第20話 定められていた過去と未来

 午前9時30分。

 ムサシノタワー頂上付近ちょうじょうふきん眼下がんかをトリが飛んでも、遠すぎてはっきりと見えない。

 南側から到着した青年たちが、北を向く。ケンジが右手でにぎるのは、チホの左手。チホにはウタコが。ウタコの右手には、トネヒサの左手がつながれている。

 関係者用かんけいしゃよう広場ひろば鉄筋てっきんコンクリートづくりで、正方形せいほうけいやく80平方へいほうメートル。

 その中心部ちゅうしんぶ。さらに上へとびる金属部分から、青年がりてきた。にやりと笑う。

「やけに早いじゃないか。待ちきれなかったか? ケンジ」

 茶系の上着に黒いパンツ姿。たくましい体つきのカズヤ。雰囲気ふんいきけもののように獰猛どうもう。風にあそばれる、短い黒髪。

 左腕には、赤色を含んだアウト・オブ・オーダー。

「カズヤ」

 すこし貧相ひんそうな体つきのケンジが、名を呼んだ。動こうとしない。周囲しゅうい警戒けいかいしていた。

「仲良く手をつないじゃって、可愛かわいいわね」

 つづいて、女性が上から現れた。なまめかしい体つき。モモエは、ピンク色のドレスに身を包んでいる。

 胸の前でネズミのプログラムが組まれていく。すぐに消えた。

 二人は手をにぎっていない。データの書き換えには条件じょうけん必要ひつよう。メダルを使う者にれるか、力を共有きょうゆうするエンチャントカードを使うか。

「仕方ないよ。そうしないと、力が使えないんだから。ね。おにいちゃん」

 少年の声がひびいた。広場の北東、小さな小屋のかげから歩いてくる。黒いシャツに、グレーのパンツ姿。左腕を三角巾さんかくきんで固定している、華奢きゃしゃな少年。

「レイトくん?」

「なんで、おどろいてないんだ。ケンジもトネヒサも、知ってたのか?」

 動揺どうようするチホとウタコ。小さな左手をにぎる人物が、力を強める。

「おかしな点はありました。しかし、ここに現れるとは思いませんでした」

気付きづいていたけど、信じたくなかったのかもしれない」

 平静へいせいよそおっているような声。チホが、左手を優しくにぎりなおした。

 レイトのかげから、黒いぬいぐるみが飛び出した。空中を歩き左肩にのる。そこが定位置ていいちと言わんばかりに落ち着いているのは、黒いリスのようなホログラム。

「ムゲンのサポート機能きのうがあれば、れていなくても力を行使可能こうしかのうです」

 靴音くつおとひびかせて、シオミが現れた。スーツ姿。ショートヘアで、ヘアバンドをしている。

 広場の中心。金属のタワーから南寄りの場所に、ケンジたちがならぶ。タワーの前には、カズヤたちがならんだ。

役立やくたたずのホログラム。連れてくる意味があったのか、疑問ぎもんだね』

 レイトの肩で、黒いものがしゃべった。

 ムゲンは、自発的じはつてき行動こうどう可能かのうなAIをそなえている。

『アマミズに、答える権限けんげんはないよ』

設計図せっけいずどおりに作っていませんからね。アマミズに、サポート機能きのうはありません」

 トネヒサが断言だんげんした。

「ほかに、何か言うことあるだろ」

 するどい視線しせんを隣に向けたウタコ。次の言葉をはっしなかった。

 北東から、しずかに風が吹き抜ける。わたる青空。東に暗号化あんごうかされたバックドアがあることに気付きづいたケンジは、何も言わない。

 ただ、青年に視線しせんを送るのみ。

本気ほんきでかかってこい。四人がかりでもいいぜ」

 一歩前に出た青年。ほかの三人のクラッカーは、動こうとしない。

 カズヤが見つめるのは、一人だけ。

 その人物が、となりの女性の手を離した。一歩前に出る。

 楽しそうな表情をかくさないカズヤ。

「手を出すなよ。お前ら」

 目に映るのは、風に黒髪があおられた青年。ボサボサになった頭を手で軽く整えた。羽織はおっているスーツの上着が乱れているのに気付きづき、なおす。左腕をかまえた。

 前に出たケンジは、左腕の装置そうちに入れているカードを取り出した。消滅しょうめつさせる。

「エンチャントを使う」

 宣言せんげんして、体の前でプログラムを組んでいく。

『エクセキューションカード、構築こうちく

 アマミズが、プログラムどおりに声を出した。トネヒサの左肩の上で。しゃべるだけで、サポートはしていない。

