番長なんてかわいくない‼︎ プンスカプンプン‼︎

「相ヶ崎くん」


「はい」


赤魚鯛あこうだいさん」


「はい」


「飯田橋さん」


「はい」


「石田くん」


左文字町出身の生徒が多いせいか、3文字の滅多に聞かない名字が続く。ここまで続くと石田が逆に珍しいぐらいだ。観音開も相当変わった名字であるが、この学校では珍しく感じなくなってしまう。


「一本松さんは……今日も休みと」


(一本松? 今一本松と言ったか?)


みやびが聞き覚えのある名字を呼ぶ。

一本松とは先ほど頭突きで死にかけ、なぜか絃四郎を罵った女子生徒ではなかったろうか。


「なあ、ホクソン。一本松ってB組の子じゃないのか」


名前と一緒にクラスもそう言ったはずだ。

絃四郎は隣のホクソンに小声で質問してみる。


「ああ、お前あいつに絡まれたんだもんな」


ホクソンは溜息をついて、憐れむように絃四郎を見る。


(……ホクソンもか、何でみんなこんな反応なんだ)


みやび以外の生徒は夏実の名前が出ると、なぜかこうなる。


「さっきのは姉貴の一本松夏実。このクラスには妹の一本松冬花がいる」


「へえ、妹がいるのか」


「一度も学校に来たことないからよく知らないけどな。双子って噂だぜ」


「あの一本松ってどんな子なんだ? 」


「一本松夏実はな、簡単に言うとこの学園の番長なんだ」


「ば、番長⁈ まだそんなものがいるのか? 」


現代では久しく聞かない響きに絃四郎は驚く番長は学校で喧嘩が1番強い生徒がなり、他校の番長と舎弟を従えて喧嘩をする。

知識として知ってはいるが、ヤンキーブームの時代ならまだしも、そんな役割が現代でも存在するとは思わなかった。

しかも番長と呼ばれているのは、どう見てもヤンキーとは言い難い女子生徒。


「ここも田舎だからさぁ。剃り込み、長ラン、ボンタンっていう感じのヤンキーが結構いるんだよ」


「??? 」


ホクソンの口から出てくる単語を全く理解ができない絃四郎。


「あ、オレの言ってることわかんないか。オレらの親が若い頃に流行ったヤンキースタイルなんだけど、未だにこの近辺の中高にはそんな時代遅れの格好して喧嘩やってる奴らがいるんだ」


「その不良どもと、一本松にどんな関係があるんだ? 」


「それはな、半年前の話だ。この学園にもそういうヤンキーはいたんだけど」


ホクソンは親指を立てて、首の前で横に引く。


「全員一本松夏実にボコボコにされた」


ホクソンは噂で聞いた一本松夏実とヤンキーの抗争を語り始めた。


※※※


あたしの名前は一本松夏実。

もうすぐ高校2年生になる16歳です、ビシッ‼︎

1年経ってやっと馴染んだクラスからもう変わっちゃうなんてザーンネン。今とってもブルーな気分なんだ。せっかくクラスの女の子たちに昭和乙女チックな文化を広めたところだったのに。

もう恋の話とか、今日の星占いとか手紙で回せなくなっちゃうなんて悲しいな、ぐすん。えすえぬえすとかいうのよりも、スリルのある手紙回しを楽しんでもらえるようになったのにぃ。


そうそう……恋の話。クラスの女の子の中にはもう彼氏がいる子もいて、初チューとか、初デートとか、もう話の甘酸っぱさがすごいったらないの‼︎ これぞ10代の恋って感じなんだ。

あたしも話しを聞く度、そんな恋がしたくてたまらなくなっちゃって……。だから今日も恋を探し求めて三千里‼︎ 王子様を見つけるためにがんばっちゃう‼︎

今日探してるのは王子様っていうよりは騎士ナイトって言った方がいいかもしれない。これまでずっと探し求めていたのは、運動部のエース、学年トップ、学校の人気者とか少女漫画の王道彼氏みたいな男の子だったんだけど、もっと他の可能性も探ろうと思ったの。

