二年の春~000

 クスクスクスクスクスクス…


 またか…


 またあの女が夢に現れたのか…


 高校入学を境に、ただでさえ浅くなった眠りを妨げる、あの耳障りな笑い声…


――ねぇ?起きてダーリン…?クスクスクスクス…


 恐らくは髪の毛であろう、そのくすぐったい感触を頬に感じる。


――あらあら、狸寝入り?仕方の無い人ねぇ……んっ…


 耳元で囁かれたと思ったら、背中に人が寄り添う感触を感じる。


 汗が出た。


 幽霊に添い寝されているなんて…


 平静を保とうと頑張るが、怖いもんは怖い。証拠に微かだが震えている。


――寒いのかしら?それとも私の体温が無いからかしら?


 花の香りが俺の身体に擦り込まれるんじゃないかと思った程に密着して来た…


 俺は心の中だけで叫んだ。


 いい加減にしてくれ!!何故俺に纏わり付く!?


――あら?おかしな事を言うじゃない?私の胸が望みなんでしょう?


 言いながら体温を感じない身体を押し付けて来る女…その感触はいつか感じた事のある感触だった。


――私の胸の感触に溺れていないで、起きた方がいいと思うわよダーリン?


 だからダーリン言うな…俺は幽霊と添い遂げるつもりは無いんだから…


 身体を固めて丸くなり、拒絶をアピールするも、女はお構いなしで続けた。


――今日から新学期じゃなかったかしら?奇跡的に留年しなかったのに、進級を無駄にするつもり?


 ……


「うわやべえ!!」

 ベッドから飛び起きる。そして慌ててカーテンを開ける。

「うぐ!!」

 辛うじて叫ぶ事は我慢できた。

 カーテンを開けた窓一面に、あの女が笑いながら映っていたのだ。

 腰砕けになり、ヨロヨロと後ろに下がる。

 机に背中をぶつけてしまい、拍子に目覚まし時計を床に落とした。

 それに一瞬目を取られ、再び窓を見ると、女の顔はもう無くなっていた…

「……なんだよもう…いい加減にしろよ…」

 脱力して時計を拾う。

「…まだロードワークは間に合うな…」

 俺は着替えながら思う。

 あの女…幽霊だろうけど、それは間違い無いんだけど…

 本気で怖いとは思わないんだよな…と。

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