第20話 記憶の中身
目を覚ますとすぐに上司に電話した。
「すみません。風邪をひいてしまったみたいで今日は休ませてもらいます。ご迷惑おかけします」
いつもならもっと申し訳ない感じで
休ませてもらえませんか?と言うところだが、
今日はそんな余裕もなく、少し強引に言ってしまった事に少し焦りつつも
「…んーわかった。明日来れるようにしっかり休めよ。休んだ分は取り返してもらうからな!」
と少し渋りながらも了承してくれたことにホッとした。
ただ、もちろん仮病なので少しモヤモヤした。
学生の頃に学校を休んで、家でテレビを見てる時みたいだった。
俺が今日会社を休んだのは、もちろんテレビを見たいからではなく、
自分の過去の事を今すぐにでも知りたいと思ったからだ。
そして、その過去を知るには、母に聞くのが一番だと思い、すぐに実家に向かった。
実家に着くと、事前にメールを入れといた母がすぐに迎えてくれた。
「聞きたいことがあるから今から実家に帰る」
それだけの内容のメールだったが、母にはもうわかっていたのだろう。
聞きたいことが、過去のことだと。
なぜなら、いつも通り笑顔で迎えてくれた母だったが、
その笑顔は作っているようにしか見えなかった。
長年見てきた表情だから、自分の母親だから、
そんなこと、息子の俺にはすぐに分かる。
母自身も隠せてないことをわかっていただろう。
リビングに入り、少しの間2人とも無言だった。
そして、意を決して俺が話だそうとしたとほぼ同時に
「昔の事を聞きたいんでしょ」
と母に先に言われてしまった。
けれど、それが凄く自分にとっては有難かった。
「……うん、俺が高一の頃、俺の記憶のない時に何があったのか、なぜ記憶を失ったのか、理由を知ってたら…教えて欲しい」
もう逃げない。と決心してここに来たはずなのに、怖くて怖くて仕方なかった。
けれど、あの子の事を思うと、逃げるわけにはいかない。と自分に言い聞かせ、
しっかりと母の方を向いた。
そんな息子の事を母もしっかりと見て、決心したようにゆっくりと話だした。
「あんたが高1の頃、とても仲のいい女の子がクラスにいたの。その子は明るくて、話が合う。ってあんたはいつも嬉しそうに話してたわ。
あんたの口から女の子の話なんて今まで全然聞いたことなかったからその事が凄く印象に残ってる」
(やっぱりか…きっと夢のあの子の事なんだろう。特徴まではわからないけれど、あの子の事ってなんとなくわかる)
今まで確信はなかったが、それはもうなんとなくわかっていた。
知りたいのは、記憶を失った理由だ。
まさか…その子が関係しているのか?
と気づいた途端、身体が震えた。
「そう…やっぱり全然その子のことも覚えていないけど、まさかその子に振られたショックで記憶を?」
と、引きつった笑顔を作り、ふざけるように言った。
嫌な予感がしていた。
この先の言葉を聞きたくなくて、母の口から出る言葉を聞いたら正気ではいられない気がしたから、
ふざけることで誤魔化したかった。
母は小さく首を横に振り、視線を斜め下に向けまま小さな声で言った。
「その女の子は亡くなったの」
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