二年の春~002

――クスクスクスクスクスクスクスクス……

 

 また耳障りな笑い声がする。

 つまり今は夢の中か…

 去年の夏頃から聞こえてくる、この笑い声。

 そいつは、俺が中学時代に愛読していた、漫画のヒロインにそっくりな顔。

 香水のように、百合の花の香りを振り撒いては、夜な夜な俺の夢の中に出てくる。

 或いは雑談だったり、或いは叱咤だったり、或いは愁いだったり、或いは怒りだったりと、話の内容はまちまちではあるが、何となく解っては来た。

 この女は俺を何とかして助けようとしている事を。

 理由は解らないが、何故かそう思う。

 俺が中学時代に好きだったキャラの姿を借りて、俺の為に。

 そう言えば、中学時代に麻美と本屋に行った時に言われたんだ。

「隆はこの漫画本当に好きだよね~」

 俺は理想の姿形が、このキャラクターだと答えたんだ。

 麻美は漫画を凝視して一言。

「胸だけは負けてるっ!!」

 漫画キャラも設定上はCカップだった筈だが、麻美は中学生。

 まだまだ発展の余地があった筈なのに、悔しがっていたっけ…

――どうしたのダーリン?今日はやけに悲しそうじゃない?

 言いながら、ベッドに横になっている俺の後ろに滑り込み、抱き付いてくる。

 やめろよ…ダーリン言うなよ…

 背中に冷たい感覚。柔らかい胸の感覚。そして鼻腔を擽る百合の花の香り…

 この頃はこの三点セットで現れる。

 そして去年の冬を過ぎた辺りで、何故か俺をダーリンと呼ぶようになった。

 もう全く意味が解らない。

――私は本当に嬉しいのよ。何せ一年の冬を越えた事は今まで三度しか無い。今回で四度目…今度こそ、と思うから。失うのは惜しい感触でしょ?

 その弁だと、俺は三度その感触を失っているようだが。

――ええそうよ。頭が末期で残念な童貞野郎は、女子の柔らかい胸が大好きなようだから…ね。クスクスクスクスクスクス…

 それに、と女は付け加える。

――大分近づいて来たから規制も緩くなってきている訳よ。だからある程度は自由が利くようになった訳…こんな具合に…

 ただでさえ密着している女が、更に密着し、足を俺の足に絡み付けて来た―――

 相手が普通の人間の女子ならば、俺は100パーセント理性を外している事だろう。


 …………


「なんつー事してくれてんだよ…」

 カーテンから漏れ出る光で目を覚まし、俺は項垂れた。

 あの女、大胆過ぎんだろ。大体何に近づいて来たのかが解らないし。

 近づいて来たから規制が緩くなった?

