第3話 現実ハッキング
トネヒサの
歩道を
「
「
ケンジよりもすこしだけ背の高いチホ。厚底の靴を
脚のポケットからケースを取り出したケンジ。メガネを取り出し、かけた。ケースを定位置に戻す。
「メガネかけてるの、初めて見たかも」
「あ。必要なかったな」
「ほとんど見えない、ってわけじゃないよね?」
「遠くの文字が、はっきり見えないだけだから」
チホからの視線を、ケンジは
「
いつのまにか
二人の足が止まった。西を向く。見上げる建物は、洋風二階建て。薄いグレーの壁に看板がある。
「
「何も書いてなかったら、普通の家みたいだね」
ドアの右側へと近づいた。チャイムを鳴らすためのスイッチがある。ためらうことなく押すチホ。
「ガードを考えていないのか、自信の表れなのか」
スイッチの近くにカメラを発見したケンジ。メガネをしまい、
誰かの歩く音が聞こえて、ドアが開いた。
『こんにちは』
肩のアマミズが先に
「
トネヒサの言葉に従い、運動靴を
「ウタコさん、恥ずかしがらずに
「うるさい。だまれ」
右手の部屋の中から、声が聞こえてきた。部屋を仕切るためのドアがない。壁もすくない設計。そのため、声がよく通る。
廊下から見える、窓のある部屋。ならぶ机は、日差しが直接当たらない中心部にある。木の壁や床もふくめて、
「一見、普通の
部屋に入り、数歩すすんだトネヒサ。ふり返り、右腕を動かして
ふつうの
「実は、ホワイトハッカーの
答えを言ったトネヒサに、二人の反応は薄い。
「つまり、どういうことなのかな」
チホは苦笑いしていた。ケンジが説明する。
「ようするに、
「
「そっちは、間に合ってます」
ひざを曲げて、ケンジのうしろへ隠れるように移動したチホ。せっけんの香りがしても、
トネヒサが、
「では、ウタ……
スーツ姿。藍色。
「お子さんかと思ったけど、違うみたいですね」
向かいの席に着いたチホの言葉。すぐ反応したウタコが、左に座る男性をにらみつける。
「おい。説明してないのか! 十九歳だぞ」
「今、
すこし崩した
「ん。じゃあ、
二人のほうを向いて、
「分からなかったら、すぐ聞くように。
タワー型でグレーのPC本体が、それぞれ机の上にある。チホの左隣に座ったケンジからは、ウタコの姿がよく見えない。
「ここにいる四人以外に、現実のハッキングを続ける
「それで、なりふり構わず人を探していたのか。ここも罠の一つというわけだ」
ケンジがちらりと北西を見上げる。部屋の上部に
「何が問題なの?」
チホの疑問に、すぐ答えるケンジ。
「プログラムだから、
「大問題じゃない!」
「そう。時間が巻き戻っても、私たちには
説明をつづける
「
「
「そうだ。
チホが何度か
「
「
「
ウタコの答えに、がっくりと肩を落とすケンジ。大きく息をはいて
「分かった。クラッキングを
「よろしくお願いします」
頭を下げるチホ。
『よろしく』
アマミズはただ、かわいらしい声を
「まずは、基本的な説明を行います」
左手の白い手袋を外すトネヒサ。右手を胸のポケットに入れ、取り出した。
グレーのスーツにしまわれていた青いメダル。まるくて、材質より軽そうな印象を受ける。白い手袋のはめられた指で、つままれている。
『データフローメダル』
「データの流れか。だけど、
宙に浮くアマミズの言葉に反応したのは、南東の席に座るケンジ。右隣に座るチホが、すぐに口を開く。
「
「……」
向かいに座るウタコは、するどい目つきで腕を組んでいる。口を開く様子はない。
ウタコとチホの席に接していて、一つだけ向かい合っていない机。部屋の北の席に座るトネヒサ。メダルを見つめ、表情がすこし
「実は、
「
「夢です」
トネヒサの回答を受け、ケンジは次の質問を考えなかった。続きをうながす。
「夢の中に現れた、見知らぬ存在。それが、私に告げました」
『世界をデータとして
突然、立ち上がるチホ。セミロングの髪が乱れる。
「アマミズって、クリエイターだったの?」
「いえ。夢で得た
微笑するトネヒサを見て、チホがゆっくりと椅子に座った。
「忘れるといけないので、内容を記録してあります」
「
「素手でメダルを触れることで、世界の
トネヒサが、青いデータフローメダルを
『アウト・オブ・オーダー』
左腕に
「順序立てた現実と違って、データ扱いにして
「略してトリプル・オー」
「アウト・オブ・オーダー!」
ツインテールの女性が叫んだ。つき上げられた左腕を下ろす。
「メダルをセットすることで、
「エクセキューションカードを使うことにより、高度な
二人を見て、チホから笑い声がもれる。ケンジの表情は変わらない。
「次は、
「
「カメラを作動して、映像を出すぞ」
PCのディスプレイには、映像が四角く
ウタコが
「メダルに触れた
トネヒサが、空中で指を動かす。
「書き換えたら、直すまでそのままだ。覚えとけ」
ケンジは、部屋に現れた赤い
席を立つトネヒサ。アウト・オブ・オーダーからメダルを外し、ケンジの横に並ぶ。身長差のため、すこし見下ろす格好。左腕の
「
「まだ正式に
トネヒサは、ただ見つめるだけ。
「クラッキングが狙いかもしれないのに」
「大切な人がいる人間は、そんなことをしません」
微笑するトネヒサを、不満そうな顔でながめるウタコ。左手で
メダルを左手で
「大切な人はいない」
『アウト・オブ・オーダー』
現実がハッキング
「こんな風になっていたのか。世界は」
ケンジは、
実にシンプルにできている。高さすら数値化された、データとしての世界。人間のデータが、
違うところは、
「見えないと分かりづらそうだ」
のばした手の先に発生するウィンドウ。指で
データが書き換えられた。
PCの画面。普通の人が見ている
16個の
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