第14話 現実クラッキング
「危ない!」
誰かの声がしたときには、遅かった。
自動車が歩道に乗りあげた。金属的ないやな音がして、
制服を着た少年が、とっさに少女をかばう。
「ユズル。なんで」
「知るか。体が
少年の
午後3時を過ぎていて、車や人がほとんど通っていないことも幸いした。ほかに巻き込まれた人はいない。しかし、助けを呼ぶ人もいない。
「でもまあ、ハルナが
「誰か、助けて」
声を震わせているハルナへ、
「レイトくん。ユズルが、わたしを、わたしのせいで」
「レイト? ああ、レイトだ。痛くないけど、抜けないだけだ。
左腕を
「シオミさん、お願い」
「
ヘアバンドをしている女性が動く。レイトの
右手で布を手渡すあいだに、時計よりも大きな
少年少女には、何が起こっているのか
「いくら
「そうだよ。なんとかしないと」
「
布を右手で受け取ったレイト。
シオミが右手で
「これを使ってください」
力を共有したレイトの前に、プログラムが組まれていく。カードの形になった。両手がふさがっている少年の代わりに、女性が右手で持つ。
「
エクセキューションカードを、左腕の
アウト・オブ・オーダー
「
「きれい」
二人は、空中に浮かぶ水を見ていた。データにより形作られた、
水が姿を変える。
「これで、交通の
切断した
「こちらも、
「手伝うよ」
レイトとシオミの目に映るのは、事故で
「
水が消えてから、目を
少年の手は女性から
「すげぇな。助かったぜ」
「
「おう」
「うん。
二人が
「大丈夫?」
「ケガしてたら、歩けないだろ」
おとなしい少女に、
「違うよ。レイトくんのほうだよ」
「
二人が笑って、レイトも微笑む。
「お
しかし、シオミも同行することになり、
午後5時。
「そろそろ、眠くなってきましたね」
「遅いな。私は、昼過ぎが
トネヒサとウタコの会話には、
「何か、あったのかな?」
「30分前行動が、社会人のマナーらしい。これは、よくない」
PCのキーボードを素早く叩くケンジ。ディスプレイにデータが
「
心配そうな顔の女性。クリーム色のスーツ姿。たずねられた男性は、微笑んでいる。グレーのスーツ姿。
「よくないですが、
ケンジの席をうしろから見る目に、13インチのディスプレイの明かりは映っていない。
「
すでに画面を切っていた青年。立ち上がり、全員の目を見る。
「仕方ないな。トネヒサは、一人だと心配だし」
「落ち着いて、急ぎましょうね」
チホが立ち上がった。
「狙われるのは、私だけでいい、と思いますが。行きますか」
『
四人と一つのホログラムが、
しずかな
「バス停、こっちじゃないぞ?」
「ほかの人たちを巻き込まないよう、
「ではない。もうすぐ、見えてくるはず」
「何あれ。光ってるよ」
近所の住人らしき
近づく四人は、
民家が水につつまれている。二階にも、屋根にも、どこにも
「時間、過ぎてたか? 悪い。
チホが
「
「どうやら、リアルタイムではなく、
ケンジが
「いや。
「そうだ。気を付けろ。トネヒサ」
「では、さっそく。デリートします」
白い手袋を外そうとしたトネヒサを、ギョウタが
「
「中にいるの? 早く、助けないと」
チホに困ったような顔を向けられて、ケンジも困ったような顔になった。
「いいか、って聞いてんだよ」
『
トネヒサの左肩から、かわいらしい声がひびく。ギョウタに見つめられ、白いものが返答した。
「では、私がサポートに――」
「トラップ
強い口調で
「なら、ウタコ。どうだ?」
「手、
「なんだよ。名前で呼ぶこと、怒ってるのか?
頭を抱えるギョウタ。
「あの。わたしがサポートします」
「いいよ。チホ」
トネヒサをはさんで立つ、ウタコとギョウタ。女性からの
「まだ、
ケンジが口を開いた。
すこし眉を下げていることに、自分で
「じゃ、借りるぜ。リーダー」
トネヒサからメダルを受け取るギョウタ。渡した長身の男性が、
青いデータフローメダルが、
『アウト・オブ・オーダー』
アマミズの声と同時に、左腕に
「……」
右手をのばし、無言で左手をにぎる。
『エクセキューションカード、
体の前で左手を
「使ってください。
「ありがたく使わせてもらう」
カードを右手で受け取るギョウタ。左腕にある、腕時計よりも大きな
「
『
アウト・オブ・オーダー
「エンチャントに組み込む時間がなくて。ソフトウェアテスト済みの、これを使います」
「ああ。そっちができれば、手を
「ちょっと待て。チホ。ケンジの手を
ウタコの言葉に、きょとんとした様子の女性。
「ん? はい」
右手を差し出して、ケンジの左手をにぎった。
チホの左手を、ウタコがにぎる。
「早くしろ」
「なるほど。こうしなければ見えませんね」
ウタコの左手をトネヒサがにぎって、五人が同じ
「今度こそ、いくぜ」
ウィンドウが空中に開いた。右手でふれて、データを
色のついた部分のプログラムを、次々と書き換えていく。
「ネットを使わないタイプかと思ったら、やるじゃん」
感心するウタコ。
「
右手をにぎるトネヒサの手に、力が入る。
「いま、
「ウィンドウを
チホのほうを見て、
「そうか。ギョウタがすごいんじゃなくて、ケンジが手伝ってたのか」
「いえ。よそ見をしているあいだも、
二人の言葉で、
「サポートの勉強、しないと」
チホの右手に力が入った。
「これか。ぶっ
「
言葉とは
ギョウタがウィンドウを
黒い
「あら。
出てきたのは、美しい女性。柔らかな笑みを浮かべた。
「おかえりなさい。お父さん。ともだち?」
五歳の少女が現れた。ギョウタの写真と同じ笑顔を見せる。
「ルミコ。サユリ。
「
「水がきえたよ。ぱーって」
「そうか。よかった。
言葉とは
「入らないの?」
「あとでな。お父さん、仕事があるんだ。ごめんな。お母さんのところに、行ってください」
「はい」
家に入るように
「これまで時間を
「だと思いました」
「えー? ただの、ダメな大人かと思ってた」
トネヒサとウタコの
「こっそり見ていたことがあるのは、知ってるだろ? 上から命令されて、
「
ケンジが
「まあ、もう必要ないが、な」
ギョウタは
プログラムには、人それぞれのクセが出る。
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