 誰か意味を教えて下さい。

 カーテンに向かって土下座してみた。

「……やっぱり無意味かよ」

 解ってはいたが、取り敢えず何かしらのリアクションを取らなければ、鎮める事が出来ない。

 鎮めるとは、思春期の俺の、まぁ、何だ…

 勝手に言い訳をしながらカーテンに手を掛ける。

「……」

 その儘開けようと思ったが留まった。

 いつぞやみたいに窓にいっぱい、あの女が映っているかも知れないと思ったからだ。

 そんな訳で、習慣になったロードワークをこなし、顔を洗って朝飯をかっこみ、家を出た。

「今日も晴れて良かったなぁ」

 そんな風に独り言を呟きながら、呑気に歩いた。

 いや、無理やり呑気を装っていた。

 あの女の言葉が、チリチリと頭に焼き付いていたから払拭しようとしていたのだ。

 夢を、いや、あの女が出て来た時、俺はいずれかに偏る。

 遅刻ギリギリな場合は頭痛が酷くなった時。

 早く登校する時は、あの女が俺を起こしたような感覚を覚えた時。

 今日は頭痛がしない。つまり俺的には『朝早く起こされた』状況だ。

 早い時間の登校は、少しばかり嬉しい事がある。

 春日さんと朝の雑談が可能になるのだ。

 基本的に大人しい春日さんは、クラスメイトともあまり、いや、殆ど話はしない。

 そんな春日さんは、やはりクラスメイトでも無い俺と話している所を、あまり他の連中に見られたくないようなので、朝早く登校した時くらいしかチャンスは無いのだ。

 なにか、ある女の子に見られたくないから。らしい。

 去年の体育祭前までは結構話したり、昼飯も一緒に食べたりしたのだが、春日さんは『ある女の子』が苦手らしく、目立つ行動は避けたいらしいのだ。

 多分俺と話している所を見られて、からかわれたりするのが嫌なんだろう。

 そんな訳で、メールや電話以外で話すチャンスは学校では殆ど無くなった。

 だから朝早くの登校は貴重なのだ。

 そんなに貴重なら毎日早く学校行けよと言う話だが、それは置いといて。

 B組の教室をヒョイと覗くと、ど真ん中の席に俯きながら座っている春日さんの姿を発見する。

 そして好都合な事に、まだ生徒が数人しか来ていない。

 そんな訳で突撃敢行だ。

「おはよー春日さん」

 ビクッとして顔を上げる春日さん。

 俺だと知ると、すんごい可愛らしい笑顔を見せてくれたが、それも一瞬、慌てて直ぐ様顔を伏せる。

「……おはよう緒方君…」

 嫌われている訳では無い筈だが、やっぱり避けられている感じがして、結構くるものがある。

 だが、理由は先述の通りなので仕方ない。

 気遣って軽く喋って、直ぐに教室を出ようとする俺。

「……あ…」

 顔を上げて手を差し伸ばす仕草をする春日さん。

「ん?」

 出した手を引っ込め、また顔を伏せた。

「……何でもない…」

「うん」

 何か言いたそうだったが、用事があるなら後でメールか電話をしてくるだろう。

 この頃は昼休みのカスタード&生クリームDXの買い出し同行も、拒否られる事もある。

 生徒が集まって来る前に退散をする。

 教室に入ると、疎らな生徒の中に槙原さんがいた。今日は早いなぁ。

 自分の机に鞄を置き、椅子にどっかと腰掛けてから挨拶した。

「おはよー槙原さん」

「おはよう緒方君。今日早いね?」

「少しでも長く、その胸を凝視する為に、早めの登校をしたんだよ」

「私も今日はいつもより早いんだけど…」

「だよね」

 朝から軽い(?)セクハラをしてみる。

 槙原さんが不快ならやめるんだが、ノリが良くて、ついついこんな会話をしてしまうのだ。

「ん?何?」

 ニヤニヤしながらじっと見ていた自分に気付き、小声で「うおっ」と呟いてしまった。

「だから、付き合えば、この豊満な胸は緒方君の物になるんだってば」

「俺は単純だから、本気にするっつーの」

 からかわれるのも慣れた感じだ。

「本気にすればいい」

「本気になったらどうすんだよ?」

「だから、胸も縦笛も、みんな緒方君の所有物となります」

「縦笛は魅力だな」

「縦笛なんかより、直に唇に触れられますよー」

 言って目を瞑り、唇を突き出してくる槙原さん。

 やべえ重ねてぇ。

 思春期故に純粋にそう思った。

「まぁ冗談はさて置き、昨日私の友達に会ったでしょ?」

 ヒロが言う情報戦云々の類じゃ無いだろうが、昨日の今日だから流石にドキッとした。

「それよりも、まず冗談だったのかよ。純粋な少年心が傷ついたよ」

「緒方君は冗談の方が良かったんでしょ?」

 ぬう…心を見透かされているようだ。

 冗談の方が良かったと言うよりは、何か一歩踏み出せないと言う方が正しいかも知れない。

「確かに、友達の紫メイドさんとは、少し話した」

「脈略も無く話戻すねぇ…まぁいいけど」

 呆れるどころか、寧ろ驚嘆する槙原さん。

「じゃあ私から面白いお話をしてあげます。緒方君は自分に自信が無いようだけど、女子に結構な人気があります」

「ふーん。だけど女子で話してくれんのは片手だけで事足りるぞ?」

 いや、話してくれる男子も片手だけで事足りるけどな。

 ……俺って友達少ないなぁ…

「それには理由があります。緒方君に近寄らせないように、色々な策を巡らせている人がいるんです」

 目を瞑りながら人差し指を振る。そんな得意気な槙原さんだが、俺には言っている意味がさっぱり解らない。

「そんな暇な真似している奴が居るとしてだ、それをする事によってそいつにはどんなメリットがあるんだよ?」

「それは宿題としておきます。自分で考えてみてください」

 何だそれ?

 ならばと質問を変えてみる。

「じゃあ俺が女子に結構人気がある理由はなんだ?」

「単純明解。緒方君は普通に格好いいからですよ」

「目つき怖いと言われるぞ」

「そんな短所なんか楽勝で打ち消す事ができる程、緒方君は格好いいのです。私が知る限りでは、少なくとも三人の女子が緒方君に思いを寄せています」

 三人!!ハーレムじゃねぇか!!何かのボーナスイベントか!?

