本戦1 観音開絃四郎VS一本松夏実

出会いはパンをくわえた朝の遅刻から♡ その1

※理想のシチュエーション


「きゃ〜‼︎ ちっこく、遅刻ぅ〜」


あたしの名前は一本松夏実いっぽんまつなつみ、白鳥沢学園高等部に通う二年生。

ただいま青春真っ盛りの十七歳です。ビシっ‼︎


今日こそは遅刻しないように目覚ましかけたのに……。また遅刻ギリギリの時間になっちゃった。

もうっ! ママったら、目覚まし鳴り止まなかったら起こしてって言ったのに‼︎


「夏実ちゃんを無理矢理起こすのかわいそうだから」


なんて、言うんだもの。優しすぎるのも考えものだわね。


のんびり屋のママを急かして焼いてもらったトーストをくわえていざ登校‼︎


「夏実、気をつけるんだぞ」


「ありがとう、パパもゆっくりね」


今日はたまたまフライトから帰ってきてたパパと二人で仲良くお見送り。

航空機のパイロットをしているパパは忙しくて、家にいないことが多いんだけど、今日は久々にお休みで家でゆっくり過ごせるみたい。


「ママ、今日の朝ごはんは格別だね」


「久しぶりのパパとの朝ごはんだからはりきったの」


あーあー、子どものことなんかお構いなしに二人で仲良くしちゃって。

もう年頃の娘の前でやめてよね。


でもね。

内緒だけど、本当はすごく羨ましいって思ってる。

パパとママはあたしと同じぐらいの歳に出会って、お付き合いして結婚したの。


パパはすごくハンサムでサッカー部のエース、学校の人気者でモテモテ。

ママは本当はかわいいんだけど、ビン底メガネをかけてるような地味な子だったの。元々引っ込み思案で、そんな格好なもんだから学校では全然目立たなかったんだって。


そんな二人が何で出会って結婚したかって?

うふふ、やっぱり気になっちゃうよね。


それはある日の朝、遅刻しそうなパパとママが曲がり角でごっつんこ‼︎

メガネを落としたママにパパが一目惚れ、それから猛アプローチが始まったんだって。


結ばれるまでには色々大変だったみたいだけどね。


実はママのことがずっと好きだった幼馴染の男の子との確執、パパに恋してた学校のマドンナからママへの嫌がらせ、せっかく結ばれたのにパパが記憶喪失になっちゃったりとか、たくさん試練があったけど、晴れて結ばれてあたしと妹が生まれたんだ。


パパもママもお互いが最初で最後の人で、まさに運命の出会いだったわけ。


素敵だよね。

小さい頃からずっと聞かされてるママとパパの少女漫画みたいな出会いに、あたしはずっと憧れてるの。


こうして遅刻しそうになって走ってたら、運命の王子様にぶつかったりしないかな、なんてね。

そんな、都合よくはいかないよね。


今日もいつもどおり、あそこの曲がり角を普通に通って学校にギリギリ間に合う。

3、2、1……っと。


「ほーらね、曲がっても何にもない‼︎ 」


やだ、あたしったらつい独り言を。

ばかばか、あたしのおたんちん‼︎

誰にも見られてないよね?


……よかった。誰もいない。


ブツブツ独り言を言ってるところなんて見られたら、お嫁に行けなくなっちゃう。

さあ、気を取り直して学校に急がなくちゃ。


ドンっ‼︎


「きゃあっ‼︎ 」


「うおっ‼︎ 」


後ろから誰かぶつかって……、転んじゃう‼︎


「あぶねっ‼︎ 」


「……‼︎」


あれ、転んでない?

顔から転んでズル剥けコースだと思ったのに。


「おい、大丈夫か? 」


男の子の声がする。

あたしの腕を掴んで引っ張ってくれたから、転ばずに済んだみたい。

あたしは前のめりの膝立ち状態で固まってた。


「悪い、急いでて全然前見てなかったんだ」


「……あー‼︎ 」


転びそうになった時に口が開いたせいで、あたしの朝ごはんは地面に落ちていた。

ひどい、お昼まで腹ペコになっちゃう。


「ちょっと! あんたのせいで朝ごはん食べ損ねたじゃない。どうしてくれるの‼︎」


「はぁ? こっちが謝ってんのに、何だよその態度。お前こそ道のど真ん中でぼーっとしてんじゃねえよ」


「何ですって?! 」


あたしは相手の腕を払って立ち上がり、ぶつかってきた張本人の顔を見ようと振り向いた。

目の前には顔がなくて、見慣れた学ランがあった。

どうやら同じ学校の生徒みたい。


「朝メシくわえて走るなんて、どこのドラ猫だよ」


声のする方を見上げると、日に焼けた肌に彫りの深い顔立ちが目の前にあった。

嫌味ったらしく笑ってるけど、顔は整っていて正直かっこいい。

そんな顔と距離が近すぎて、あたしの顔は一気に真っ赤になる。

恥ずかしくて、反論の言葉も出ない。


「……?どうしたんだよ、ドラ猫。急に黙って」


「ど、ドラ猫じゃ」


「まあ、いいや。モタモタしてると遅刻するぜ。これやるから機嫌直せよ」


そういって男の子はポケットから何かを出すと、あたしの手に乱暴に乗せた。


「じゃあな、ちゃんと前見て歩けよ」


「きゃっ」


楽しそうに笑いながら、あたしのおでこを人差し指で軽く小突くと、学校に向かって走り去ってしまった。


「な、何よ。あいつ」


いきなりぶつかって来たと思ったら人をドラ猫呼ばわり、何て失礼な奴なのかしら。

いくら、ちょっとかっこいいからって……。


え、嘘?!

何でこんなに心臓がドキドキするの?

顔が熱いままなの?

あいつの顔見てから急に。

これってまさか……、ううん。絶対違うもん!

これは、そう! 転びかけてびっくりしたから動悸、息切れしただけよ‼︎

家に帰ってママに救◯もらえば治るはず。


あんなやつに恋するはずがないんだから‼︎

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