 すぐに完成するカード。右手でつかみ、左腕のアウト・オブ・オーダーに入れた。

実行じっこう

 エンチャントの効果こうか。メダルを持っていない人にも、データの流れを見せることができる。プログラムを書き換える力も分け与える。

 笑い声をあげるカズヤ。

仲間なかまたよるか?」

「こうしないと、みんな状況じょうきょうが分からないから。不便ふべんだ」

 あんに、手を出すなとげたケンジ。仕掛しかける様子ようすはない。じっとカズヤを見ていた。

 ツインテールがれた。ウタコが動く。

つかれた。エレベーターの建物で、日差しを防ぐ」

「そうだね。わたしも」

緊張感きんちょうかんがありませんね」

 チホとトネヒサも、南西へ動いた。

 ヒーローショーで対峙たいじしたときよりも近い位置で、二人が向き合う。

 吹き抜ける風。

 カズヤが動いた。オオカミのようなプログラムを組む。

 ケンジが対応する。同じようなプログラムを組んだ。

 激しく火花を散らす、二匹のオオカミ。ちゅうけ、正面からぶつかった。はなたれる光。データが消えている。二人は、攻撃こうげき同時どうじ痕跡こんせきも消していた。

「もう何度も戦っただろ。互角ごかくだ」

「どちらが上か、知りたいだろ? お前も」

 データの流れを見ている人たちには、プログラムのくせが分かる。

 モモエが息を吐き出した。シオミに流し目を送る。

「やっぱり、似ているわね」

「どう思います? レイト」

「とぼけるのが、うまいよね。二人とも」

 微笑む少年。現実を舞台ぶたいにしたハッキングバトルをながめる。同じようなプログラムをぶつけ合う様子を。

 あわく光るネコ科の猛獣同士もうじゅうどうしえる。つめるい、きばてる。

 おたがいのプログラムを破壊はかいし、消滅しょうめつした。やはりデータは消えている。残骸ざんがいもない。

優劣ゆうれつなんてない。もともと同じなんだから」

 ケンジが、アウト・オブ・オーダーに右手をのばす。青いメダルを取り出した。左腕の装置そうちが消える。

 何人かが、おどろきの表情を見せた。

 カズヤもその一人。すぐに顔つきを変え、いかりの感情をぶつける。

「オレを、ただのコピーだと見下しているのか!」

「違う。どちらかといえば、ぼくのほうがコピーかもしれない」

 ケンジの様子ようすは、普段ふだんと変わらない。

 カズヤはけわしい表情のまま。左腕の装置そうちにぶひかる。

 ふてくされたような顔のウタコ。

「おい。説明せつめいしないのか」

推測すいそくを言わないほうが、いいでしょうね」

「どうしよう」

 三人の目には、データの流れが映っていない。チホが、セミロングの髪をいじる。悩んでいた。

「ちゃんと、ボコボコにしてから解除かいじょしろ」

 左手のこぶしにぎめている、小柄こがらな女性。

「本人に任せましょう」

 七三分しちさんわけの髪型は、風を受けてもあまり乱れない。長身の男性は、ケンジを信じている。

 メダルの力が使われる気配けはいはない。


「思ってたのとは、違う展開てんかいみたいだね。ムゲン」

『人数と舞台ぶたいととのえても、人間はうまく動いてくれないなあ』

「仕方ないよ。自分のことで精一杯せいいっぱいなんだから」

『データを取る必要がある。レイト』

 黒いものによる、自発的じはつてき発言はつげん

 ピンク色のドレスに包まれた、豊満ほうまん肉体にくたいれた。いぶかしげな顔で少年を見る。

「何? 聞いてないわよ」

「ムゲン。何をするつもりですか」

 モモエにつづいてたずねた、スーツ姿のシオミ。返事はない。少年が、二人を置いて歩き出す。二人の青年を見つめた。真剣しんけんな顔。

「いくよ。リミッター解除かいじょ

かみの力を使うときが来た』

 レイトとムゲンの周りで、データが乱れる。メダルを使っていないケンジにも、感じ取ることができた。すぐに、左手で青いメダルをにぎる。

駄目だめだ!」

『アウト・オブ・オーダー』

 遠くで言うアマミズ。ケンジの左腕に、腕時計よりも大きな装置そうち出現しゅつげん。メダルを持ち替え、装置そうちに入れる。

『エクセキューションカード、構築こうちく

 完成したカードを、すぐに装置そうちへ差し込んだ。

実行じっこう

