第16話 寂しい記憶
最初は、1年生の頃の写真は小さいものが多いため、見逃しただけかと思って気にもしなかった。
しかし、何か胸騒ぎのようなものがあり、何度も探してみたが、1年生全員が写っている写真にも自分は写っていない。
アルバムを眺めているうちに、冷や汗が止まらなくなって、少し震えていた。
そのうち、見ていられなくなり、静かにアルバムを閉じた。
しばらく、呆然とし、アルバムの表紙を意味もなく眺めていた。
隣では母が静かに俺を見守っている。
少し落ち着き、やっと口を開くことが出来た。
「……母さん、俺、1年生の時…」
「やっぱりまだ思い出せないのね」
その言葉を聞いた途端、激しい頭痛と吐き気に襲われた。
思い出せない?なにを?高校1年生の頃?
1年の頃はたしか……
「1年生の頃は……」
俺の声は震えていた。何も思い出せないからだ。
「母さん…思い出せない…教えてくれ」
怖かった。
「転校したのよ。高2の時に。だから1年生の写真に載っていないの」
「…転校?」
そんな事を忘れるはずが無いのに、その転校した記憶がなかった。
母が俺をからかっているのかとも思ったが、実際に思い出せないし、母の顔も嘘を言っているようには思えなかった。
続けて母が静かに口を開いた。
「引っ越したのは覚えているわよね。引っ越したのはいつかわかる?」
「中3の終わり…高校入学前だろ?」
そう記憶しているが、自分の記憶に自信がなかった。
「そう。やっぱりそう思っているのね。本当は、高1の終わり、高2になる前よ」
「そんなわけ……そんなことを俺が覚えていないわけが……」
もう頭が混乱して、訳が分からなかった。
「あんたには…記憶障害があって、高一の記憶が無いのよ」
突然そんなことを言われて、理解が追いつかないのか、それが現実だと思えないのか、何も反応出来なかった。
「本当なのかそれ、本当だとしたら何が原因で……」
と言いかけたところで、すごく悲しくなり、涙が止まらなくなった。
結局、母に原因を聞かずに実家を出た。
怖かったから。
家に帰り、また無性に悲しくなり、涙を流した。
悲しかった、寂しかったんだ、あの時も。
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