第10話 地味にスパイちっくな舞台を探せ!(前編)
「情報機関」というと、アヤシイ小道具を持って人様の家に忍び込んだり、何かを盗んだり、緊急時には敵さんとドンパチやったり、という人たちが勢ぞろいしている図を想像しますが、そういう工作員系の皆さんだけで情報組織が成り立っているわけではありません。
そもそも大半の「情報」は、人様の話を盗み聞きしに出かけたり捕まえた敵に自白剤を飲ませたりして得るものではございませんです。
でっかいアンテナで暗号無線をキャッチして解読したり(ある意味これも盗み聞きではありますが)、衛星からターゲットを撮影してその写真を解析したり(ある意味これは盗み見みたいなものですが)、さらに地味なところになると現地の一般報道レベルの情報を収集したりして、そういう中から使えるものを抽出していくのです。
ゆえに、「情報機関」と呼ばれる組織には、でっかいアンテナがある建物の中でひたすら電波情報を解析している人や、衛星が送ってきた写真と一日中にらめっこしている人や、新聞雑誌などの記事をひたすら読んでいる人が、必ず存在しています。
一方、ガチなスパイ活動をしようとすれば、まずは工作員を訓練する必要がでてきます。工作活動に必要な小道具も調達しなければなりません。工作活動を実行するにあたっては、最前線に赴く要員をサポートする通信システムも不可欠のものとなるでしょう。
となると、教育訓練を専門に行う部門、必要な備品を調達・開発する部門、通信技術に携わる部門も要る、ということになります。
さらには、上記もろもろの部門に人をどれだけ配置するか、人件費と諸調達費はどうやって管理するか、という話も出てくるので、人事部や経理関係の部署も必要になる。そして、ここまで組織が大きくなってくると、日々の事務処理を円滑に進めるための専用スタッフも用意しなければならなくなり……。
考えれば考えるほど、「情報機関」に所属するデスクワーク系の人員数は、どんどん膨大になっていきます。
組織の中で意外と情報が集まるのは、官民限らず、実は総務系の部署であろうと思われます。というのも、地味なイメージのある総務には必ず、「おエラさん方のお世話」という極めて地味な仕事が含まれるからです。
この一見やりがいのなさそうな「おエラさんのお世話」というミッションをなめてはいけません。
おエラさんたちは極秘情報にアクセスできる立場にある人間です。彼らに近い所で日々働いていれば、そのテの情報に意図せず接してしまう可能性は十分にあり得ます。
ボスがぽろっと口走った「微妙な話」を小耳にはさむかもしれないし、ボスの個室にコーヒーを持っていった時に机の上に散乱している極秘資料をチラ見するかもしれない。ボスを訪れる客人もVIPぞろいでしょうから、ボスのスケジュール管理をしているうちにヤバいニオイをかぎつけてしまうことだってあるかも……。
ましてや、当のボスが「情報機関の長」だったりしたら、転がってるネタのスパイちっく度はますます高くなるのでは。
……と、考えますと、「情報機関の総務部系」というのは、前話の「ハンドガンもナイフもカーチェイスもヘリコプターも出て来ない、それでもスパイチックな舞台」という条件にぴったりなのでは! よっしゃ、これでちょっと詰めてみよう(安直)。
情報機関が登場するフィクション作品には、実在する組織を堂々とネタにしているものと、架空の組織を設定しているものとあります。当局(?)の目を恐れず好き放題に書くのなら、後者の路線で行くのが何かと安全というものでしょう。
しかし、架空の組織を一から設定するとなると、その設定説明も一からやらねばならなくなります。
「ミッション・インポッシブル」のようにスパイアクションがメインの話なら、ストーリーの大半は「職場の外」で展開されることになりますので、主人公が属する情報機関の設定が大雑把でも、その設定説明が極めてあっさりしていても、さほど気にはならないかもしれません。
でも、私が書きたいのは、情報機関の総務セクションを舞台にしたおじさん好き妄想趣味全開の年の差オフィスラブ系。おじさんとヒロインの二人が勤める職場の描写はそれなりに多くならざるを得ないので、どうしても職場として設定する「情報機関」の詳細なり雰囲気なりをある程度説明する必要が出てきます。
文字数を食わずに本題の妄想話、もとい、年の差ラブストーリーを展開するには、やはり実在組織をこっそり拝借したほうがよりスマートにちがいない。
外国の情報機関をお話の舞台にすれば、当局に見つかって怒られることもないかなあ。
外国の情報機関といえば、真っ先に思い浮かぶのは、英国秘密情報部のMI6や米国中央情報局(CIA)でしょうか。
しかし、この二つはあまりにもキョーレツすぎる。舞台設定のインパクトにメインストーリーが負けてしまうパターンになるのは必定。ああ、もう少し地味な情報機関はないものか。
……などと間抜けなことを考えていたところ、ふと、その昔に所用で米国の国防省を覗きに行ったことを思い出しました。通称ペンタゴン、シャバでは国防総省と表記されることも多い、米国の国防政策全般を担っている連邦政府機関です。職業柄(?)、秘密ネタはそれなりに転がっていそうですが、政治色の強いミッションに従事するCIAと違い、さほどド派手な工作活動をやっているイメージはありません(実際どうかは知りませんが)。
さらに、国防省の管轄下には「国防情報局(DIA)」なるものもあるのですが、この組織が活躍しているフィクション作品はすぐには思いつきません。世間一般での知名度はかなり低いのでは……。
国防省にしても国防情報局にしても、名前だけはいかにもな感じなのに、CIAに比べたら百倍は地味。ううむ、このあたりなら年の差恋話の舞台に拝借してもいいかもしれぬ。職場のニオイも現地で少しだけ嗅いでるし(やや意味不明)。
……と、ほくそ笑んでおりましたら、いざ主要キャラクターを考える段になって、重大な壁にぶち当たりました。キャラが「外国の街に暮らす外国人」という設定は、物書き初心者の私にとっては恐ろしくハードルが高すぎるのです。
まず、住んだことのない街の情景を描くのがツライ。
国防省に行った時は車移動だったので周辺の街並みはほとんど記憶にないですし、国防省にほど近いワシントンD.C.をうろうろ見物したのもわずか数日間という有様。とてもお話の舞台をリアルに描写できる知識はありません。
そしてなにより、異なる文化圏に属する人間を描くのがツライ。
米国産アニメを見ていると、たまにキャラクターのセリフの中にキリスト教ネタやシェイクスピアネタが入っていて、それが日本人の私にはイマイチ分かりにくい、という体験をするのですが、米国の文化的基盤に疎い私が「米国人」という設定のキャラクターを無理やり書いたら、おそらく異様に日本人くさい米国人キャラが生まれてしまうでしょう。
大学在学中に「キリスト教概論」と「シェイクスピア概論」を勉強していれば、もうちっとリアリティのある米国人キャラを書けたかもしれませんが、何しろ怠惰な学生だったので、どちらも食わず嫌いで履修すらしませんでした。勉強は何でもしておくものだなあ、と今頃になって後悔しております。
海外を舞台とする設定は不可能。となると、非常に恐ろしいことながら、国内に実在する情報機関っぽいトコロをネタにするしか選択肢はないわけで……。
(後編に続きます)
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