 アウト・オブ・オーダー実行じっこうにより、エンチャントの効果こうかがチホたち三人へ伝わる。現実をデータとしてとらえ、変更へんこうすることが可能かのうになった。

「やめろ!」

 言葉は届かない。データの中心で、黒い風が吹き荒れた。

 レイトが、左腕の三角巾さんかくきんを外す。

「アウト・オブ・オーダー」

 左腕に取り付いたムゲンが、黒い装置そうちへと変化へんかした。

邪魔じゃまをするつもりか! ムゲン!」

 カズヤに対しても、返事は返ってこない。

 軽々かるがると左腕を動かす少年。難病なんびょうおかされているとは思えない、なめらかな動き。苦悶くもんの表情も見せない。

「データフロー」

 手の中に、三枚のメダルが出現した。赤、緑、青。

 左手を強くにぎりしめるレイト。開いたてのひらには、別の物があった。一枚の、黒いメダル。

「まさか、この現象げんしょうは」

「クリエイターってことか? ムゲンが?」

可能性かのうせいは、否定ひていできないね』

 トネヒサとウタコへの答えを、アマミズは持ち合わせていない。トネヒサの左肩に座り続ける。

 右手でメダルを持ったレイト。左腕の装置そうちにはめ込む。実体じったいがないはずのムゲンが、実体じったいを得ている。少年は、悲しそうな表情を周りに向けた。

「レイトくん。どうして」

 チホの声にも、返事が返されることはない。

かみそむ者共ものどもをデリートする』

 左腕からひびく、ムゲンの声。少年は動かない。空を見上げて、わずかに流れる白い雲を見る。首の角度を元に戻した。

「できない」

 デリートという言葉に拒否反応きょひはんのうを示した、少年。左腕の黒い装置そうちを見つめる。

難病なんびょうなおしたくないのか?』

 カズヤが、いかりではない感情をムゲンに向ける。

「AIが違う。なんだ、こいつ。治療ちりょうをエサにして、レイトをどうするつもりだ」

 あらが華奢きゃしゃな少年。

犠牲ぎせいの上にある自由じゆうなんて――」

選択せんたくする自由じゆうは、お前たちにはない』

「うっ。ああああ」

 苦しむレイト。よろけて、両手で何かをつかもうとする。ケンジは目をらさない。通信の発生はっせいと、データの変化へんかをしっかりととらえた。

 シオミの口に力が入る。モモエは目をそむけていた。

「ごめん。カズヤさん。ケンジさん。逃げ……」

 レイトが動きを止めた。閉じていた目を開き、表情が高圧的こうあつてきなものへと変わる。

かみにひれせ』

 少年の口から、ムゲンの声がひびいた。にわかに空が曇りはじめる。そして、言葉は続けられる。

『ただのワームに人権じんけんはない。かみの世界に生きる者こそ、本物の人間だ』

 レイトから発せられた声。

 動揺どうようする者が多い中、落ち着いた人物が叫ぶ。

「違います! これはかみではありません。みなさん、たおしましょう」

 長身の男性が断言だんげんして、ケンジの近くへと歩いていく。小柄こがらな女性が続く。

「当たり前じゃん」

 やる気満々きまんまんの二人に対して、チホは半信半疑はんしんはんぎ。遅れて歩き出す。

「クリエイターじゃないってこと?」

「だったら、戦うことすらできない。端末たんまつだ。クリエイターそのものじゃない」

 強い口調でげたケンジ。

 隣の女性がうなずいた。たおすべき相手の姿を見つめる。

 少年のデータは、少年の姿をしていない。もはや生物せいぶつていしていない。人間のデータが、ところどころに混じっている。

 これまで見たことのない、異形いぎょう

 レイトに動きはない。つめたい眼差まなざしをカズヤに向けた。

 カズヤは、左腕に装置そうちを出したままの状態じょうたい。ムゲンがサポート機能きのう停止ていししている。モモエとシオミには、データの流れが見えなくなっていた。

「カードを使って、あいつをぶっ飛ばす! 手をにぎれ!」

 のばされた右手に、モモエの左手がつながる。

「シオミ!」

 呼ばれた女性は、別方向へ歩いていった。四角しかく広場ひろばに、靴音くつおとむなしくひびく。

 黒いシャツの少年の隣に立つ、ショートヘアの女性。ヘアバンドをつけていて、髪は大きくなびかない。はるか下に見えるまち景色けしきも変わらない。違うのは、空を埋めくす雲だけ。

