(第11話)おじさんの年齢設定は難しい(2)-制服さんの特殊な事情


 世の中には「公務員は安定してるからいいよね」なんて思ってる人たちがいるようですが、そんなことはないと声を大にして申し上げたい。


 組織そのものの存続は安泰かもしれませんが、そこで働く個々人は、部署によってはかなりブラックな環境で働いています。

 国家公務員の場合、国会待機のかかる部署では国会会期中は深夜であろうが日付が変わろうが「待機解除」が出るまで決して家には帰れませんし、国会待機のない部署でもサービス残業大盤振る舞いな所はたくさんあります(詳しくは拙作「ちっちゃいけど、お国を守ってるつもりです。」第2章の「聞いていない話(3)」をご覧ください)。

 実際、そういう職場で報われぬ激務に耐えかねた方々が心身を壊して退職するケースはそれなりにあります。


 そこそこ健やかな部署で元気に働いていたとしても、落とし穴はたくさんあります。組織的スキャンダルが発覚した時にスケープゴートにされて退職に追い込まれた人、上司のパワハラで転職を決意した人、報道関係者が混じる酒の席でポロっと秘密事項を口走りデカデカと報道されて懲戒免職になった人……。

 ちょっと思い出しただけでもポロポロと出てきます。まあ、最後のは自業自得ですけれども。



 しかし、自衛官の場合は、これらの落とし穴を回避できても、そのほとんどが六十歳まで勤められずに退官の憂き目に遭うのです。なぜなら、自衛隊は「精強さを保つため」という理由で若年定年制を採用しているからです。


 制度上六十歳まで働くことができる自衛官は、将官職であるしょう(中将及び大将)と将補しょうほ(少将)の階級にある人だけです。

 その他一般の制服の方々は、医療関係者や音楽隊及び情報業務に(専門的に)従事する者として指定された人たちを除き、おしなべて五三〜五六歳の間に定年退官していきます(「人事異動で数年ほど情報系の部署を経験した」というケースは「その他一般」扱いです)。


 したがって、「自衛官」という設定のうちのおじさんを五十代後半にすると、自動的に「将官職のお偉いさん」という立場になってしまうのです。

 将官の方々はホントに雲の上のお人でして、二十代の若い職員が気軽に接触できる相手ではありません。一目惚れ&片思いならあり得るかもしれませんが、相思相愛になる隙などまったくもって皆無です。


 では、おじさんを「五十代前半」とした場合はどうでしょう。


 超エリート自衛官たちが将補の階級におなり遊ばすのは、だいたいの場合、実は五十歳前後です。ゆえに、若い職員が身近に接触できる五十代前半の制服さんは、ほぼほぼ「将官にならずにあと数年で定年退官」という立場になります。


 この点を考慮に入れた上でおじさんを五十代前半に設定すると、彼の立場は「真面目に働きそれなりに何かをやり遂げ、まもなく現役を退く自衛官」というトコロになるでしょう。

 一方、設定年齢を四十代後半まで下げて階級を「1佐」にすると、彼は「まだまだ上を目指すエリート幹部」という役どころに変わります。


 先の見えたおじさんとの哀愁漂う年の差恋と、将官職を目指すエリートおじさんとの身分差(?)プラス年の差恋。読み物としてはどちらが楽しいですかね?


 私が人生経験&執筆経験の豊かな人間なら、「先の見えたおじさん」を渋カッコよく描いてのヒューマンドラマを書き上げるトコロなのですが、あいにく私はトシだけ豊かな煩悩の塊。やはり、後者の方がヨダレ……、もとい、刺激的です。

 そうだ、どうせなら「うちのおじさん」を自衛隊トップである幕僚長の候補と目される超エリートってことにしてしまえ〜(←煩悩MAX)。


 というわけで、リアルと煩悩の導くトコロにより、「うちのおじさん」の年齢は四十代後半に決定いたしましたです。



 ただ、「四十代後半」という年齢設定には、ひとつだけ気になることがあります。

 それは、これを書いている現在(2020年初頭)、現実世界における日本人四十代男性はキョーレツな初代ガンダム世代であるということ。


 本編「カクテルの紡ぐ恋歌」の第6章「日垣貴仁の過去」で、うちのおじさんは「防衛大学校を卒業し、要撃管制から情報畑に転向した」という経歴を語っているのですが、リアルに考えると、ガンダム世代の彼はきっと、防大時代に教官に怒られて殴られたら「親父にも殴られたことないのに!」って叫んでますます怒られたに違いない。

 新米幹部として部隊に配置されて早速ボケをかましたら「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを……」とか呟いて下士官勢からひんしゅくを買っていそうだし、防空レーダーを見ていてロシアから何かが猛スピードで日本の防空識別圏に迫って来るのを発見したら「通常の約三倍で接近中!」って絶対言ってそうだし、もしかしたら続けて「見せてもらおうか、(ロシア)連邦軍の新型戦闘機の性能とやらを」って長々喋ってスクランブル遅らせたりしたかもしれない。そして、空に上がる戦闘機乗りさんに「新型なんて聞いてない」と悪態つかれたら「あなたならできるわ」って返して「キモー!!!」ってことになってたりして……。

 そんな彼が出世して隊長職かなんかに着任して個室をもらったら、間違いなく部屋のどこかにガンプラいくつか飾ってる。ああっヤダヤダ(寒気)。


 そういえば、「カクテル…」本編でもうちのおじさん個室を持ってる設定だっけ。ヒロインがおじさんの部屋に書類か何か届けに入ってガンダムのプラモだかフィギュアだか見ちゃったら、100年の恋も冷めるのではなかろうか……。


 あかーん!

 拙作内ではガンダム禁止! 

 普段はリアリティ重視のワタクシですけれども、絶対、絶対、ガンダムは禁止!




 

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「じ」で始まる業界の小ネタ集①-おじさんが好き物語「カクテルの紡ぐ恋歌」編 弦巻耀 @TsurumakiYou

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