第10話
「うつわ、ぬいの分はどこですの?」
「ほら」
「ありがとうございますのよ!」
うつわが腰を下ろしていた木の根っこ、その隣にちょこんと腰かけたぬいがあむあむと美味しそうに携帯食を食べる。あんまり美味くないのによく食べるなと思いつつ、うつわは1パックを完食した。
それを見てあわてて口に詰め込み、むせたぬいに白湯を差し出す。呆れた目でそれを見ているうつわ。こきゅこきゅと喉を鳴らしてそれを飲むと、息を吐き出すぬい。ふぁとひと息ついて、ぬいはマグカップをうつわに返しながら礼を言った。
「ありがとうございますのよ。うつわ」
「ほら、さっさと始めるぞ」
「え、もう始めるんですの?」
「早め早めに終わらせろってのがじいちゃんの遺言だ」
「うつわのおじいさまは2人ともお元気だったような……」
「いいから始めんぞ」
そう言うと、うつわは来ている服をどんどん脱いでいく。と言っても、下に海水パンツをはいているため、脱ぐのはジーパンと半袖だけだったが。
ちらりと横眼でぬいを見ると、それを恥ずかしげもなく見ていた『ぬい』としてもう見慣れたものなのだろう、着替えの時も一緒に居たのだから。
やおら立ち上がると、ぬいは自分の黒の絣に手をかける。しゅるりとどこか艶めかしい音がして帯をほどかれると、行衣姿になる。うっすらと透ける行衣の下に確かにわかるほど白い肌が見えて、ぎょっとしたのはうつわだ。
「何してんだ、あんた!?」
「ぬいも滝行するんですのよ?ご一緒するんですの!」
「一緒?」
「一緒!」
にこっとまぶしいほどの笑顔をうつわに見せつけながらぬい。うつわはそれよりも肌の透けている行衣が気になって仕方ない。胸のところ、ぼんやりと色が透けるそれがなんかだなんて考えたくもない。見てはいけないものを見てしまった気分だった。
ぬいの頭上に輝く周囲の緑とほぼ同化している透明な矢印に何とか視線を固定させるもどこかそわそわして仕方ない。
「あそこの滝の下の石に座って、るふれりかと心の中で唱え続ければいいんですのよ」
「それだけか?」
「ええ、そうですの」
「じゃ、行くぞ」
海パン一丁にスニーカーからビーチサンダルに履き替え、朽ちかけたつり橋をそろそろと慎重に渡る。正直に言おう。超こわかった。
一足踏み出しただけでぎいいいいいいいと今にも落ちるんじゃないかという音を立てる橋に、おそるおそるもう体重を乗せてみればばきっと音を立てて木片が下の激流に落ちていった。
これはいけないとおもわず真顔になり、ダッシュで滝のもとまで駆けたのが良かったのかその後は特にみしみしいうだけだった。それを見ていたぬいも真顔になって、うつわと同じようにダッシュしてきたとき。持ち物は持ち主に似るんだなととどこか逃避気味に考えていた。
ついたとき、ぬいはぷるぷると震えながら赤い目には涙をためていた。
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