第二部 其の二
サカミ姫と、
やがて、ガガイモが目を
「はて……。何がどうなったのだ? 下郎ども。
「そ、それはこちらが尋ねたき事じゃ……」
と、サカミ姫が
「何の為に
と、
「
ガガイモは鼻頭に
「
サカミ姫は足下に転がる焦茶の木の実を差して、
「し、しかし、そなたが何やらやった後ではないか。風が震え、凄まじい音が鳴り、ころん、とこれが落ちてきたのじゃ」
「
と、
「おお、それよ」
ガガイモは腕組みして、
「
土の上に踏ん反り返り、鼻息を荒げるガガイモに、二人は困惑するばかりだった。やがて、サカミ姫は爪先立って背伸びをし、
「これは相当、低級の
「つまり、
「
「姫御。それを
二人が再び目を向けると、ガガイモが顔を真っ赤にして睨んでいた。どうも、話が聞こえていたらしい。ぎちぎちと
「ゆ、ゆ、許さぬぞ。ぜ、ぜ、絶対に。一切合切、金輪際、神たる
「また天雷を呼ぼうと云うのか? 先刻は
と、
「や、や、やり方を間違えただけだ。天より落ちて頭を打った
「
「黙れ、
ガガイモが云った瞬間、辺りの空気がまた激しく震え始めた。
サカミ姫は怯え、側近の懐深く潜り込みながら、
「あ、
直後、ガガイモがサカミ姫を指で示して、
「また、罵りを抜かしおって。そこな
「……姫御こそ、挑発しているではないか」
と、
「ガガイモ殿。
「益はある。害虫どもの姿が消えれば、
「是非にも、我らを攻めると?」
「問答無用だ」
「左様か……されば、仕方あるまい」
「ガガイモ殿、これだけは申しておこう」
本性を現した
「サカミの姫御は、
しかし、ガガイモは返事もせず、睨み返して来るだけだった。
「
と、
「狐狸変化などは云うに及ばず。並みの精霊・神霊なれば、この
「…………」
「黙っていては解からぬ。やるのか、やらぬのか」
間もなく、サカミ姫が彼の尻毛を引っ張って、
「……
「何故だ? 姫御。まだ、ガガイモ殿の――」
「ガガイモ殿は気を失うておる」
「なに?」
「姿を戻して、確かめてみよ。相手が小さ過ぎて、そのままでは見え難かろう」
「随分、威勢の良い事を申したが、非力が上に酷く小心の神のようじゃのう。
「しかし、こうなって尚、尻尾を出さぬからには、
「そうじゃのう。神王どころか一番下っぱの神に相違ない。何ぞ、頼み事をしようにも、叶える力はなさそうじゃの」
「これから如何するのだ? 姫御。再び、
「いや、今宵は終いとしよう。ガガイモ殿の事はどうするかの?」
「このまま放っておけば良い。気が戻れば、勝手に元の場所へ還ろう。
サカミ姫は同意し、
密儀の片付けが終わると、二人は連れだって
◇
サカミ姫の父・
この頃、サカミ姫が住居としていた場所は、
すると、直ぐに
「やっとお目覚めか、
「そなたと比べんで貰いたいのう」
サカミ姫は口を尖らせて、
「人の身は
「なれば、夜更かしは止めるべきでは?」
「そなた、姉君のような事を云うのう。それとこれとは話が別じゃ。ともあれ、昨夜の諸々で疲れた故、中々、床を出られなかったのじゃ」
「確かに。色々とややこしい成り行きであったからな」
と、
「が、まあ、そう落胆するな、姫御。次はもっと良い
「こりゃ
と、サカミ姫は凄まじい剣幕で
「解った。解った。
と、
「ま、それは善いとして……
「姫御が案じるのも解るが、相手は
「近隣の者に見られたら何とする? この宮に化け物がおるなどと噂が立てば、
そなたはここを去る事になろう。そうなれば
そう云ってサカミ姫は肩を落とした。
二人の付き合いの源を辿ると、五年前、まだ幼かった姫が瀕死の子狐を森で発見し、離宮に連れ帰ったのが事の始まりである。姫は姉の
程無く、
自ら怪異を招きがちなサカミ姫を守るのに、
「姫御、そう悩むこともなかろう。昨夜は、変化したのも一瞬の事。そも、あのような夜深き刻限に、見ておった者があるとも思えぬ」
と、
「ま、そうであろうとは思うがのう……」
「どうせ悩んでも始まらぬ。次の
「うん、そうじゃの。それが良い。
そう云って、サカミ姫は
丁度、その時……。
「その事につき、頼みがあって参ったのだが」
と、どちらのものでもない声が間近で云った。
慌ててサカミ姫が足下に目をやると、見覚えのある小さな生き物が立っていた。
「そ、そなたは、ガガイモ殿……。な、何故、ここにいるのじゃ」
復讐に来たのかと身構えたが、ガガイモの態度に昨日の威勢の良さはなかった。
がっくりと項垂れ、何度も溜息をつきながら、
「昨夜の事……どうか、他言無用に願えぬか? 狐に吃驚して気絶したとあっては、
「何だと? 勝手に参って、矢次ぎ早に二つも頼み事か。なんと図々しい神じゃ」
呆れるサカミ姫を遮り、
「まあ良い。先ずは申してみよ、ガガイモ殿」
ガガイモは地面に視線を落としたまま、
「実は……。麿が何処の誰であるのか、一緒に探って欲しいのだ……」
「はっ?」
「色々考えてみたのだが……
「…………」
【続】
大和起つ ~五王の憂悶~ 朱里井音多 @Shurii_Onta
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