第二章 データがもたらす現在
第4話 力を示したい先輩
洋風二階建ての建物。薄いグレーの壁。大きな看板が、ドアの近くについている。屋根は紺色。
建物とおなじく朝日をあびる、東側の入り口。まだ気温は高くない。
夜間と日中で
一階をまるごと、
入り口の金属製のドアから入ると、
一般的な住宅とちがう部分がある。部屋をわけるための壁は最小限で、ドアがない。ただし、トイレや風呂場をのぞく。
おもな仕事場は北の部屋。フローリングの床を歩いて、右にまがる。部屋にならぶ席は、東西で向かい合って四つ。それにくっついた机が北にあり、合わせて五つ。どの机にもタワー型のPCが置いてある。
グレーのスーツに身をつつんだ男性が、北の席に着いている。すこし
北東の席には、女性が座っている。セミロングの髪。やや
「分からないよ。ケンジ」
「チホ。ゆっくりやるから」
隣に座る男性が、こたえた。差し出された手をにぎる。普段着の上に、濃い茶色のスーツの上着を
金属製の机の上に浮かぶ白いぬいぐるみや、
「なにをやってる。
部屋の入り口から、するどい目つきの女性が叫んだ。ツインテール。身長、約150センチメートル。手にはかわいらしい鞄。藍色のスーツ姿で、子供ではない。あまり
「
「トネヒサ! お前が原因か。お前が」
北に座る男性に向かい、ずんずんと近づいていく
遅れたわけではなく、むしろ早めに行動している女性。ケンジとチホが、特別に早く呼ばれただけのこと。
「データがそのまま表示されているから、
「
ケンジは、チホにプログラムの
「メダルが一つしかないので、肌を
『データを扱うには、メダルとの
リスのようなぬいぐるみが
「知ってる。アマミズ。あー、面倒だな」
データフローメダルを
左腕に
データの
ウタコが
「学校でも、教えてくれたことあったよね」
チホが、
それを見て、ケンジは学生時代のことを思い出していた。
制服姿で席に座っているチホ。机のうえにあるノート型PCを見て悩んでいる様子。なにかを話して、不安そうな顔が向けられた。教室にいるほかの生徒の顔は、ぼやけている。
二人で同じディスプレイを見る。椅子に座らず、PCについて教えている。見える腕から、思い出の主も制服姿と
「そうだっけ」
表情を変えない男性に、明るい表情が向けられる。すでに腕の
「何かお礼をしないと」
「いらないよ」
ケンジは、学校で何か礼をもらった気がする。だが、思い出せない。夢の中にいるようなふわふわとした
席を立ったトネヒサ。右手にも左手にも、白い手袋をはめている。二人へと歩く。
「
声をかけられたチホは、立ち上がってまるいメダルを渡した。閉じられるトネヒサの手。青が、白で包まれる。
「そういうのじゃないから、もう言わないでくれ」
椅子に座ったまま、相手の目を見ずに
「わたしからも、お願いします」
「おや。
長身の男性が自分の席に戻り、すこし右を向く。
「ウタコさん。
「名前で呼ぶな。トネヒサ」
眉を下げ、強い口調で命令したウタコ。
今日は、
翌日。午前8時45分。
「
返事を待たずに、ゆっくりと部屋の入り口へ歩いていく。チホとケンジの
「おい。頼まれても困るぞ」
「
ドアのない部屋から出ていき、建物の外へ向かう。
「なんだったかな。アマミズ、知ってる?」
『本日のトネヒサの予定、なし』
一番北側の机の上に座る、白いものが答えた。全長、約30センチメートル。
「ん? なんで、ここにいる」
『
「ここにいろ、って、置いて出ていったのか、あいつ」
ツインテールが
その先には、PCのディスプレイを見つめるチホ。横幅が約35センチメートルの画面に、文字や記号がならぶ。メダルを持っていないため、二人は手を
「気になるなあ。
『クラッキングとして、
「
『
アマミズの答えを聞いて、ウタコがだまった。それにより、
3分後。
「もう、無理。追いかける」
『
「
『
ウタコが金属製の机に
遠ざかっていく、ケンジとチホの話し声。
キーボードを押す音は、のんびりしている。ゆっくりと。静かに。
「ううん……あっ」
小さな体が、大きく動いた。
「危ない。戻ってきたときに寝てたら、何を言われるか」
体を横にゆらして、二人の姿を確認するウタコ。
「大丈夫です。寝ても、起こしてあげますよ」
クリーム色のスーツ姿の女性が、
「甘やかすのは、よくないと思う」
冷や水を浴びせたのは、ボサボサ頭の男性。部屋着の上にスーツの上着をかぶせただけという、やる気の感じられない
立ち上がるウタコ。背があまり高くないため、
「
「ごめんなさい」
「え? 何か用?」
悲しそうな顔で謝ったチホと違って、ケンジは不思議そうな顔。首をかしげている。
「何か用? じゃない。
「
ウタコは目を丸くしている。
「
「お。そうか。って、なんだ、こんなときに」
表情が緩みかけたウタコ。バイブレーションの音で
「さっき出なかったのは何?」
『
トネヒサの声は
「壁に、ラクガキ?」
『
「早く戻ってこい。カメラで見ても、対処できないだろ」
『メダルは置いてあるので、使ってください。戻る前に
「それを先に言え。あ。切りやがった」
ぶつぶつと
「どうすればいいの?」
「アマミズにハッキングの
立ち上がる二人。
『その
「私に任せろ! あいつが戻る前に終わらせる」
目の前の椅子に座らず、立ったまま。左手で、青いデータフローメダルを
『アウト・オブ・オーダー』
アマミズの言葉のあと、左腕に、腕時計よりも大きい
現実へのハッキングにより、データの流れが
「わたしたちには、見えないね。ケンジ」
「まあ、メダルを持ってないから」
「カードが
ウタコがメダルを右手で持ち、
「
『エクセキューションカード、
空中に組まれていくプログラム。
「アマミズは
「バグというのは
「知ってるよ」
教えるケンジと、えへへ、と笑うチホ。柔らかなほっぺに赤みが差す。
ウタコが
『
アウト・オブ・オーダー
「すごい」
「触れてないよね?」
ウタコの作ったカードの
「私がやることを、しっかり見ておくように」
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