第二部:つくも神ノ王 -サカミノヒメミコの物語①-
怪異好きな姫君と化狐と『つくも神の王』を名乗る非力な精霊の冒険物語。
第二部 其の一
夏の終わりの或る夜、天空を引き裂くように赤い星が降った。とは云え、国中が寝静まった深更の頃合い
五王国の一角を成し、広大な平野部を擁する
そのうち小さい方の影は、高貴な身形の幼い少女――即ち、三野国の王・
「むう。長く引いた光の尾が、
と、今年で十一になるサカミ姫は満足げに云った。それから、脇へ振り返り、
「そうは思わぬかや?
「ふうむ。そも、
聞き返したもうひとつの影は、姫の守役の
天衣無縫な姫君の傍を、片時も離れず付き従う近侍の男であり、姫の最大の理解者でもあった。
「
と、サカミ姫は説明した。
「ああ。黒彦とは、例の物造りの好きな王子の事か。姫御の従兄弟殿であったな」
「左様じゃ。何でもお創りになる。
「さりとて、清掃の具を献上して如何する? そのようなもの、大王が喜ばれようか」
と、
サカミ姫はくすくすと笑い、
「さあのう。黒彦兄は
「それよりもだ、姫御――」
と、
「あのようなものが現れた後だ。今宵、『
「それは、また、何故かの?」
「海向こうの大陸の国々では、不意に空へ
「ほほう、
サカミ姫は
「魔の憑きし星とは好い事を聞いた。
「何故、好都合なのだ? 姫御」
「
「それは心得ている。然し、
すると、サカミ姫はすいと胸を反らし、
「先程も申したであろう。今宵は、
そう云って、丘の外れの
彼としては、危険の付き
◇
サカミ姫が行わんとしている
如何にも
「さて、これで準備は整うた」
と、サカミは上機嫌に云い、
「日取りも良し、刻限も良し。今宵こそ、
「最初にその言葉を聞いてから、早や、
と、
事実、サカミ姫がここで
「ぐちぐち云わんでもらいたいのう。嫌なら帰れば良いのじゃ」
と、鬱陶しげにサカミは云った。
「いやいや、ここへ付き合うのは
「今宵の密儀が不首尾に終わってから考える。
「そのような言は聞いた事もない。二度ある事は三度ある、とは申すようだが」
「もう黙っておれ、
眼前に並べた神具や供物のひとつひとつを取り上げ、頭上に押し頂いて祈りを捧げる。世事とは似つかぬ奇怪な儀式だが、九十九度目ともなれば慣れたものである。鮮やかとも云える程に洗練した手つきで、
が――それから、
「……ふむ。今宵も御留守のようじゃの」
と、サカミ姫は負け惜しみの如く呟いた。
密儀にて、
「なれば、
「
「愚弄はせぬ。姫御の根気の良さに感服したまで」
「きいっ。次は必ずや
そう云って、
「あ、
「如何したのだ? 姫御」
と、背後に駆け寄って
「あ、あれじゃ……。あれを見よ……」
サカミ姫が指を差した先は、屋外に広がる笹林の一画だった。
熊が
「姫御。まさか、あれは」
「
唾を飲み込みつつ、サカミは云い、
「か、
「ふうむ。ともあれ、確かめてみるか」
二人が寄って行って間近に見下ろすと、その生き物は実に不思議な姿形をしていた。大きさは
生き物は死に掛けのようにも見えた。仰向けにひっくり返ったまま、目を閉じ、眉根を寄せ、
しかし、姫が手を伸ばして触れようとした途端、驚く程の早さで身を起こし、
「き、き、気安く触れるでない。この
二人の方を見上げ、蚊の鳴くような声で喚き始めた。
「あのう……そなたは、何者じゃ……?」
サカミ姫が
「
肩を
サカミ姫は後ろを向き、興奮気味に、
「やはり、神様じゃ。
「そうと決めるのは早かろう」
と、
「一体、何故じゃ?」
「ガガイモなどと云う神は聞いた事も無い。
すると、ガガイモは金切り声を上げ、
「な、な、な、何だとっ? そこの
「貴殿が神とは即座に信じられぬ。真だと云うなら、証を見せてもらえまいか?」
と、
「お、おのれえ。神の中の神である
ガガイモはわなわなと身を震わせ、
「神に対し、神をも畏れぬ罰当たりなその態度。神掛けて許せるものでないぞ。望み通り神の証を見せてくれよう。我が神懸りの神力にて神隠しにしてやるわ」
瞬間、周囲の空気がびりびりと震え出し、サカミは慌てて身を
その直後、稲妻の如き轟音が空を走り、サカミたちの足元に何かが落下した。
ころん……と、転がってきたその物体は、果たして丸々太った
【続】
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