俳句のようなもの

作者 青丹よしお

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目次

連載中 全211話

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  1. 春の雨湯のごとたぎちけぶりけり
  2. 路地裏は枝垂桜のはだれかな
  3. 死ぬる日は開いてあれな桃の花
  4. 朧月或緑の龍ひそむ
  5. 逝春をしづかにわらふ人は誰
  6. 公園の丘よこぎるやほととぎす
  7. 常盤木はいづれと問へば夏の声
  8. 意思なれや風立ち網戸波打たす
  9. 月影のててなしごかやあぶらむし
  10. 腥きもの埋もれけり雪の中
  11. 行人を一日の友の花見かな
  12. 自動車やあわただしくも月の客
  13. 花茨苦しき道も敢へて行く
  14. 短夜や踊明かして星一つ
  15. さびしかろ雪降る池に舞ひおりて
  16. 湯煙を立てて鮮血ほとばしる
  17. 烏逐ふ白鷺ありや奈良の里
  18. 飛行機の落つる日ありや蝉時雨
  19. 俳聖の跡伝へよや田植歌
  20. 朧夜や画を盗まるる美術館
  21. 刀閃のしてはらはらと桜かな
  22. 死する風あらば生まるる風あらん
  23. 秋の蚊の太つたを打つ躊躇ふや
  24. 閑古鳥其は唐土の士なりしか
  25. 逝夏や身に負ふ傷を爪の痕
  26. さるすべり花のあはれはその名前
  27. 山の上に神あり海に鯨あり
  28. 誰をかも痴人にせん女郎花
  29. 行く水の流れや絶ゆる春の川
  30. 目眩く夏は穂麦の朱きより
  31. 朝の落蝉夕の風に動きけり
  32. 銀杏家のぎんあん坊と人は呼べ
  33. 七年の闇立消えて蝉時雨
  34. ここに来て人恋しさや三十三才
  35. 月の夜や洗濯物の乾く音
  36. 満を持して一足先に紅葉哉
  37. 秋物の服や美人を隠しけり
  38. 五月雨や秋津島根に武を布ける
  39. 名月や黄金に優る銀も
  40. 梅雨空や珈琲通が胃のもたれ
  41. 素直さは古酒の辺に忘れけん
  42. 信天翁三顧の礼を用うべし
  43. 春の山古事記の民も遊ぶらん
  44. 鵯や花を団子と為す心
  45. 月下逍遥置処無き露の身は
  46. 女郎花打靡きけり我の方
  47. 葉隠れて赤き服さへ曼珠沙華
  48. 人の世は長からずやは朧月
  49. 振向いて見返る猫や月の下
  50. 子の刻や月に守られて水浴びん
  51. 唐土や西北かけて三日の月
  52. 後の月序でと許り見上げゝり
  53. 憐れやな人離果てて夕雲雀
  54. マスクして美人優れり恒の顔
  55. 暗き家に鬱々とせり薬喰ひ
  56. へうへうと世を渡りけり北の風
  57. 梓弓春も矢のごと過ぎにけり
  58. 冬の日のうちけぶりつゝにほひけり
  59. 夜桜や神代の人に夜明けつゝ
  60. 鵯に菓子の家溶けん花の雨
  61. 凍星や塵は無けども目に涙
  62. もみづるや饂飩に七味唐辛子
  63. 冒険の日々有らしめよ春の虹
  64. 猫小鳥来よ倶にせん日向ぼこ
  65. 斯くしつゝ更けゆくものか冬の星
  66. 空しさや千万弗の北颪
  67. 猫はさぞ後の世かけてひなたぼこ
  68. 猫も恋す況んや人においてをや
  69. 蛸焼に寒さを凌ぐ涙哉
  70. 蝋燭の涙尊き聖夜哉
  71. あなかしこ蚯蚓の跡を御目汚し
  72. 冬の陽や清らに舞へる綿埃
  73. 悴む手労る夜や星の声
  74. 山茶花の咲くうれしさよ庭雀
  75. 玉川や誰が斧落ちて暮の春
  76. 枯菊の墓前は風のすさび哉
  77. 聖夜もたゞ暁の鳥の声
  78. 足跡の消残るらし今朝の雪
  79. 煤掃けば身の下闇に積もる哉
  80. 逝春や岸を離るゝ鴨の声
  81. 唐猫や惰眠貪る花の中
  82. 根雪して隣の池の青きこと
  83. 薮入や頼みもせぬを人の親
  84. ぶらんこや来る人有れば帰る人
  85. 飛石を伝歩くやけふの月
  86. 彼我の間に通じて寒し龝の風
  87. 霜の声美しき日の初哉
  88. 毒親の縁断ちし身や鰒汁
  89. いざゝらば鬼の居ぬ間に鰒喰はん
  90. 街は昏れて足下寒き暗渠哉
  91. 山茶花や洗濯にゆく雨の中
  92. 湯槽へと銭ばらまかん冬の雨
  93. 呼合ふや霜々の聲星の聲
  94. 夜を待つ狐有りけり朧月
  95. むつとして外に出づれば寒哉
  96. 椋鳥と思へる我ぞ帰りなん
  97. ひいやりと炬燵蒲団の冷たさよ
  98. 飛行機のとゞろと鳴るや雪の上
  99. 寝心や電車に揺られ春を待つ
  100. 大雪や仏の大慈隠るほど
  101. 春風や東を西と聞きながす
  102. 冷たさを眼と鼻先や窓硝子
  103. 春風やねむたさまさるプロポヲズ
  104. 一春を寝過さばやな雲の下
