第13話 何も信じず過ごしてきた青年
横に
その前にケンジが立つ。右の壁の近くには、席に着いているエミカ。
五人がいるのはエミカの病室。メダルを左手で
「アウト・オブ・オーダー」
笑顔のチホが宣言した。
ケンジの左腕に、腕時計よりも大きな
現実がハッキング可能となり、データの流れを感覚で
両手を自由に使うため、手をゆるめて青いメダルを右手で持つ。
「エクセキューションカード、
ウタコが叫んだ。空中にプログラムが組まれていく。ケンジが右手をのばし、カードをつかむ。
メダル単体で、
「え? 私ですか?
トネヒサは
ただし、
「ソフトウェアテスト済みの、
「なるほど。
右隣に座っているエミカを見て、ケンジが表情をゆるめる。
「
「
データに乱れがない様子を見ているのは、ケンジだけ。
「エミカは正直だな。それじゃ、次だ」
三人のほうを見たケンジに、長身のトネヒサが手をあげた。微笑している男性へと質問が飛ぶ。
「ウタコが対処したクラッキング
「
「続きを」
「ギョウタさんですよ。
表情を変えない相手に、トネヒサが続ける。
「そういえば、私は、
「何が言いたい?」
「自分の命を軽く見る
「だから、それがなんだ」
「
データに乱れはない。
「分かった。
「まずは、おめでとう。と、言っておこうか。ケンジ」
少女の言葉に、青年が笑う。
「それじゃ、次は」
「順番でいいだろ。私だ」
腕を組んだウタコが、声を張り上げた。
「ハチジョウ丸の
「なんだっけ? 詳しく教えてくれ」
「アマミズもどきが肩に出現した船ですよ。
トネヒサの言葉に、ウタコがたじろぐ。
「え。読んだことは読んだけど、なんでそのとき、いなかったんだったかな」
データに乱れが生じた。
「エンチャントの
「そうだ。ギョウタが、
「いつの
「黙って来いって言うんだもん、あいつ」
「
「知られたら、おごる相手が増えるだろ、って」
何人かが眉を下げた。ケンジは、
「トネヒサが言ったから言うけど……」
「何かな?」
「
「驚いた。
「それはちょっと、ひどいぞ」
「二人目もシロ、か。いいじゃないか」
エミカに向けて、ケンジが微笑む。その様子を
「わたし、話します」
「なぜ、僕に
チホに聞いたケンジ。ウタコがすごい形相で睨みつける。
「それ、聞いちゃうのかよ! ダメだろ。
途中から
エミカがケンジをちらりと見て、すぐ目を
「
「誰かに頼まれたのか?」
ケンジの声は低い。すこし
「昔、友達がいたの。わたし、何もできなかった」
データに乱れが生じた。
「
エミカが表情を
「学校にいたとき、ケンジはずっと悲しそうで、わたしは何もできなかった」
「友達の話はどうした」
「もう、
「
「
ウタコが
少女が、じっと青年を見つめていた。
取り出されるカード。胸のポケットへとしまわれる。
アウト・オブ・オーダーからメダルを外すケンジ。前に向けて歩き出した。
チホに手渡す。
「今度は僕の番だ」
青年よりもすこし背の高い女性は、メダルを使わない。
ケンジがチホの手をつかんで、メダルを
「いいから。使う」
「うん」
静けさに包まれたエミカの病室で、チホが青いデータフローメダルを
アウト・オブ・オーダーが左腕に現れた。
手に
「はい。これ」
アウト・オブ・オーダーに、
現実へのハッキング開始。データの流れが
「えっと。何を聞けばいいの?」
「
「嘘はないね」
セミロングの髪の女性は笑顔。頭をかかえる黒髪の男性。
「まずは、なぜデータを
「なぜ、データを
「
エミカはケンジのほうを見ていない。光が灯っていない13インチのディスプレイを見ていた。チホが質問する。
「
「
データに乱れが生じた。
「つらいなら、話さなくていいよ」
「話すよ。
「分からないのに、
「
データの乱れが強くなる。
「そんなの。ひどいよ」
うつむくチホ。トネヒサが口を開く。
「やり場のない感情をぶつけることがあるのです。人は。
「それで、身を守るすべを、ハッキングを教えてくれたのが、エミカ」
「
ボブカットの少女が告げた。食材に
「
「データ上は
「ん? 何歳が、何歳に教えたんだ?」
「四歳か五歳だっけ? 僕は十歳だったな。あの時すでに、今の
質問したウタコは、目を丸くしている。笑う二人。
データに乱れはない。
「買いかぶりすぎだよ。でもまあ、ネットワークから
「そっか。ヒーローショーで子供を助けたのは、昔の自分と重ねてたんだね」
「そうかもしれない。でも、それはおかしい」
トネヒサが首を
「クラッカーが、その
「うーん。スパイの
データに乱れはない。
ケンジが苦笑いした。ウタコが口をとがらせる。
「そういえば、三人ともクラッカーだったら、どうするつもりだったんだ?」
「実は、ここにメダルがある」
振り返り、エミカの左手の袖に手を入れるケンジ。緑のデータフローメダルを取り出した。少女はすこし困ったような顔。
「エミカには三人がかりでも勝てないから、大丈夫だよ」
ケンジが、
チホの目に
午後3時。
「協力してくれたら、心強かったのになあ。エミカ」
北東の席で、チホが肩を落とした。うしろの窓から強い光は差し込まない。
「性格はともかく、
向かいの席のウタコが
「
北の席から、静かな声がひびく。トネヒサは微笑んでいた。
「
南東の席で、ケンジが表情をゆるめる。三人の視線が集中して、さらに表情がゆるんだ。
PCのディスプレイに向かう四人。
ケンジの向かいの席では、アマミズが金属製の机の上に座っている。すこし
「誰かと思えば、私でした」
トネヒサが
「はい。
手ぐしで軽く髪型を整えただけの青年が、横目で見た。
「
「何か、
女性の大きな目には、
「午後5時に、ここへいらっしゃる、という
「言いにくいだろ。十七時、で」
「なるほど。それにしても、いつも
おおげさに悩んでいるポーズを取る男性。ツインテールの女性も同意する。
「まったくだ。
「
ケンジは、体をゆらして姿をさぐる。タワー型のPCが壁の役目をして、よく見えない。たまに
「なんでだ。自分で
「知ってると思うけど。人の気持ちがよく分からないんだ。役に立つデータは少ない」
「自分が
目を
「どういうこと?
「ダメだ。言わない。
「では。クラッカーについての
セミロングの髪をゆらして、チホが身を乗り出す。
「
「
ケンジとチホは、シイナギ
「
『次は、
ケンジの言葉に反応したアマミズ。白いリスのようなホログラムを、四人が見る。
「正しい判断だけど、クラッキングを
データとしての世界が存在する以上、作って
どこまでのデータ
人間が引き起こすさまざまな問題。その
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