第15話 HEATS

    8


 由良と別れた真音もまた、交戦をしていた。

 空中を飛行するサウダージのライフル、背部のキャノンからビームの光状が次々と奔る。

 「ひええー!」

 それを真音は必死に躱していた。

 僅かに掠めたビームが地面に着弾して爆発する。その度に自分の身体でもあるカグヅチが震える。それでも、何とか直撃は避けていた。


 当初、都市部という狭い地形では飛行性能を生かしにくいと考えた真音は、狭い路地を駆けながらサウダージを追った。

 しかし、これが功を奏する事は無かった。

 逆に建物や障害物を生かされ、離されてカグヅチには装備されていないライフルで細かく撃たれ、手も足も出ない状態となっていた。

 こうなると使い勝手の悪い射撃武器しか無く、機動性で劣るカグツチは先日と同様、一方的な試合へと追いやられつつあった。


 「少しは変わったかと思えば、全然じゃないかよ!旧式使いの女子高生さんよ!」

 銃撃の最中、相手からヤジが飛ぶ。

 (やはり追い付けない……)

 この状況に、男の声に真音は心が竦みそうになる。また逃げ出してしまいたくなる。

 それでも――


 (――逃げへんって決めたんや!)


 真音は強く奥歯を噛みしめる。

 それから両腕の大型シールドで全身を覆うように構えると、その場で腰を落として地面に踏ん張った。

 「おいおい、何だよ?自分から的になろうってのか?」

 真音の取った行動は近年の対戦のセオリーからは、完全に外れたものであった。

 避けて当てるのでは無く、わざわざ攻撃を受けようというのだから。

 一昔前なら、下手に避けず殴り合いに持っていく事で装甲の硬さを生かし、紙一重で勝つという事も出来た。しかし高機動、高火力の近年では何の意味も為さない。アウトレンジから撃たれ続けるだけだ。

 「なんのつもりか知らねえが、盾の上から潰してやるよ!」

 真音へと光状が集中する。ライフルのビームが着弾し、盾の表面を焼く。

 (まだや、まだや!)

 盾とはいえど被弾し、機体が震え、ビームの熱を感じる度に真音は焦りそうになるがそれでも踏み堪える。

 (カグツチを、由良を信じるんや!)

 昨日聞いた由良からの作戦を思い出す。


 連携で優位が取れた場合はその後、もし相手がタイマンを仕掛けて来たら受けましょう――

 その際、どうしても相手に追い付けない時は、まずガードを徹底して下さい。カグツチならライフル程度は耐えられるから――


 現に盾は破壊されず、またカグツチ本体までは攻撃は届いていない。

 (そうやった……普段のCPUとの戦いでも、これくらいの攻撃ならカグヅチはずっと耐えてきたんや!)

 思い出してみれば普段の練習の際の、大型のボスの攻撃はもっと凄まじい。

 「ちっ!硬いだけが取り柄の旧式風情がよ!」

 業を煮やした相手が、ライフルより威力のある背部のビームキャノンを展開する。僅かだがライフルよりは発射が遅い。

 (ここや!)

 その隙を真音は見逃さなかった。


 それから敵が、隙が生じる背部キャノンを使おうとした時には、そこに――

 コインロボでの私との対戦を思い出して下さい。例え、平凡な攻撃であっても大きな隙には――


 「アンカーショットや!行け!」

 (――大きな隙には攻撃を差し込む!)