  105. 潮浪轟寄すや春の河
  106. 電車より降りればそこは春の苑
  107. 碗底に煮干の骨の寒さ哉
  108. 青狸辛くも化けて社会人
  109. 鵯の去りがてにして春暮れぬ
  110. 春めくや馥郁として帋の屑
  111. 物言はで去りゆく人や春の雨
  112. 春眠や二分で済ます歯の掃除
  113. 眠たさを空に浮かべて春の雲
  114. 静かさや春の夢見る枕元
  115. 耳の穴塞ぐや風の冷たさに
  116. 雪解けて酒酌み交はす男達
  117. 春風や二人で渡る長柄川
  118. 恋猫や醫の匙の投げ加減
  119. 春めくや漢方薬を白湯で呑む
  120. 春めくやこゝろの箍の弛む音
  121. 春雨や蠢出づる本の虫
  122. 焼色や春の眠りを覚ましたる
  123. 花園にかはいゝあの子尋ねばや
  124. 終るべき命なりしを春の夢
  125. 青春の一幕爆ぜて遠花火
  126. 俳諧は薬籠中の雲の峰
  127. 清水の舞台消去る朧哉
  128. しまうまに陽炎立つや地平線
  129. 靴紐の白き解ける麗哉
  130. 桜見や城下を出でゝ摂津峡
  131. 春の日や畳の薫に明けそめる
  132. 薬草を買ふ足でする花見哉
  133. 春雨やふるに委せる日記帳
  134. 菜の花や黒き列車の右左
  135. 春雨や紺のコヲトを濡らしゆく
  136. 道連れのあるうれしさや畠を打つ
  137. 花冷えや手を温める缶珈琲
  138. 青空や水田にゝほふ桃の花
  139. ゆく夏や王者は膝を屈しけり
  140. 天翔る少女らの日に暮遅し
  141. 吊るしおく衣艶かし春の夜
  142. 薔薇咲くや仏蘭西人の流血事
  143. 腹黒き女過るや花薔薇
  144. のどかさに虻の飛込む和室哉
  145. 菜の花に為損ねたる胡蝶哉
  146. 梅が散り桜が散るや山笑ふ
  147. 葉桜や昼から麦酒飲まんとす
  148. 春深し仔犬隠るゝ草の陰
  149. 翡翠や水面かすめて風光る
  150. 一寸の虫にもかくて繭の玉
  151. 春はなほ曙杉のにほひかな
  152. さみだれやすくすく育つ燕の子
  153. つばくらめ翔るや牡丹散らんとす
  154. 床の間の束の間あかき牡丹哉
  155. 一人またひとりと去つて春暮れぬ
  156. 青嵐美人の睫かすめけり
  157. 秘置きて深く蔵せる牡丹哉
  158. 馬小屋に児や生まれたるながれ星
  159. 薫風や袖より覗く金時計
  160. 手作りの石鹸匂ふ春の夢
  161. 躑躅して咲埋めけり川の空
  162. 若葉よりしたゝる月の雫かな
  163. 憎まるゝ身はながらへて更衣
  164. 先生と呼ばれてみたし更衣
  165. 目を喰つて魂抜くや桜鯛
  166. 桜花散るや西行く人の上
  167. 銀漢や曙杉に落ちかゝる
  168. 木苺や無きにしもなき恋心
  169. 星屑になる鳩あらん若葉風
  170. 黄泉の国見てきた顔の乙鳥哉
  171. 古き日の夢見心や雑煮腹
  172. 若草の香を嗅ぐねこや隠れ顔
  173. 医者の娘の病気がちなる若葉かな
  174. 西班牙の青嵐見せよ風車
  175. 青嵐にすゞめ訪来る欄干かな
  176. 信号にかゝりて風の若葉かな
  177. 向日葵やマウンド暑き砂埃
  178. わが辱もこの虫干に命かな
  179. 若葉風美人のなみだかはくらん
  180. 退屈な男笑ふや青嵐
  181. 晴れかゝる雨に若葉の光かな
  182. 蝙蝠に月紫の夜更哉
  183. 負ぶはれて見た夢もあれ風車
  184. 夏の日に背けた顔の暗さかな
  185. 夏めくや海の香を吐く蜆汁
  186. 夏立つや大河の水のさゝ濁り
  187. 夏はもうそこに来てゐて走り出す
  188. 千本の虹をくゞるや乙鳥
  189. 紫陽花やいづれはあれど黒き傘
  190. さみだれや花に飛ぶ蛾の余所ごゝろ
  191. 五月闇しのびいりけりむねのうち
  192. 涎して枕ぬらすや春の夢
  193. さみだれや盥をこぼす大男
  194. あぢさゐにせめてもいこへ道祖神
  195. 春の夢湯の沸く音を限りかな
  196. 延々とつゞく洋琴や蝉時雨
  197. 遠花火美人の頬や紅潮す
  198. 箸を折る音響きけり五月晴れ
  199. よねほどの蜘蛛流るゝやあをあらし
  200. あぢさゐやおとなの猫を隠すほど
  201. 忠犬を寒からしめて青嵐
  202. 緑風や香に懐かしむ水薬
  203. 天井の染み数ふるや五月闇
  204. なゐふりてさつきの晴間戻りけり
  205. 暖簾なる蠅を討取る手際かな
  206. 職員の会議つゞくや雨蛙
  207. 沈みゆく舟音速し五月雨
  208. 落雷や頭の螺子のひとつ飛ぶ
  209. 五月雨や湯浴みの後のをとこぶり
  210. 貫禄の我と滲むや親雀
  211. 敷居踏む心安さよ夏来る