「三人の女子の名前を知りたいですか?」

「是非教えて欲しいね。そんな奇特な人がいるのなら」

 槙原さんは含みのある笑みを浮かべた。

「一人だけなら教えてあげます」

 勿体ぶりやがったなチクショウ!!まぁいい、その一人を教えてくれよ。

 頷いて促す。

 いよいよ槙原さんははちきれんばかりの笑顔をしながら言った。

「私、槙原遥香さんです」

「……………はぁ?」

 真顔で聞き返す。恐らく俺の耳がおかしくなったに違い無い。

 百合の花の香りも強まってくるし、この頃背中に押し付けられている女子の柔らかい感覚も甦るし。

 嗅覚、触覚に続いて、聴覚までおかしくなったんだな。

 耳を小指でほじって聴覚を復活させようと目論み、実際にやった。

た。

「だから、私、槙原遥香さんは緒方君が好きなんですよ。私はこんな朝っぱらから、生徒が疎らな教室でありながらも、人目を気にせず緒方君に告白している状況です」

 首を傾げ、再びにっこりの槙原さん………

「……なんかの罰ゲーム?」

「誰がこんな罰ゲーム提案するのよ」

「じゃあ何でこのタイミングで?」

 唐突過ぎて、重みも恥じらいも決意も、何もかも感じられない。故に訊ねた。

「丁度良かったからね。同じクラスになれたから、今までのハンディ無くなったし」

 今までのハンデ?誰に対してのどんなハンデだよ?

 本気のような感じがまるでしない。

 俺に向けた告白じゃなく、先手を打つ為に言ったような。ボクシングで言う駆け引きに似ているような、そんな感覚を覚えた。

 百合の香りが強まる。背中に押し付けられた女子の二つの柔らかい感覚も、更に押し付けられているように強まった。

「緒方君が考えている事解るよ。真剣味が無い。誰かに対する牽制みたい。とかでしょ?」

 なんで見透かす!?

 流石に百合の香りと柔らかい感覚は、気付きようが無いだろうが。

「察しの通り、さっきも言ったけど、緒方君を大好きな女子、残り二人に対するアドバンテージを得る目的も当然あります」

「……先述のアレか?俺が格好いいからってヤツ?」

「あはは~。違う違う。残り二人はそんな表面だけで緒方君を大好きになったんじゃないよ。普通に格好いいから好意を寄せている女子なんか、初めから相手にしてないしね。尤も、楠木さんはまた違ったけど」

 ……こうもはっきりと自分の考えを暴露すると言う事は、それなりに本気だって現われか?

「だから返事は今じゃなくていいよ。私が告白した事実が、二人の耳に入ればいいって意味合いの方が強いから」

 ……策略的な気配を感じるのは否めない。

 だが、告白された事実はある。

 少なくとも俺が槙原さんを見る目が、今まで以上に好意的になるのは必然だ。

 楠木さんに告白された時同様、授業なんか耳に入らない訳で。

 いや、大抵授業は聞いていないんだけどな。

 いや、言い訳をさせて貰えば、先生の話がつまらないから耳に入らない訳なので、楽しければちゃんと聞く事はできる。

 現に春日さんと槙原さんに教えて貰う時は、ちゃんと(多分)聞いているから、無事進級できたんだし。

 ……俺しか知らない超美少女春日さんと、爆乳眼鏡っ子槙原さんとの二人きりの勉強が、楽しく無い訳が無いだろ。

 常に唇を重ねたいとか、後ろから抱き締めたいとか思っているわ。

 凄まじい自制心を働かせながらの勉強が、拷問に近い事を知らないだろ。

 ……それじゃ楽しく無いよな。

 何意味不明な言い訳かましてんだ俺は。

 そんな訳で、俺は授業中頭をガリガリ掻きながら悶々としていた。

 俺の真横のヒロが、時折不思議そうに俺を覗き込んで来た程度しか、他の事は一切頭に入って来なかった。

 昼休み。春日さんのパン購入戦争をやり遂げ、たまに一緒にと誘われる昼飯をガランとした図書館で取る。

 ぼーっとして箸で掬ったご飯をポロポロ落とした案配だ。

「……どうしたの緒方君?体調でも悪いの?」

 気付かない訳が無い春日さんが、心配そうに顔を覗き込んだ。

「い、いや、体調は悪く無い。悪いのは頭と顔だ」

 プッと噴き出し、購入したカスタード&生クリームDXを脇に置き、コホンと一つ咳払い。

「……緒方隆は頭も顔も悪く無いよ」

「付け加えると、素行も悪いけどな」

 またまた噴き出し、続ける。

「……素行が悪いんじゃなく、不器用なだけだよ」

 うーむ、春日さんに誉められると、かなり嬉しいのは何だろう。

 その食べかけのカスタード&生クリームDXちょっと食べてみようかな?

 間接キスだとか言ってさ。

 ……速攻で嫌われそうだな。

 やめだ。ヤメヤメ。

「いや、朝ちょっと槙原さんに言われた事があってね」

 ……槙原さんに告白された事を、春日さんに言ってもいいのだろうか?

 相談?いや、違うな。何だろこのモヤモヤ感。

 流れで横目で春日さんを見る。

 春日さんは真っ青な顔をして、微かに震えていた。

「え?ど、どうし…」

「……槙原さんに言われた…んだ…そう…そうなんだ…」

 最後まで言わせず、何故か一人で頷き、更に震えを増した。

「う、うん…言われたのは言われたんだけど、戸惑いの方がデカくてね…」

「……そう…だよね…戸惑うよね…誰だってそうなるよ…緒方君だけが特別じゃないから…気にしないから…」

 ???何か話が噛み合って無いような合ってるような?

