レンジローバー
17.
ハンドルが左に付いた高級外車の助手席に座って、輝かしい街の明かりを見ていた。
激しい雨が降り、霞に包まれたように薄暗く、夜の遊園地のような光が飛びかっている。
「きみ、大学行くの?」男が前を向きながら、いい加減に言う。
「行きます」僕は、窓を向いたまま答える。
「へえ、どこの? 頭良いんだね」
「どこへ進学するかも聞かずに、頭が良いかどうかなんて分からないでしょう?」
「高卒よりは、良いんじゃないの」
「一体、何が言いたいんですか?」
「俺は大学を中退したから、高卒。だから、俺よりは頭良いと思うよ」
「なんのために、比べるんですか?」
男はニヤニヤと笑う。何がおかしいのだろう。
「きみ、姫ちゃん好きなの?」と男は表情を戻して言った。目の周りの筋肉が動く。早かった。
「分かりません」と僕は答えた。
「わかりませんって、自分のことだろ。男が照れてもキモいだけだぞ。言えよ」男の語調は強くなっていた。
「貴方が気持ち悪くても、僕はなんともありません。存分に気持ち悪がってください」
「その受け答えがキモい」
「よかったですね」
僕は、窓の外へ視線を転じる。光り輝く公道は、小さい頃に一度だけ行った遊園地みたいだ。公園の前には、深夜バスが止まっている。
「で、もう、したの?」
気味の悪い語感に、寒気を覚えて男の顔を覗くと、頬にえくぼができていたので睨みつけた。
「何を?」
「理屈っぽいんだなぁ本当に、面倒くさいって言われない? モテないだろ?」
「誰にですか?」
「ああ、もう、いい! 俺が悪かった、悪かった。ごめん、ごめん」
僕は車の扉を開けて飛びだそうかと思った。もしくは、男の煙草を取り上げて赤く光る炎をその手にこすりつけてやりたかった。
でも、結局どちらもできずに右手に顎を載せて、眉根を寄せるだけだった。
「きみね、あの娘は苦労するよ」
男は囁くように言った。妙になまめかしい、優しい声だった。
親のようだった。
「気の毒にね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます