第22話 幸せな時間

「あ~気持ちいい~、泳ぐんじゃなくて浮かんどきて~」


「さっさと行ってくれない?俺まで怒られるだろ」


タケルがアホなことをしているのを後ろで眺めていたら、隣のレーンからフフッと小さく聞き覚えのある笑い声が聞こえた。



ふいに聞こえたのでなんの警戒もなく隣を見ると、そこには水着姿の彼女が目の前に映った。


「タケルくん相変わらず変なことしてるねー」


「あ、うぅん、そうだなー」


明らかに動揺し、一瞬煮え切らない返事になってしまう。


油断していた…。

顔が赤くなっていくのが自分でもわかり、すぐに水の中に入った。



避けるような態度になってしまったかもしれないと、少し後悔しつつも、恥ずかしさが勝っていたのですぐに泳ぎ始めた。



泳ぎながら、彼女が見ているかもしれない、良いところを見せたいと無意識に思っていたのか、

いつもより力んでしまい、前を泳ぐタケルに追いついてしまって手を蹴られた。




その後、何本か泳いだあと、ピーッという笛の音で水泳の授業が終わり、

各々、タオルを体に巻いて着替える場所へと向かった。



俺はこの移動の時がなんとなく好きだ。


まだ他のクラスは授業中のこの時間、

静かな学校、濡れた廊下、響き渡る足音、

小声で話すやつら、皆ほぼ裸の状態で堂々と歩いている。


いつもと違う感じが好きなのかもしれない。



そんな事を考えながら歩いていると、

前を歩く彼女が目に入ってきた。


水色のタオルをすっぽりと頭からかぶって友達と一緒に歩いている。


水色好きなんだなー、髪濡れてて色っぽいなー、綺麗な足してるなー


とか考えながらなんとなくじーっと眺めていると、隣にいたタケルに肘でど突かれた。


「お前見すぎじゃね?」

と笑いながら静かな廊下で言ってきたため、少し廊下に響いた。


タケルもさすがにヤバイと思ったのか、すぐに真顔に戻った。



彼女にその言葉が聞こえたかはわからないけど、ちらっとこちらを振り返って少し笑った。



その姿を見て、俺も少し笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る