第17話 在りし日々の追憶
それはまだVR部に最も、活気のあった頃の事である。
即ちまだ、真音の兄が生きている頃の事である。
夕暮れの人のいない部室に、二つの影があった。
「それにしても少し勿体無い気がするわ~コイツを封印しちゃうなんて」
「仕方ないだろ。正直に言えば俺も惜しい気はするさ!コイツはこの部の今までの総決算みたいなモノだしな。でも俺達は、なんつうか……勢いでここまで行き過ぎちまったのかもしれねえ……」
「……アンタの言う事も一理ある気はするわ。アタシも技術者として調子に乗り過ぎた感があるのよね。〝ひとの心を反映する〟システムを解析して、自作に組み込んじゃうなんて」
「しかも、このシステムの大元はアイツの機体のものだしな。アドバンスカップ大会本部の息の掛かった――」
「あの子はどうしてるの?」
「今はウチで妹の真音と遊んでるよ」
「そう。あらあら、まるでアンタと合わせたら親子みたい!」
「……冗談は顔だけにしやがれ」
「はいはい、アンタには順子という出来たばかりの彼女がいますしね~」
「……この腐れオカマ」
「これでロック完了よ。後はパスワードを入れるだけ。何にするかはアンタに任せるわ」
「そうだな……なら〝Justice to Believe〟で」
「アンタらしいわね」
そうして、その機体は部室のパソコンの雑用ファイルの中にひっそりと封印された。
――カグヅチβ
真音の兄の機体とは対になる機体である。
その機体は今は眠る。やがて来る目覚めの時を待って。
カグヅチ――それは日本神話に於いて、その身を焦がす炎で生まれ出た時に、生み親を焼き、死に至らしめた炎神の名である。
その神の名前を冠した機体が、もたらす未来を誰も知らぬまま。
バディドール (読み切り版) 白河律 @7901
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