 カグヅチの腰に装備されたアンカーショトを射出する。

 鎖で繋がれた楔状の装甲の一部が、サウダージに飛ぶ。

 「なあ――?」

 不意を突かれた相手は、射撃を中断しアンカーを回避しようとしたが完璧とはいかなかった。直撃こそしなかったが、ライフルを弾き飛ばされた。

 「ド素人のマグレ当りなんぞ!」

 サウダージはソードを腰から引き抜くと、カグヅチにブーストを吹かし急接近を図った。真音に振り上げられる鋼鉄の刃。

 「うああああ――!」

 真音は引かない。逆に踏み込んで、右の拳を大きく振るった。

 「んあああ――!」

 その拳が相手の顔面に突き刺さる。クリーンヒット。

 細見のサウダージは大柄で近接型のカグヅチの一撃を受けて、大きく吹き飛んで地面に倒れた。

 「はあ、はあ……」

 真音は大きく肩で息をする。小刻みに機体が動く。

 先日を含めて、初めて通った一撃。無我夢中で繰り出した攻撃だったので、真音の胸には喜びや安堵は無い。ただただ、無心だった。

 「どうやら、状況は優勢のようですね」

 「由良!」

 そんな真音に声が掛けられた。

 声がした方を見れば、目立った損傷は見えないクラウソラスの姿が見えた。

 「アイツ、またヤラレタのかよ!あの、ドサンピンが!」

 相方の撃破を悟った相手が、姿を見えない相方を詰った。

 「どうしますか、降参します?」

 地面に倒れ込む相手にライフルを向けながら見下ろして、由良が問い掛けた。


 「そうだな、ここらで降参……するかよ!クソアマ共が!」


 サウダージは身を起こすと、素早く真音の背後に回り込んで、身体を抑え込んでブレードを首筋に押し当てた。

 「あわ、あわわわ――!」

 急な事態に真音は対応出来なかった。為す術も無く拘束される。

 「おい、そっちの青いの!相方が悲惨な目に遭う所を見たくなかったら、武器を捨てて投了しろ!」

 相手は真音を人質として、由良を恫喝する。

 「あなたという人は――そこまでして勝ちたいんですか?」

 マシンガンを真音の背後の相手に向けながら、低い声で問い掛けた。


 「当たり前だろ!勝てば、何でもいいんです!何をしてもいいんです!勝負なんだから。それが許されているんです!」


 相手はそう言い切った。

 「――このゲス野郎」

 バイザーに覆われた機械の顔でも、真音には由良が怒りに震えている事が分かった。

 相手の言葉は真音でも、最低だと思った。まるでロボ作品なら大抵、最初に出て来る三下が言うようなセリフだ。

 「それよりも約束は覚えてるよな?お前らが負けたら、身体を好きにしてもイイってヤツ。少ーし腹立ったから、まずはクソ生意気なテメエからヤッテやるよ!俺のモノを舐めさせてから、気を失うまでブチ込んでやるから覚悟しろ!」

 「マジで最悪、コイツ」

 由良が冷たく言い放った。

 それから由良はマシンガンを降ろすと〝真音〟を見て言った。


 「――真音!こんな最低で最悪の腐れチ○ポ野郎に、このまま負けていいのか?」


 由良の声が響く。


 「私達には〝夢〟があるだろ!その為に、これまで練習もしてきただろう!それでも試合には負けるかもしれない!けれど今ここで、こんな三下に負ける訳にはいかないだろう!」


 鋼鉄の身体となっても、首筋に押し当てられた凶刃の冷たさに震えていた真音に響く。


 「――戦え、真音!」


 「おい、いい加減に黙れ!」

 相手がヒステリックに叫ぶ。


 (――うちだって負けとうない。少なくとも、こんなヤツに負けとうない!いや、絶対負けたく無い!)


 「――ウチは負けない!」


 拘束されたまま真音が叫んだ。

 その時、視界のディスプレイに文字が表示された。


 【バーストモード、発動可能】


 それを見た真音が再び、叫ぶ!


 「バーストモード、発動!」


 その瞬間、カグツチは燃えた。


     ◇


 「カグヅチ、イッツ、ショウタイムー!」


 カグヅチが燃える。

 グレーと黒の装甲、盾の一部が可動してそこから、炎を噴き出す。

 真音の戦うという闘志に呼応するかのように、赤い炎を吹き出し続ける。

 炎を纏う機械の巨兵――あるいは〝カグヅチ〟その名前が示す通り、日本神話に登場する火竜の如き威容だった。


 「アチ、あちい――!」

 噴き出した炎をカグヅチの背後にいたサウダージは、マトモに浴びる事になってその熱さに転げ回りながら離れていった。

 「なんだ、何なんだよ!その姿はよ!」

 離れた所から、カグヅチの姿を見た相手は――震えていた。恐らく、自身も知らない内に。

 今、自分の前に立つのはこれまで見たことも無い姿をした機体だった。

 機械、それは本当に鋼鉄で出来た人形ドールなのか?

 何故、そうも燃えているのか?