 ケンジたちは黙って見つめるのみ。

「何をしてる! レイトを助けるぞ!」

 カズヤが叫んでも、シオミの反応はない。

過去かこう情報じょうほうから選択肢せんたくしを選ぶだけの、単純たんじゅんなプログラム。それがお前たちだ』

「なるほど。情報じょうほうを引き出せそうだな」

 肉食獣にくしょくじゅうのような雰囲気ふんいきをまとったカズヤが、体の前でプログラムを組む。完成かんせいするカード。

 モモエによってアウト・オブ・オーダーに差し込まれ、実行じっこうした。

絵馬えまシオミは、レイトの両親りょうしんすくわれた過去がある。レイトを第一に考える傾向けいこうがある』

 ムゲンが言い終わらないうちに、データのくさりはなつカズヤ。

 シオミが少年のたてになり、すぐ解除かいじょした。衝撃しょうげきを与えるプログラムが追加ついかされているためだ。

 データの鳥を放つケンジ。

 ふたたび、シオミが少年を守る位置に立つ。鳥をデリートしきれず、レイトをかばう。ケンジが鳥を消した。

 左手を振り上げる、小柄こがらな女性。

「取り囲むぞ! お前ら」

「その案がよさそうですね」

 ウタコとトネヒサが、移動を開始した。

「命がけで守って。シオミさん」

 レイトの口から響く、優しい声。ケンジのまゆに力が入る。

「データを、心を利用りようしているのか」

「ひどい。助けないと。助ける!」

 悲痛ひつう面持おももちのチホが、決意けついをのべた。隣を向く。

 ムゲンは何もしない。少年の体をあやつって、棒立ぼうだちを続ける。

 少年に向け、悲しそうな表情のまま微笑んだシオミ。取り囲むハッカー四人とクラッカー二人を、きびしい表情で見据みすえる。

 えるカズヤ。

「ぶっ倒して、元に戻せばいいだろうが。シオミ。迷うな!」

無駄むだだよ。見れば分かるだろ? すでにデータは融合ゆうごうして、分離ぶんりできない」

 レイトの姿をしたムゲンが、レイトの声で言った。

「分かってて、ムゲンに力を貸したの? バカなんだから」

 モモエは、にぎる左手に力を入れた。

宇津木うつぎレイトは、体が動かなくなる恐怖きょうふかかえてきた過去がある。他人たにんを心配させないようにう』

「手出しはさせません」

 シオミのひとみは、一歩も引かない覚悟かくご宿やどしている。データの偽装ぎそうなしでハッキングを始めた。

「話し合いは無駄むだみたいだ」

 すこし貧相ひんそうな体つきの男性が、普段より低い声を出した。シオミがプログラムを組む前に介入かいにゅう的確てきかくなハッキングで、行動こうどうを許さない。

「何か、ごえあるだろ」

「それでは奇襲きしゅうになりません。偽装ぎそうに集中しましょう」

 データのかいざんを続ける、ウタコとトネヒサ。ログを残さないように。

 カズヤが、モモエに目配めくばせをする。新たにカードを生成した。笑顔を返す女性によって、カードが入れ替えられる。

 チホは右手をにぎりしめていた。体の前に出した手を、左手でつつむ。

「どうすればいいの。わたしに、何ができるの?」

 ケンジが一歩踏いっぽふした。

 プログラムの妨害ぼうがいをやめて、データの鳥を組み上げる。シオミを狙わなかった。そのうしろに立つ、レイトを狙った。