 おかしな違和感を覚えるな…

「あ、でも、いきなり言われたから実感無いって言うか…」

「……そう…だよね…私口下手だから…言い訳も得意じゃないから…だから…」

 ぎゅっと拳を握り締め、寄せた眉根にシワを刻み、固く目を閉じる。

「……全部…本当…」

 ???やっぱり噛み合って無いようだ。

 槙原さんが告白してきた事は勿論本当だし。

「あ、あの、春日さん?」

 春日さんはそのまま立ち上がり、ぽろっと涙を零した。

 そして…

「……ごめんなさい…」

 そう言って足早に図書館から出て行った…


 一人図書館に取り残されて、ポケッとするしか無い。

「……果てしなく意味解らねー…」

 何故謝られるんだ?

 春日さん俺に何もしてないよ。逆に俺がいっぱい助けて貰ってたんだから…

 食べかけのカスタード&生クリームDXが目に入る。

 それを無言で口に入れた。

「……間接キスになっちゃったよ。だけど勿体無いしな…」

 意味も無く虚無感に駆られて起こした、意味が無い行動。

 ……俺何故か知らないけど、春日さんとキスした事があるような気がするんだよな…

 何故かは知らないけど、確信があるんだ。

 今度は『あんな事』としてじゃなく、ちゃんと繋がってしたかったなぁ…

「…何考えてんだろ?」

 あんな事って何の事だ?

 虚無感からか、おかしな事ばかり思い出してしまう。

 思い出して?

 チリチリと頭が痛み出し、葬儀の花の百合の香りが鼻に付く。

 そしてあの二つの柔らかい感触が背中に生々しく蘇って来た……


 カスタード&生クリームDXを食べ終わり、どこか寂しい気持ちを抱えながら図書室を出た。

 真っ直ぐ教室に戻るのも何か憚れた。

 なので、中庭に寄り、ベンチに腰を降ろした。

 …天気いいなぁ。

「はぁ~っ…」

 目を閉じて溜め息を付く。

「何黄昏てんの?」

 うっすらと目を開けると、朋美が顔を覗き込んでいた。

「なんだ朋美か」

「なんだとはご挨拶だな。隆とお喋りしてくれる超貴重な女子に向かって」

 言いながら俺の隣に腰を降ろす。

「超貴重とか言うな。今は二人も話してくれるし」

「中学の頃は麻美と私だけだったよね」

「…………」

 押し黙る俺を見て、慌てて口を押さえて、ごめん。と頭を下げた。

 そして話題を変えようとしてか、何かあったのかとしきりに聞いてくる。

 朋美に槙原さんに告られた事と、春日さんが急変した事を話してもいいんだろうか?

 春日さんの事は兎も角、告られた事は何かネタにされそうで嫌だな。

「悩み事があるなら話したら少しはスッキリするかもだよ?」

 スッキリする、か…つか、悩み事じゃないんだが、スッキリするんなら少しだけ話してもいいのかな…?

 俺は本当に少しだけ話す事にした。

 兎に角誰でも良かった。聞いて欲しかったのかも知れない。

「実は今朝、槙原さんがさ…」

「槙原?」

 露骨に嫌そうな顔をする朋美。

 去年の秋頃から槙原さんの事をあんまり良く思っていないようなのだが、理由は頑なに教えてくれない。

「槙原がどうしたって言うのよ?」

「なんでそんなに不機嫌になるんだよ?何も言えなくなるだろうが?」

「槙原絡みじゃ役に立てそうも無いな。春日さんとかなら何とか…」

 その春日さんとも、あんま仲良くねぇじゃねぇかよお前は。

 去年の秋頃から、春日さんを見る目に殺意籠もってんじゃねぇか。

 尤も、春日さんは友達が俺しかいないとか言っていたから、朋美も気負わずに相談に乗ってくれるかも知れない。

「その春日さんが槙原さんに言われたと言った瞬間に暗くなったんだよ」

「…………」

 途端に真っ青になる朋美。春日さんと同じ顔色になってしまった。

「…槙原に言われた?…あの女…ふざけやがって…!」

 悪鬼の如くの形相に変わる朋美。

 何か勘違いしているようだが…

「槙原さんに言われたのはな…」

「いい!槙原は結局私との約束破った訳でしょ!?その感じじゃ深い所まで聞いて無いみたいだけど!」

 ???物凄く怒っている朋美だが、俺には一体何の事かさっぱり理解ができない。

「お、おい朋美…う?」

 俺はたじろいだ。朋美が地面を見ながら呟いている様を見て。

「許さない…許さない…許さない…槙原…絶対に許さない…!」

 鬼気迫ると言うか、本当に呪い殺しそうな形相で、ずっと呟いていた。

「ちょ、ちょっと待て。お前と槙原さんが一体何の約束をしたのかは解らないけど、俺が今朝槙原さんに言われたのはだな…」

「うるさいっ!!!」

 ……

 こ、怖ぇぇぇ…

 その迫力に怯む事しか出来ない。

 そして朋美は徐に立ち上がる。

 俺はビクッとしながら身体を反らせた。

「…隆…」

 俯いた儘、此方を見ようともしないで話し掛けてくる。

「う、うん?」

 ひっくり返った声での返事。だけど俺はそこから言葉を発する事が出来そうも無かった。

 朋美の固く目を瞑りながら、大粒の涙を零している様を見てから…

 そして朋美は精一杯涙声を殺して言った。

「ばいばい…」

 俺に一切振り向く事無く、中庭から出て行った。震える身体を頑張って留めながら…

 正に呆然。

 朋美の後ろ姿が見えなくなるまで、俺は間抜けヅラでその後ろ姿を眺めていた。

 そして姿が見えなくなった頃、俺は漸く脱力し、ベンチに深く腰を掛けた。

「……春日さんには謝られて、朋美はばいばい?何なんだ一体…」

 意味が解らない。解った事と言えば、二人共槙原さんと何かあったらしい事だが…

「槙原さんがあの二人に何を言ったっつーんだよ…」

 ヒロも何かキレてたし、だけど紫メイドさんは悪い子じゃないと言ってたし…


――本当の事よ…


 いきなり耳元であの女が囁いた。

 背筋が寒くなり、一気に体温が下がる感覚を覚える。

「ほ、本当の事って…」

 百合の香りが強まり、頭が徐々に痛み出す。

――だから本当の事…あの二人にとって、それは知られてはいけない事…

「知られてはいけない事…」

 復唱する俺。

「弱味を握って脅したって事か?」

――脅し?……ふぅん…そうなるわね…少なくともあの二人は、そう捉えたようだしね…

 クスクスと耳障りに笑い出す。

――それでも貴方は『あの三人』を庇うんでしょうね。優しい貴方は…クスクスクスクスクスクスクスクス…

 グワングワンと揺れる視界。とうとう割れるように痛む頭。

 俺はたまらず、ベンチに横たわった…

 耳鳴りが酷い。

 頭が激しく痛む。

 百合の香りしか嗅ぎ取れ無い。

「お…お前一体何がしたい!?」

 固く瞑った目蓋の裏に、あの女が暗闇にもたれ掛かるよう座る姿。

 その女に向かって叫んだ。

 女はいつもの鼻につくような笑い方をしながら答える。

――思い出して欲しいだけ。二年の春のバットエンドをね

「バットエンドだあ!?今が正にそうじゃねぇか!!ああ!?」

――思い出して欲しいだけ。私の事を

「お前は漫画キャラだろうが!既に知っているだろう!!」

――思い出して欲しいだけ

「何をだよ!?何を思い出せっつうんだ!!言ってみろ!!」

 今の今まで聞こえていたあの笑い方が、ぴたりと止む。そして真っ直ぐに俺を見ながら言った。


――貴方が愛した女の子の事を。貴方を愛した女の子の事を


 俺が…愛した…俺を…愛した…?

 俺は目蓋の裏に映っている女を直視した。

 長いストレートの黒い髪。怖い程綺麗な顔立ち。

 俺が好きだった漫画キャラそのものだが、一点だけ違和感があった。

それは瞳。

 いや、やはり漫画キャラに類似した瞳だが、形の事じゃない。

 咎めているようで、慈しんでいるようで、悲しんでいるようで、怒っているようで…

 全て俺に対して向けている、あらゆる感情がその瞳にあった。


――私は私…

「お前は…」

――私は姿を借りている

「俺が好きだった漫画のヒロインの姿を…借りて…いる…」

――私は罪…罪の顕現化…

「だから悲しんでいるのか…?俺の罪を…知っているのか…?」

――貴方に罪は無い。あるのは私…

「俺の罪を知っているのか!?」

――私の罪は貴方の代わりに死んだ事…

 優しい瞳、綺麗に光っている瞳、俺を見つめるその瞳…

 俺は…

 その瞳を…

 知っている―――


「麻美……………」


 俺の記憶はそこで途切れた。

 その刹那、女が笑ったように見えた……


 ………


 少しばかり気を失っていたみたいだ。

 目を開けると、天井に張り付いている蛍光灯が入ってきた。

 上体を起こすと、掛かっていた布団が滑り落ちる。

 誰かが中庭で気絶した俺を保健室まで運んでくれたんだ……

 先生か?同級生ならヒロくらいしか俺を運ぼうとしないだろう。そして奴は中庭に来るような男じゃない。

「あ、気が付いた?」

 振り返ると、ドアの方から槙原さんがタオルを持ちながら歩いて来た。

 そして俺が寝ていたベッドに腰を掛ける。

「うん、やっぱり熱は無いね」

 冷たい手を俺の額に当てながら、安心したように言った。

「……誰が俺を中庭から運んでくれたの?ちゃんとお礼言わなきゃ…」

「ん?お礼なんかいらないよ?」

 槙原さんが笑いながら手をパタパタ振った。

 って…

「まさか、槙原さんが中庭から俺を保健室まで運んでくれた…?」

「うん。だって私保健委員だし」

 超ビックリだ!!

