第17話 夢の彼女

「おはよー!もうすぐ夏休みだね!花火とか海とか楽しいこと満載!」


また朝から元気な彼女と裏腹に、俺はあまりテンションが上がらなかった。

なぜだか彼女の顔を見るのが辛いような気がする。


「おーそうだなぁー、その前にテストあるけどな」

と言うと、彼女は嫌そうな顔をして

「うわー現実突きつけるなあー」

と言いながら席に戻った。



朝礼が鳴り、先生が教室に入ってきた。

「今日は残念な話がある」

クラスが少しざわめいた。


クラスメイトが転校するらしい。

たいして仲のいいクラスメイトでも無かったが、周りの雰囲気にのまれてか、なんだか自分も悲しくなった。



転校するってことは、皆と離れるってことだ。

毎日顔を合わせていた人と、

もう会うことは無いかもしれない。

もう喋ることもないかもしれない。

記憶からもいなくなるかもしれない。


すごく悲しいことだ。

経験した人にしかわからないことなのかもしれない。



気がつくと、小さな涙の粒が頬伝った。



すぐに涙を拭ったが、隣の彼女は俺の涙に気づいていた。




午前の授業が終わり、お昼の時間になった。

今日の昼休みはいつもと少し違う教室だった。


転校する子との残り少ない会話を必死に楽しもうとする子もいれば、中には泣いている子だっている。仲が良かったんだろう。

あまり仲良くはなかった人たちも多少はその子の話題を話している。



自分のことではないのに、この雰囲気が嫌で、

昼飯も満足に食べれなかった。


「おい、今日大丈夫か?あんま顔色良くねーぞ?」

とタケルが心配してくれた。

周りから見てもあまり体調良くないように見えるらしい。

「午後の授業ちょっと休むわ。先生に言っといて」

と言い、保健室に向かった。


保健室の先生に、休ませて欲しいと言うと、よほど顔色が悪く見えたのか、すんなりベッドを使わせてもらった。



保健室のベッドで休んでいたら、いつの間にか寝てしまっており、気づけば放課後。


「……寝すぎた」


「ぐっすりだったねー」

いきなり声をかけられ驚いた。



「大丈夫?今日ほんと辛そうだったよ。はいこれ、今日のノート。」

この前貸したノートのお返しらしい。


「……ありがとう」

と小さく返し、ノートを受け取った。

中を見ると、綺麗で色鮮やかな字が並んでいた。



ノートを見ていたら、また無性に悲しくなり、彼女の顔を見た瞬間


まるで糸が切れたように涙が溢れだした。




それを見た彼女は、何も言わず、静かに背中をさすってくれた。


凄く小さくて、温かい手だった。


なんだかこんなこと前にも……



「やっと逢えたね」

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