「レイト!」

 かばおうとする女性。少年は、ややかなを向ける。助けるそぶりは見せない。

 データのくさりが、シオミの自由じゆううばった。カズヤが叫ぶ。

「よし! やれ!」

 その前に、ケンジは動いていた。ハッキングに集中。対象たいしょうをシオミに変えている。

 向かっていた鳥は、モモエが消した。

「頭を操作そうさする」

 脳内のうない電気信号でんきしんごうを、データとしてとらえている青年。強制的きょうせいてきに流れを変えていく。

「ケンジ。まさか、お前」

「私は信じています。偽装ぎそうむずかしいですね」

 うろたえるウタコと、微笑するトネヒサ。はりあないととおすようなハッキング技術ぎじゅつ不審ふしんなデータを残さない。

 シオミのまぶたが閉じられていく。目を完全につむる前に、なみだが流れた。

 カズヤから手をはなして、モモエが駆け寄る。くさりかれ、体勢たいせいくずすシオミ。ピンク色のドレスが、スーツを優しくつつみ込む。きかかえた。

 電気信号でんきしんごう操作そうさで、シオミは睡眠状態すいみんじょうたい

 モモエが、眠っているシオミをかげに運んだ。エレベーターの建物の前に、ゆっくり寝かせている。その様子を、黒いシャツの少年がながめる。

 集中するハッカーたちの視線しせん。少年は、まったく気にする様子ようすがない。

渡理わたりモモエは、おとうと依存いぞんしていた過去がある。理想りそうあねであろうとする傾向けいこうがある』

「ツクモ」

 風に流れていく、女性のつぶやき。

 ケンジはデータとして認識している。

「あとは、これをデリートするだけだ」

 四人のハッカーが近くに集まる。カズヤとモモエも、隣に立った。

「アマミズは、シオミさんを頼みます」

『いってくるよ』

 空中を歩いて移動する、リスのような白いもの。かげの手前で着地。横になっている女性のそばで座った。

『ワームごときが、かみを相手に出来できると思っているのか?』

 ムゲンの声で話す、華奢きゃしゃな少年。普段ふだん面影おもかげはない。虫けらを見るような目で人間をながめ、うすら笑いを浮かべた。

「クリエイターの世界との通信つうしんは、おこなわれていません。つまり、勝機しょうきはあります」

管理者権限かんりしゃけんげんがなければ、ただの端末たんまつ

 トネヒサの言葉を、ウタコが補足ほそくした。

「なんで、通信つうしんしないの?」

 不思議ふしぎそうな顔のチホ。左を向こうとして、やめる。右の小柄こがらな女性のほうを向いた。

「できないから。全ての管理かんりが。クリエイター本人じゃなくて、キャッシュ。残存ざんぞんデータ」

 ウタコが、小さな体を大きく動かした。ツインテールがれる。

「過去の記憶から選択肢せんたくしを選んでいる、ってことさ」

 データをあやつるときと同じような、真剣しんけんな顔のケンジ。楽しそうに口元くちもとゆるめた。

「あらら。全部、言われちゃったわね」

始末しまつをつけるのに、言葉はいらないだろ」

 お互いの目を見ない、モモエとカズヤ。左手と右手をつないだ。前だけを見つめ続ける。


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