 槙原さんは決して体格のいい方じゃない。むしろ細い部類だ。

 その身体で、俺を担いで保健室に運ぶ事はかなり大変だった筈。

「ありがとうございます」

 俺は心から礼を言い、頭を下げた。槙原さんは慌てて再び手をパタパタ振った。

「だからお礼はいいって。保健委員の仕事だし」

「だって…去年の夏も中庭で倒れた俺を保健室に運んでくれたし…」

「え?」

「ん?」

 二人で首を傾げる。

 去年の夏、中庭で倒れた事は無かったが、何故か俺は知っていた。

 いや、記憶にあった。

 楠木さんと昼休み、弁当食っている最中に激しい頭痛が起こり、気を失って…

 いや…楠木さんと中庭で弁当食った事なんか無い…

 だけど、卵焼きを毎日一切れ貰って食っていた記憶がある…

「記憶が混乱しているのかな…もう少し横になった方がいいかも」

 促され、ベッドに横になる。

 槙原さんはやはりベッドに腰を掛けた儘だ。見ようによっては女子に押し倒され たように見えるシチュエーションだ。

「今何時だ?」

「放課後ちょっと過ぎたばかり。先生にはちゃんと言っておいたから心配しない」

「じゃ添い寝とか…」

「いいよ。付き合ってくれるなら」

 ………最早この手の冗談も言えなくなったな…

 告白される、告白すると言う事は、こう言う事だ。

 今まで通りの仲の良い友達関係をぶち壊して更に先に進むか、全部無くなってしまうか…

 この辺りが槙原さんと俺の覚悟の差だろうと、槙原さんは強いなぁと、心からそう思った。

 そんな事を考えていると、不意に蘇って来た背中の柔らかい感覚。

 あの漫画キャラ…本当に麻美なのか?

 麻美が俺に後ろから抱きついて胸を押し付ける真似をするのか?麻美が脚を絡めて密着してくるか?

「……そんな真似するような奴じゃない…」

「ん?」

 独り言で呟いたのが槙原さんの耳に入ったようで、小首を傾げて俺を見た。

「……槙原さんは可愛いし、胸デカいし、話せば楽しい」

「あはは~。ありがと」

「頭も良いし、勉強でも色々助けて貰って感謝している」

「勉強を見たのは私の事情だよ。緒方君に近付く為に、一番困っていた事に付け入ったの。それが一番手っ取り早かったからね」

 凄ぇな…こんなに正々堂々と己の利の為と言って、仮にも好意を抱いている筈の俺に嫌われるとか思わないのか?

