第10話 かすれていたもの
朝起きると何かを思い出したかのように急いでスマホの画面を見た。
しかし、画面を見るととくに変わったことはなく、
「ん?なんか今日大事な日だっけ?何かを忘れてる気が……」
自分でも何をこんなに焦ってスマホを見たのかわかっていなかった。
(あ、マンガ忘れないようにしないと。…マンガ??マンガなんて誰に、てかなんのマンガだっけ)
思い出せない。最近こういうことが多い。
違う。マンガなんて最近読んでもないし、会社や友達とマンガの話をした覚えだってない。
…あぁ、またあの夢を見たのか。やっぱりいまいち覚えてないけど、
記憶にないことがあると、あの夢を見たってことはなんとなくわかるようになってきた
最初あの夢を見たときはかなり印象的で、すごく特別な夢のように感じていたけど、
ただ、最近はおそらく何度もあの夢を見ている。
少し慣れてきたというべきか、なんというかうまく言えないけど、あまり不思議な感じをしなくなってきた。
夢なのに、それもまた自分の世界、現実、そんな気がする。
ふと、ケータイに映るある名前が浮かんできた。
「タケル…。タケルか…友達だったかな。ケータイ懐かしい」
少し、夢の中のことが思い出せるようになってきた。何度も見ているからだろうか。
「でも、あいかわらずあの子のことは思い出せないか」
いつも全然思い出せないのに、あの子にも夢の中で会っている。それだけはわかる。
ただ、この日は少し違った。
「…メール、そうだ。あの子からのメールをずっと待ってたんだ!」
思い出せたことが嬉しくなり、おもわず少し声に力を入れてしまった。
やっと思い出せた。だから朝あんなに焦って。
「バカだな俺…ッフフ」
自分のことなのに、どこか他人事のように、自分の高校生のような行動に少し笑ってしまった。
そうだ、また一つ思い出した。あの子は部活をしている。それを思い出したのは今日じゃない。
昨日か、一昨日かに一度思い出している。
かすれていたものが少しずつ鮮明になっている。
最近、夢のこと、夢のあの子のことを考えては、結局思い出せないことに、苛立ちと悲しみを感じていたが、
ようやく、今日と。前のように少しずつ夢を思い出せるようになっていくんじゃないかという希望みたいなものを感じ、とても嬉しかった。
この先何回も、あの夢を見続けることが出来たら
「ひょっとしたら、このまますべて思い出せるんじゃないか」
でも、思い出したところで…なんになるんだ?
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