るふれりか

小雨路 あんづ

プロローグ

 この世は、うつわが見るこの世界は。矢印にあふれかえっている。


 それは例えば隣に住む幼なじみからうつわの兄へ向けて、例えば父から母に向けて、また逆もしかり。


 それらは好意という赤い矢印で対象に向かって頭の上でただまっすぐに伸びているのだ。

 幼少期、サッカーをしながら遊んでいるときに友達に


「なぜあんなに可愛い幼なじみがいるのに好きにならないのか」


 と聞かれたときに、うつわは正直に答えた。



「だって矢印が向いてないから」


 と。

 あの矢印が見えないのかと。あんなに大きくて真っ赤な矢印を他者に向ける相手をどうやって好きになれと言うのか。当時のうつわは本気でその友達に問いかけたかった。


 結局友達はなんだそれと言いながら笑って流してくれたものの、それが極真っ当な反応だということに気付いたのはそのすぐ後だった。

 

 友達が赤い矢印を向ける相手が出来た時に、その大きさに、赤の濃さにうつわは言ったのだ。


「そんなに好きなら告っちゃえよ」


 もちろんなぜうつわにばれたのかわからない友達は問いかけた。なぜわかったのかと。その時に


「そんなに赤くて大きな矢印出しといて何言ってんだよ」


 笑ったうつわに対して友人が向けたどこか異質なものを見るまなざしにうつわは気付いたのだ。


 この矢印はうつわ以外の誰も見えることはないのだと。その時は冗談だと笑ってごまかしたものの、うつわは一生友達のあの目を忘れることはないと思った。

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