だって王道っぽい男の子たちって、話をする前にぶつかっただけでみんな気絶しちゃうんだもの。

で、色んな漫画読んでたら喧嘩に明け暮れるかっこいいヤンキーと恋に落ちる女の子の話があったの。腕っ節の強い彼が、他校の番長にさらわれた女の子を助ける姿がカッコ良くて……。

あたしビビビッときちゃったんだよね。次はこれだって。着崩した学ランにリーゼント、傷だらけになっても女の子を守ろうとする姿にシビれちゃった。

思い立ったが吉日‼︎ うちの学校でもあんな格好してた子たち見かけたことあるんだよね。

ということで、あたしみたいに昭和の文化を愛するヤンキーくんたちが集まってる体育館の裏に来ちゃいました‼︎

体育館の裏ってやっぱり何かが起こる定番よね。

抜き足差し足忍び足、まず様子見でこっそり近づかなきゃ。さあ素敵なヤンキーボーイたちはどこかしらっと。

……いたいた。5人もいる。みんなリーゼント決まってるぅ‼︎ あんなところにう◯ち座りして何やってるのかな?

何か空のビニール袋を何度も吸ってるみたい。あれは……‼︎ 噂に聞くあんぱんってやつね。昔はシンナーを吸うことをあんぱんって言ってたらしいけど、初めて見た。シンナーって吸いすぎると歯がボロボロになっちゃうんだよね……。顔も思ってた感じの人はいないっぽいし。あの人たちはきっと舎弟なんだ。かっこいい番長はここにはいないのか……。どっかで今日も喧嘩をしてるのかしら?

あの人たちなら番長の居場所知ってるだろうから、聞いてみよ。


「あの〜すみません」


「あんだ、このアマ」


うわぁ、やっぱりみんな歯がボロボロになっちゃってるよ〜。でも、すっごく怖いけど聞かないと恋に辿り着けないもの、夏実ファイト‼︎


「番長さんはどこですか? 」


「番長になんの用だ」


「えっと、どんな人なのかなって」


「なめてんのか、てめぇ」


「ひっ! そんなとんでもないです」


「まあ、そうカッカッすんな。マサシ」


「お、小此木さん」


あ、このイキってる舎弟を諭す感じ。この声の人がきっと番長なんだ。さっきは遠目からで他の人と見分けがつかなかったんだろうな、もう夏実のドジ‼︎ もっと王子様を見分ける確かな目を養わなきゃ、帰ったらブルーベリー100個ね。

番長さんってどんな人なのかな? 理想としてはビーバッ◯ハイ◯クールの時の仲◯ト◯ルさんみたいな、クールな顔立ちをしていてほしいな。あとは幽◯白書の浦◯幽◯くんみたいな、かわいくてちっちゃいのに、粋がってるのもいいなぁ。リーゼントにしてない時のギャップもたまらないしんだよね。

さあ、王子様とご対面‼︎ あたしだけの番長さんはどこ⁈


「俺が番を張ってる小此木だ」


「え? 」


……あれ? ト◯ルさんと幽◯くんは? 見当たらない。何か意味わかんないこと言ってる金髪に緑のラインが入ったリーゼントがいるけど。こんな奴、あたしの番長像と程遠い。

本物の番長はどこにいるのかな。


「なかなかマブいじゃねえか」


「……番長はどこ? 」


「は? 」


「とぼけないで、本物の番長はどこにいるの?」


「だから俺が」


「違う、あんたなんか少女漫画に、乙女の夢に入って来れるビジュアルじゃないわ。熱血◯派く◯おくんでモブでもやってなさいよ」


「喧嘩売ってんのか、コラ‼︎」


「うるさいな、もう‼︎ 黙りなさい‼︎ 」


「ぐえっ」


「ま、マサシ‼︎ 何だ今の? 鎖鎌か」


「あ〜ら、手元が狂ってごめんなさい。黒電話のコードブンブン回してたら当たっちゃった」


「てめえ‼︎ 」


「さあ番長の居場所を言いなさい‼︎ 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る