(第10話)地味にスパイちっくな舞台を探せ!(後編)
日本国内で最もスパイちっくなニオイに満ちた組織といえば、法務省の下にある公安調査庁がダントツ一位かと思います。
公安調査庁は国内外のアカン団体の動向を見張るのがお仕事で、なんでも
おおう、CIA並みにエキサイティングな世界! とてもオフィスラブが入り込む余地はなさそうです。
しかも、公安調査庁の「主要ターゲット」は、政治運動やらテロ活動の香りがする国内団体。実在のアカン政治団体をネタに使ったら話が政治色を帯びてしまいそうで、ノンポリの私としてはなんだか嫌だ。かといって、「架空のアカン政治団体」の設定なんて、ノンポリの私には全く想像できません。
テロ系団体を持ってくればなんとかテキトーにお茶を濁せる感じもしますが、テロ系団体を出しておいてアクションシーン皆無では、それこそ「テロレベルで看板倒れ」との誹りを受ける予感しかしない。
ああ、スパイちっくな「ニオイ」だけする地味なトコロはないのか!
米国の国防省みたいな、ワタクシ的に都合のいいトコロはないのかあ!
……と、独り叫んでいましたら、ありました。しかも、身近なところに。
中央官庁なのになぜか霞ヶ関ではない所にポツンとある某A省は、米国防省のカウンターパート的な存在です。五角形の建物が印象的なあちらさまに比べると、いたってフツーの外観をしていますが、お国の防衛政策を担っているというトコロは同じ。専守防衛というポリシーでも、それなりにいろんな秘密に満ちているのは間違いない。
そういえば、このお役所の下には、名前だけいかにも怪しそうなヤツがあったっけ。確か「情◯本部」とかいう……(検索よけのため一部伏せ字)。
情◯本部は、前話登場の米国国防情報局(DIA)をモデルに作られているそうで、公式サイトによると、「電波情報、画像情報、地理情報、公刊情報などを自ら収集・解析するとともに、……各機関……から提供される各種情報を収集・整理し、……我が国の安全保障にかかわる動向分析を行うこと」がお仕事なのだそうです。
つまり、エキサイティングすぎるHUMINTはやっていない。もっとも、「公刊情報など」という文言の「など」が意味するところは不明瞭なので、もしかしたらもしかするかもしれませんが。
HUMINTを前面に出さず所掌範囲も安保・軍事情報に特化している、という点では、確かに情〇本部は本家(?)DIAに似た大人しそうな組織であろうと期待できます。商業ベースのフィクション界ではイマイチお見掛けしないという地味さも、本家そっくり。
あ、いらん話ですが、本家と分家は部隊章もかなり似ています。
本家の部隊章が
「青地の中央に『地球と地球の周りを回る衛星の軌道みたいな赤い線二本とたいまつ』が配置され、その周囲を十三個の星が囲んでいる」
というデザインなのに対し、
分家のほうは
「青地の中央に『地球と地球の周りを回る衛星の軌道みたいな赤い線二本と鳥のキジ』が配置され、その周囲を稲妻と十二個の星が囲んでいる」
というデザイン。
二つの画像を見比べたら、きっと八割近くの人が「これ、まさかのパク……」と呟きかけるのではないかと思います。ちなみに、本家は1961年、分家は1997年の設立です。
ただ、情〇本部は、本家DIAと同じく、「集めた情報を解析・分析し、政策決定に役立つ戦略情報を作成して政府に提供する」というミッションを担っています。つまり、政府の政策決定の現場に間接的に関与しているのです。そういう意味では、地味どころか、人目に付かないトコロでかなりの影響力を持っていると言えます。
政策決定の舞台裏は概して地味な秘密がいっぱいです。なぜなら、政治絡みのハナシは、何をするにも水面下での根回しが一番大事だからです。味方の頭数が揃わないうちに企みが外に漏れたら、あっという間にメディアにリークされ、敵対勢力に煽られて大変な騒ぎになってしまいます。
したがって、情報そのものもさることながら、その情報を「誰が握っていて」「何をしようとしているのか」という状況自体が、立派にスパイちっくな性質を帯びることになるのです。