 ――それは、かつて真音と同じように弱かったかもしれない相手には、もう理解出来ない事だった。


 「畜生が!」

 地面に転がっていたライフルを拾うと、相手はカグヅチに連射した。

 しかし、その攻撃は真音が炎を噴き出す盾を僅かに構えただけで四散した。

 「は?」

 訳が分からず、連射するが結果は同じ。その内に気が付く。攻撃そのものが当たる以前に弾かれている事に。

 それは現実的には在りえない事かもしれない。熱量を持ったビーム兵器と、炎が混じり合えば爆発のひとつも起きるかもしれない。

 しかし、このゲームのプログラムの上では〝相殺〟として処理されていた。

 「今度はこっちから行くで!」

 真音が地面を蹴り、ブーストを吹かして突撃する。

 その突撃を相手はこれまでと同様、軽く回避しようとした。しかしカグヅチの速度はこれまでの比では無かった。

 バーストモードを発動したカグヅチの出力は大きく向上する。その事でブーストの速力も上がっているのだ。

 突撃からの右ストレートは辛うじて躱したものの、二撃目の左ボディは直撃。

 大きく体勢を崩したのを見て、真音は一気に畳掛ける。

 「フレイムナックル!」

 腕から噴き出す炎で、加速させた拳を顔面に――

 「フレイムキックや!」

 ――続け様に、これまた噴き出す炎で加速させた蹴りを、胴体に連続して叩き込んだ。

 「ゲベ!ウゲー!」

 連続して重い打撃を受けたサウダージの、各所の装甲は大きく凹んでいく。

 その事で生まれる痛みに耐えきれず、もんどり倒れた。


 「これで終いや!カグヅチ、ファイナルステ―ジ!」


 勝負の幕を引くべく、真音はカグヅチが出せる最高の威力のある最大の技を繰り出そうとする。

 腰のアンカーが射出され、地面に突き刺さる。そうして機体が地面と固定される。それから全身に纏わる炎が右手に集約されていく。右の炎がこれまでの何倍にも膨れ上がっていく。

 「うおおおお―――!」

 一点に集約されたエネルギーが獰猛な唸りを上げて、解放の時を待つかのように猛る。カグヅチの大柄の身体さえ激しく振動する。その暴力的な熱量を制御するには、アンカーを通じて機体を固定するしか無い程に。

 「うあ、うあああー!」

 巨大な炎が自身に向けて飛んで来る事を悟った相手は、腰が引けたまま身体が震えるままに起き上がり、よろめきながら飛行して逃げ出そうとした。

 もう少し、もう少しで逃げられるかもしれない。そう思った時だった。

 「――逃がさない」

 衝撃、背部のウィングに被弾。大きく失速する。

 見れば、クラウソラスが自身にハンドガンを向けていた。


 「――大人しく往生しなさい」

 由良が言い放つ。


 「フレイム!バスタ―――!」


 真音の叫びと共に、カグヅチのセンサーアイが一度、大きく光を増す。

 同時に熱量を溜めたカグヅチが拳を振う。踏み込んだ右足が地面にめり込む。

 次の瞬間、空を落ちるサウダージに紅蓮の炎の帯状が飛んだ。

 それはさながら、巨大なビームの様。あるいは火竜の火炎の息吹。


 「ド畜生が―――!俺が、オレがイっちゃうの――!」


 相手は断末魔を残して、炎に呑まれていった。

 そして、花火のように派手に爆散した


 【――勝者(ウイナー)】


 真音と由良の視界のディスプレイに文字が浮かぶ。

 こうして、ここに結着は着いたのだ。


     ◇


 「由良――!」

 戦い終えた真音は、少し経って自分の勝利の余韻を噛み締めた後、感情のまま自分ポッドを飛び出した。そして、同じようにポッドから出てきた由良に抱き付いた。

 「うち、うちやったで!うちら勝ったんやー!」

 「ええ。まあ山田にしては今回、頑張りましたね」

 興奮のままでイマイチ呂律の回らない真音に対して、由良はいつものように冷静だ。それでも真音を抱き締め返す。


 その影で敗北した後、意識を取り戻した対戦相手が見る影も無く、密やかに消えて行ったのを由良は見えていた。

 これから出会う事は、恐らくない。

 尤も、もう出会いたくもないが。


 「由良、由良!」

 真音は由良の胸に顔を埋める。

 まだ完全に熟れきってないとはいえ、柔らかい果実。恐らく形がいいのだろうと真音は思う。

 背中に回していた手を、そっと前に――限りなく自然に胸に当てて指を立てる。

 「ちょっと、山田」

 声が聞こえたが止まらない。

 男子がやったら色々、大問題だが女の子同士なら(多分)大丈夫だろう。

 そのまま、指を動かす。やっぱり柔らかい。

 ふにふに、ふにふに――

 「や、ヤメロ!山田!んっ!」

 僅かに零れる甘い声。

 こうした百合な甘い雰囲気に、ゲームセンターの周囲の視線が集まる。

 表だっては見れないので、チラチラと。

 「由良は多分、近い内にもっと育つ筈や~」

 自分の平坦に近い胸の事は忘れて告げる。


 「うちが由良の胸を育てる!」


 宣言までしてみる。


 「――そうか」


 その時、絶対零度のような声が響いた。

 見上げれば、永久凍土のような由良の眼差し。

 「ひえ!」

 真音は危険を感じて思わず、飛びずさろうとしたが間に合わなかった。


 「――テメエの罪の数を数えろ!」


 振り上げた由良の手刀が、真音の頭に振り下ろされた。

 「いやあああああ~!」

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