第13話 再戦の時!



     6


 一日を置いた放課後に、真音と由良は街に一件だけあるゲームセンター『ゲームフジ』に来ていた。

 2065年現在、ゲームと言えばNTネットワークを介したものが殆どであり、ハードを通してのソフトや筐体という形でリリースされる事は稀であった。

 その為、ゲームセンターというもの自体が稀有な存在となりつつあった。

 『your enemies』の筐体が近年リリースされたのは、世界大会のイベントを考慮しての事に過ぎない。

 そんな中、『ゲームフジ』は経営者の最早趣味、もとい意向によって旧来の筐体のゲームが取り揃えられていた。その手のマニアからは『レトロゲーム博物館』とも呼ばれていた。

 ――薄暗い店内。並ぶ筐体。光る画面。

 真音達と同じように放課後に訪れた学生や、仕事帰りのサラリーマンがイスに座り画面と向き合っている。

 ――パズル、シューティング、対戦格闘、レース、アクション。

 今やチープとも取れるグラフィクのゲームの数々に熱中しプレイする様は、どこか奇妙であり、しかし懐かしい雰囲気を真音に感じさせた。

 部室でひとり、携帯ゲーム機をする事が多い真音だが、たまには来て昔のロボゲーをするのも悪くないとも思った。


 ――ただし、由良が隣でいてくれるならの話だが。


 ネットでも偶に語られるのだが、多少のお金が掛かっている所為なのか、昔からゲームセンターでの、特に対人モノではトラブルが絶えないらしい。

 それはゲームの殆どがオンライン化した今でも変わらない。

 一定のルールに則って他人と競う事、それ自体はスポーツと変わらないと真音は思う。しかしそういったスポーツに比べて、モラルという面で言えば低いようにも思えた。

 それは、何故なのだろう?

 スポーツとは違い、公の審判がいないからだろうか?

 たかがゲームである。むしろ、たかがゲームだからそう言った事になるのだろうか?

 ひとのモラルとは、それほどまでに脆いものなのだろうか?

 勝つ事はそれほどまでに、大事な事なのだろうか?

