第23話 耳を澄ませば

キーンコーンカーンコーン


午後の授業が始まった。

午後の授業は、美術、音楽、書道の三科目から選べる選択授業だ。



俺と隣の彼女は絵を書くのが好きなので美術の授業を選んでいる。

決して、彼女が美術を選んだから俺も合わせたわけではない。


ラッキーだとは思ったけど。



タケルは、楽器が弾きたい!といって音楽を選択したが、歌が多くてつまらないと言っていた。




美術は一番好きな授業だ。

絵を描くのは楽しいし、いつも授業中にうるさいやつらも集中してて静かだから。



自分も時間を忘れてしまう程集中して絵を描く。

しかも、妙に細かいとこまでこだわった絵を描こうとしてやたら時間がかかってしまう。



そのせいで授業中に絵が完成したことは無く、いつも放課後残るはめになっていた。



それでも居残ってやる事は嫌ではなかった。

絵を描くことは嫌いじゃないし、中途半端なまま完成させたくなかった。



それに、彼女もまた、よく居残って絵を描くことが多かったからだ。




放課後


いつも通り、今日の授業で完成させないといけない絵が完成することは無く、居残りするはめになった。


美術室に行くと、いつも居残りするメンツが来ていた。

だいたいいつも残るメンツは決まっていて、皆同じような性格なんだろう。



先生がいないにも関わらず、皆真面目に作業に没頭している。


凄く静かで、小さい音も良く聞こえてくる。

筆を水につける音、椅子のきしむ音、深いため息のような呼吸音。


耳を澄ませないと聞こえない音も、ここなら簡単に聞こえてくる。



耳を澄ませば、たまたま隣で絵を描いている彼女のまばたきの音も、心臓の音さえも聞こえてきそうだ。


そう思うと、自分の全ての行動が彼女に筒抜けのような気がして、なんだか凄く緊張した。



緊張しながら絵を描いていると、ふと視線を感じた。

ちらっと横を見ると、彼女が目を細めてこっちを見ていた。


ただしくは自分に向けられた視線ではなく、自分の絵に視線は向けられていた。



あまりにも険しい顔で絵を見ている彼女にたじろぎながらも、


「な、なに?」

と小声で聞くと、


絵と俺の顔をわざとらしく交互に見ながら、

「意外と…絵上手いんだね…」


と、バカにされてるのか褒められてるのかわからない微妙な返答がきたので、軽く肩パンをしてやった。



彼女は周りを気にしながら小さく笑った。



俺は肩パンとはいえ彼女に触ってしまったことと、さっき顔を間近で見てしまったことが恥ずかしくなり、一人でドキドキしていた。




もし、このドキドキが彼女に聞こえていたら、彼女は

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