「普通はさ」

 槙原さんは俺から視線を外し、天井を向いていきなり話題を変えた。

「入学直後、絡まられている見ず知らずの女の子を、上級生から助けないよ」

「だからそれは、俺が単に気に食わなかったから…」

「うん。緒方君が自分の為に助けてくれた事と、私が自分の為に勉強教えた事、同じでしょ?」

 ……俺に倣った、って事か…

 やっぱり凄ぇよ槙原さん

 俺はそれ以上発する事はできなかった。

 それから少しして、俺は槙原さんと一緒に下校した。

 槙原さんの家はここからやや遠かったが、保健委員の仕事だと、自分を良く見せる為だと言って俺を家まで送ってくれた。

 家の前に到着した時、上がって行くかと聞いた所、首を振って断られた。

「貞操の危機を感じるから」

「しねぇよ!俺を何だと思ってんだよ!」

「だって緒方君、私の胸しか見てないし」

「く…!そんな長距離弾道ミサイルみたいな武器を保有している方が卑怯なんだよ!」

「だから、いいよ。付き合ってくれるならね」

 …それを言われちゃ黙るしか無い。

 いや、付き合ってもいいと、むしろ付き合いたいと思っているが、一歩が踏み出せない。

「緒方君、好きな人いるでしょ?三人かな?」

「心を見透かすなっ!!」

 まあ、その通りだ。だから踏み出せないんだが。

 それにしても数までぴったり当てるとは、末恐ろしい…

「一人は不肖、私こと槙原遥香。一人はB組の小さい子、春日さん」

 ……当たっている…マジ凄ぇよ。だけど最後の一人は当たらないだろう。

「そして一番が…今はいない、中学時代、いや、それ以前からずっと好きな子…日向麻美さん」

 心臓が凍り付くかと思った。

 麻美の事を知っているのは、ヒロと朋美くらいの筈…

 呆然としながらも、情報収集がどうのとヒロが言ったのを思い出した。

「なんで麻美の事を…どうやって調べ」

「ストップ」

 槙原さんは手のひらを翳して俺の言葉を止めた。

 そして怖いくらいに真剣な顔つきになる。

「何故知り得たかは言わない。言ったら緒方君、正気じゃいられなくなる」

「お、おいおい…大袈裟な…」

「全然ちっとも大袈裟な話じゃないよ。私もかなり頑張って調べたからね。大沢君も此処までは知らないと思う」

 なんで此処でヒロが出てくる?つか、かなり物騒な話になったような…

 元より麻美絡みのあの事件、俺は正気じゃいられない。

 あの事件で俺はボクシングを始めて、関わった上級生全員病院送りにしたんだ。

 その後も姿を見かけたら追い込んでいた。奴等が卒業するまで、ずっと。

 おかげで一人を除いて、地元から姿を消させる羽目にまでなったんだ。

 奴等の親も異論は無かっただろう。

 自分の息子が麻美を殺した引け目から。

「考えている事解るよ。だけどそうじゃない。私が知ったのは根本。考えてみてよ?その程度の情報なら大沢君も知っているでしょ?」

 だから心を読むな。

 だが、まぁ、確かにその通りだった。

「私は大沢君にあまり良く思われて無いけど、説明はしない。だって大沢君は緒方君を一番心配している人だから」

 説明したら、ヒロもマジギレするってのか?

 益々謎が深まった感がするが…

 つか、何の説明だよ?

「だけどまぁ…」

 真剣な顔つきから一転、優しい笑顔に変わる。

「当面のライバルは春日さんだって事は変わらないかな?ちょっと狡い取引したけど、ハンディ埋める為だから許して貰いましょう」

「それ前も言っていたな?ハンデって?」

「去年の体育祭から緒方君の本命は春日さんでしょ?私より過ごす時間が長かったから。それがハンディ」

 だから狡い取引をしたと。今は同じクラスになれたから、過ごす時間がイーブンになるから、取引は終了したと。

 彼女達の間に一体何があったのかは知らないが、狡い取引とか黒い部分をカミングアウトしている槙原さんは本当に凄い。

 表無く付き合いたいと言う表れだと、帰り際に笑っていた。

「ちゃんと私の悪くて黒い所知っておいてね。付き合った後に、こんな女だと思わなかったと言わないように」

 ……この弁から推測するに、俺は槙原さんと付き合う事は確定のようだった。

 凄い自信だ。付き合ったら間違い無く尻に敷かれるなぁ、と、漠然と思った。


 その日の晩はあの女は出て来なかった。

 色々聞きたい事があるのに、肝心な時に出て来ねーとは。

 そんな訳で久し振りに目覚めもスッキリ、ロードワークの足取りも軽い。

 調子がいいと朝飯も美味いと感じる。

 中学時代から今まで、こんなにスッキリした事は無い。

 やっぱりあの女にストレスを感じていたんだなぁ、と確信した。

 つか、麻美と同じ瞳をしているから何だっつーんだ。

 麻美はあんな事しない。麻美はあんなにぱゆんとかしていない。

 ……やめだ、やめやめ。朝っぱらから何考えてんだ。

 頭を振って脳内の何かを追い払おうとした俺の視線の先、朋美が不健康そうな顔でトボトボ歩いているのが見えた。

 そうだ、ばいばいの意味を聞かなきゃならない。

 俺はゴルゴ13よろしく気配を消して、朋美の背後に回る。

 そしていきなり声を掛けた。

「オス」

 朋美は全くびっくりする事無く、ゆっくり俺に振り返り、直ぐ様視線を前に戻した。

「何無視してんだよ朋美?」

 肩に手を掛けようとした俺だが、朋美はその手を叩いた。

 流石にムッとし、無理やり腕を取る。

「何だよ?俺なんかしたのか?」

 朋美は俺を全く見る事無く、取られた腕を強引に振り解き、その儘一人で足早に歩いた。

 その後ろ姿を呆然として見送る。

「……ばいばいの意味は、そう言う意味かよ…」

 所謂絶交ってヤツだ。問題は何故絶交されたのかだが。

 槙原さんに言われた事が、朋美にとって許し難い事なんだろうか?