 店の奥の『your enemies』のドーム型の筐体に入る時、先日の事を思い出してやはり少し身体が震えた。

 同じように筐体に入ろうとしている由良を見ると、視線が合った。

 由良が頷く、いつもと変わらない表情で。


 大丈夫――由良がいてくれる。


 真音は大きく深呼吸をする。震えが小さくなる。

 筐体を閉めてから、コインを入れる。対戦受付ありのCPUモードを選び、それから密閉型のコンソールのシートに座った真音は、利き手とは違う左手の甲の皮膚の一部を捲る。

 捲った皮膚の下にあるのは、生体チップに通じる金属のジャック。

 そこにコンソールの脇から伸びるケーブルを繋ぐ。

 目を閉じると、真音はネットに接続する。


 【ログイン】――そのメッセージと共に真音の意識が、ネットへと潜り込んでいく。


 ネットに繋がる僅かに間に、真音はある映像を見る。

 それはいつも同じもの。

 父がいる、母がいる、それから――兄がいる。

 勿論、自分も。

 みんなでただ家の居間で、カレーを和気藹々と騒がしく食べている。

 それだけの――もう、ある事の無い日々の映像。

 真音の身体が【変異(シフト)】する――鋼の装甲で構成された巨人へと。

 カグツチ――日本神話に登場する、火を纏う神の名を冠する機体。

 由良のクラウソラスと共に、仮想の戦場に並び立つ。

 共に何戦か、エリルと戦うCPU戦をこなしているとけたたましいアラート、警告音がなる。

 【未確認機、確認】――乱入を知らせるメッセージがディスプレイに表示される。

 対戦相手が現れたのだ。



 「よう、一昨日ぶりじゃねえか?なんだ、またヤラレに来たのか?」

 真音と由良の前に現れたのは、二体のドール。サウダージとヤマトタケルである。サウダージの音声メッセージから、先日の相手である事が分かった。

 「……」

 真音は思わず、由良の後ろに下がった。

 「ええ、そうですね。先日とは違い、あなた方を完全にボコしに来たんですよ」

 しかし由良は動じる事も無く、悪態を吐く。

 「……言ってくれるじゃねえか。そこまで言うんだ、逆にボコされたらどうしてくれんだ?」

 「どうしましょうか?なんなら、リアルの方で身体を望みのままにして頂いても構いませんよ?それが出来るなら――」

 男達が口笛を吹いてから、下卑た声で嗤う。

 「そりゃいい、澄ました顔してスキモノかよ!バトルとか建前で本当はヤリタかったのか?」

 「あくまで、私達に勝てたらの話ですよ――」

 由良の声は、あくまで平静だった。

 「ちょ、ちょっと由良……」

 口を挟めず閉口したままの真音だったが、いつの間にか女の子として大事なものが賭けられている事に気が付いた。

 「なんですか、山田?」

 「そんな事、言って本当に大丈夫なんか……?」

 もしかしたらと思っていた矢先、本当に先日の相手と戦う事になり、ましてや色々と大切のモノを賭けた戦いになった事に真音の気は更に重くなった。

 「先日、話した作戦通りやれば、恐らく大丈夫ですよ」

 「でも……」

 真音の不安は消えない。

 「私を、信じて下さい――」

 由良の声色は変わらない。

 うちの相方はたまに剛毅過ぎるわ、前々から思っていた事を再び思うのだった。


     ◇


 先日とは違い、倒壊したビルなどが並ぶ廃墟のステージで戦闘は開始された。

 ステージを進みながら、レーダーを元に互いに索敵する。自分達に優位になるように戦場を進行していく。戦闘に於いて位置取りは重要なポイントである。

 幾ら機体が強力でも不意打ちを受ければ、短時間でも撃破される事もありうるからだ。特に高機動、高火力が主流となっている現在では、初撃が取れれば優位は大きいものとなる。

 エネルギー兵器が無い事で武装の射程で劣る真音達はビルの合間を通り、開けた広場は出来るだけ避けていた。射程外からの狙撃を防ぐ為である。

 先端を行くのは由良のクラウソラス。真音のカグツチよりは機動性に優れているし、何より経験の差を考慮しての事であった。こうした地道な索敵や進行ルートの選択は、一朝一夕で身に着くものでは無い。

 「山田、この先は――」

 ビルの切れ間で由良が止まる。

 マップを見れば、この先には大きな広場となっている。

 「――ああ、そうやな」

 由良の言おうとしている事が真音には分かった。

 レーダーには映らないが、この先に敵がいる可能性は高い。機動力で秀でている相手の方が射撃戦に於いては有利なのだ。それを活かそうとするなら、やはり広い場所を取る。

 ゲームを始めた頃は分からなかった事だが、由良とプレイし経験を積む事で段々とそれらの事が理解できるようになった。

 「由良、どうするん?」

 行くか、それとも迂回するか。

 「――行きましょう。相手の狙いがここなら敢えて、飛び込みましょう」

 由良の言葉に真音も頷く。

 由良が先にビル群から飛び出る。すると、その僅かに横をビームの光状が奔った。やはり、敵はいた。

 それに怯む事無く、由良はビームの放たれた方向にマシンガンのアンダーバレルのグレネードを連射で撃ち込む。

 放たれたグレネード群は幾つかのビルに当り、爆散する。

 仮想の構造物から、サウダージとヤマトタケルが爆風を避ける為に飛び出てくる。

 そこからは開けた広場で、目視距離での射撃戦が展開された。由良と相手二体による実弾とビームの応酬。

 二対一となれば優位は本来、相手にある。ましてや、機体そのものの機動性や武器の弾速も相手に分がある。

 しかし、由良には当たらない。

 二体のビームを細かくブーストを吹かしてジグザクに、あるいは空中を跳ねてこれらを躱す。時には、ビル群に飛び込む事もある。その上、要所ではマシンガンを相手に射掛ける。

 由良の圧倒的な技量が、状況を五分にしているのだった。

 まるで踊っているようだ。真音はその動きを見て、そう思った。


 戦闘舞踊――由良はやはり凄腕のランカーなのだ。


 一方、真音はというとビルの影から殆ど姿を見せる事は無く、カグツチの余剰エネルギーを拳のカバーから光弾化して撃ち出す攻撃〝フレイムショット〟を撃つだけだった。

 〝フレイムショット〟は弾速の遅いエネルギー武器である。真音の技量もあって、全く相手には当たらない。

 (うちって、ショボイわ~)

 しかし、真音がメゲル事は無い。

 これもまた、真音の技量を元に由良の立てた作戦の内であった。

 命中精度の低い相手に、敵は目を向けない。

 放置していても弾は当らないし、下手に出て来るようなら撃破すればいい。

 それよりも由良を抑え込まなければ、自分達が危ういのだから。


 そこに――真音は撃ち込む。


 「〝フレイムボム〟や!」


 フレイムショットよりも大きな、しかし弾速の遅い光弾が飛ぶ。

 相手は難なく回避する。

 しかし、その途中で光弾が爆発した。

 「「――!」」

 予期しない爆発に二体の回避機動が乱れる。

 すかさず、そこに由良のマシンガンが放たれる。

 弾を受けた二体は致命傷には至らなかったが、確かに被弾した。

 この事に自分達の不利を感じたのか、二体は分かれて――サウダージは真音に、ヤマトタケルは由良の方へと接近を図ってきた。

 「分断する気か――」

 連携で不利なら性能の差で、一対一(タイマン)に持ち込み個別撃破を狙うつもりなのだろう。

 鋼鉄のドールの顔で、目で真音達は頷き合う。

 これも由良の立てた作戦の通り。

 二体は離れて、タイマンの形を取った。

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