
「単語帳の124~130ページまでだよ」
と普通に返した。
もっと話を広げるべきだったか?すぐに返信しすぎたか?とか無駄に考えていると
「ありがと~✨」
と数十秒で返ってきて、自分が意識しすぎている事が少し恥ずかしい。
落ち着いたらなんだかどっと疲れて、またベッドに倒れこんだ。
少し目を閉じると、彼女の絵を思い出した。
一度しか見ていないのに、彼女の絵は印象的に頭の中に残っている。
彼女の絵を思い出すとともに、絵を描いている彼女の姿も思い出していた。
少し前乗りになりながら筆をゆっくりと動かす彼女の姿。
けれど、絵よりも何度も見ているはずの彼女の顔は、まるでモヤがかかったように見えなかった。
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