第18話 夢でしか

「やっと逢えたね」

その少女の言葉はとても小さく、泣き崩れている彼には聞こえていなかった。



伝えたいのに、届かない。


彼の見えないところで、彼女もまた悲しい顔をしていた。




「……ごめん」

普通なら見苦しい姿を見せてしまった事を恥ずかしく思うところだが、

不思議と彼女の前ではそういう気持ちにはならなかった。



泣いて目を真っ赤にしている俺とは裏腹に、彼女は小さくふふっと笑った。


その笑顔にとても癒され、心がだんだんと落ち着ちついてくる。



「落ち着いた?泣き虫さん」

彼女は意地悪な笑みを浮かべていた。


「落ち着いたよ。いじめっこさん」


「えー!私が泣かせたみたいじゃん!」



少しの間、二人だけでまたいつも通りくだらない話をした。


凄く楽しい、幸せな時間だった。




夢でなければ良かったのに。


もう、わかっている。

これが夢だってことも、現実じゃないってことも、

それでも、俺はこの「今」を楽しみたかった。

彼女を楽しませたかった。


少しでも、彼女との時間を大切にしたい。

彼女が好きだから。でも、それだけじゃない。



彼女が今にも消えてしまいそうな気がしたから。



「ねぇ、夏休みになったら花火見に行こうよ!海もいいね!映画館も行きたい!あと遊園地!」


楽しそうにはしゃぎながら言う彼女の顔は、



今にも泣き出しそうだった。

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