ふうむ、この情〇本部をお話の設定に拝借して政策ネタをちらっと入れれば、ハンドガンともナイフともカーチェイスともヘリコプターとも無縁の世界で、おじさんとヒロインが「秘密の共有」に至るまでの舞台を構築できるのではなかろうか。
しかも、政府中枢とはやや距離がある「情報機関」が主要舞台なら、作中に政治家とか悪徳官僚とか国会とか政治闘争とか難しいファクターを出さなくても許してもらえそうだし。たぶん。
というわけで、年の差恋話の舞台には某A省情〇本部という設定でいくのが良かろうという結論に達しました。いやあ、めでたし、めでたし。なんだかもう物語をひとつ完結させたような達成感を覚えます。
これでやっとキャラ設定の作業に移ることができる。リアルの「情◯本部」は三色の制服と背広が入り混じった組織なので、その設定もいただいて、うちのダンディおじさんは「自衛官」といたしましょうか。昼間は制服でバシっと決めて、夜は優しげなスーツ姿。ええわぁ(ヨダレ)。
……と、すっかり妄想爆発でおじさんキャラの設定を考え始めたところ、ふと、大事なことを思い出しました。
調子こいて、すっかり「当局」の存在を忘れてた。
たとえ趣味の物書きでも、実在団体の名前を出したお話をネット上で人目に晒すとなれば、やはり書きたい放題はマズかろう。図らずもイメージを損なうような書き方をして当局関係者の目に留まったら面倒なことになりそうな気がしてならない。
実際、第8話(Ⅰ)に書いたとおり、部内の人間が某巨大ネット掲示板で職場の悪口を書きこんだら、別の同業者がそれを発見してしかるべき部署に通報し保全問題になっちゃった、なんて事案も発生しているわけですし。油断大敵であります。
某A省は国内治安には原則ノータッチなので、一般市民に対する捜査権や逮捕権はありません。
しかし、某A省には警察庁から出向しているキャリアがいます。ゆえに、某A省と警察の間に「非公式」なパイプがあることは容易に想像できます。
内部部局(某A省の中枢)の課長級ポストにいる警察庁キャリアになると、出向期間終了後は小規模県の県警本部長にご栄転というくらいの立場だそうですから、そんな公安エリートが出向時代に知り合った某A省の友人から依頼を受けて「鶴の一声」なんか発したら、トップダウンで調査が入り、あっという間に身元を特定されて怒られそう……。
やや神経質な気もしないではないですが、そんな可能性を完全に否定できない限り、用心に越したことはありません。
ちょっとセコいけど、検索よけも兼ねて、お話の主要舞台となる職場の名称を若干いじっといたほうがいいかなあ。組織構成もちょこっと変えて……。これなら、万一当局に見つかっても、「これ、どっかの組織に極似かもしれないけど、あくまで架空の組織っすよ!」って言い張れるに違いない。
その一方、「某A省隷下の情報機関」という設定さえ変えなければ、たとえ組織名称がリアルと一文字二文字違ってても、主要キャラたちが働く職場の雰囲気や職務内容などは、文字数をさほど費やさずともそこそこイメージしてもらえるに違いない(やや希望的観測)。
うむ、「実在組織の認知度を利用しつつ、架空と言い張れる組織」とは、我ながらなかなか無敵な設定なのではないかっ! これでゆくべし!
もっとも、「某A省」「自衛隊」というキーワードは付いたままなので、この二つの実在組織のイメージを損なうような書き方をしていると見なされたら……、という不安は依然として残ります。
拙作のおじさんキャラは「イケメンで優しくていい人けど不倫しちゃう家庭持ち自衛官」というビミョーな設定なんですが、大丈夫かなあ。
当局関係者サマ、私は間違っても貴当局をディスるつもりはありません。どうか大目に見てやってくださいませ。
そ、それに、貴当局に所属している二二万人超の制服サマの中に、不倫している人の一人や二人は現実にいらっしゃいますでしょ……(問題発言)。
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