 つか、何か勘違いしていたし。

 いずれにせよ、機嫌の悪い女子に近付く事など、ヘタレの俺にはできない。

 モヤモヤした気分で校舎に入る。

 自分のクラスに向かう途中、春日さんの後ろ姿を発見した。

 春日さんは俺と話している姿を誰かに見られたく無いらしいが、俺は構わず春日さんを呼び止めた。

 普段なら絶対にこんな迷惑な事はしないが、朋美の態度にやはりショックを受けたようで、判断力がかなり鈍っていたんだろう。

 俺に呼び止められた春日さんは、軽く俺を見て、あからさまに避けるように視線を戻した。

「待ってよ春日さん」

 肩に手を掛けると、春日さんが止まる。

 ホッとした俺だが、途端に青ざめた。

 春日さんが微かに震えて涙を流したのだ。

「ちょ、ちょちょちょちょ!ちょっとっ!!」

 慌てて肩から手を離す。

 春日さんは俯きながら眼鏡を外し、袖で涙を拭って再び眼鏡を掛けた。

「……優しいね緒方君…だけど…もういいの…私…汚れているから…知っているんでしょ?」

「い、いや、何の事か全く解らない…」

 だが春日さんは首を振り、もういいから、もういいから、と繰り返す。

「……槙原さんに聞いたんでしょ…私に優しくしないで…」

 聞いた?何を?

「い、いや、俺が言われたのは…」

「……だから…いいから…」

 言い終えると同時に走り、教室に駆け込む。

 俺は周りの同級生の好奇な視線を一身に浴びながら、呆然と突っ立った。

 遠巻きに俺を見ている同級生の中から、一人の女子が近寄って来る。

 それは里中さんことさとちゃん。朋美の友達で俺の新しいクラスメイトだった。

「緒方君、ちょっと…」

 袖を掴まれて引っ張られる。

 俺は逆らう事無く、里中さんについて行く形になった。

 里中さんに連れられて到着した場所は、屋上に通じる階段の踊場だった。

 金属製の扉の向こうは屋上だが、鍵が掛かっていて、出る事は叶わない。

 そこで里中さんは真剣な顔付きで俺を直視した。

「…槙原さんに何を言われたの?」

「…朋美の豹変と関係ある事か?」

 黙って頷き、続ける。

「昨日電話が来てさ、槙原殺すとか、許さないとか…物騒な話の中、緒方君に喋りやがったとか、約束破ったとか言っててさ…」

 本当に物騒だな…

「だけど、俺は槙原さんに朋美や春日さんの事言われて無いんだよ…俺が言われたのは…」

 ……言うに憚れる…いや、別に構わないんだろうけど…

「何を言われたの?」

 里中さんの表情も怖い。その言い知れぬ迫力に押されて俺は言った。

「……槙原さんに告られただけだよ…」

「…………は?」

 今度はキョトンとした表情に変わる。

「だから槙原さんに告白されたんだよ。これが朋美の豹変や、春日さんがやけに傷ついているのと何か関係あるのか?」

「……いや…無い…と思う…けど…え?ええ?」

 やたらと腰を引いて驚く里中さん。そりゃそうだろ。俺だって信じられないんだから。

「告られた…うん…そ、そうなんだ…え?じゃ約束って何?」

 首を傾げて考える里中さんと共に、俺も首を傾げた。

「心当たり無いの?」

「皆無だ」

「それは困ったねぇ……」

「春日さんも朋美も、何か勘違いしているみたいなんだよ。春日さんに泣かれるし、朋美にはキレられるしで、困ってんのは俺の方だ」

 そりゃそうだと里中さん。頷きながら言う。

「朋美が言うには、槙原さんって相手の弱味を握って追い詰めるんだって。だから何か無理やり取引って言うか、約束させられたんじゃない?」

「それっぽい事は本人から聞いたよ」

「本人って槙原さん?」

 頷く俺。

「なんとまあ!!」

 大袈裟に仰け反りながら驚きをアピールし、直ぐに感心に転じる。

「それって自分の黒い部分好きな人に晒しているって事じゃない。凄いなぁ。一歩間違えれば振られちゃうよね。ハイリスクだね」

 そして小声で「 こりゃ圧倒的に負けたね」と呟いた。

 誰に対して、何に対して負けなのかは不明だが、槙原さんが凄いのには同感する。

「うん、解った。朋美にはそれとなく言っておくし、約束の事もそれとなく聞いておくから」

 いや、別に告白された事は言わなくてもいいような気がするが。

 だけど約束は気になる。

 だから俺は黙って頷いた。

「つか、そろそろ予鈴鳴る時間だ。教室に戻ろうぜ」

「あ、うん。そうだね。じゃ最後に…」

 わざとらしく咳払いなんかして間を作り、そして真剣な顔付きになる。

「立場上は槙原さんの事賛成できないけど、私は大沢と同じ意見。緒方君が良ければそれで良いと思うよ」

「立場上?なんだよそれ?」

「まぁまぁ。それは置いといて、むしろ触れないでスルーして。つまり私は緒方君がその子の事が好きなら誰だって構わないって言いたいだけ。大沢みたいに重く考えていないけどね」

 ヒロも確かに似たような事を言ってだが…

 つか、あいつは俺のお母さんか。

 ともあれ、今にも予鈴が鳴りそうだったので、そこで話を打ち切り、俺達は教室に足早に向かった。


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